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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第一章 ポアロイル旅楽隊
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第十三話 下衆の巣

 縄を取りに馬車の中に戻ると、ソルダット以外のみんなが顔を見合わせて、あれこれと話をしていた。

 ソルダットはいびきをかいて寝ている。


「ちわーっす! 三河屋でーす」

「……?」


 は? って感じの視線を一身に浴びる。

 おっと、この世界じゃ通じないか。


「えーっと、縄はどこに?」

「おれも手伝うっす」


 するとモリスが、床の上に置いてあった縄を掴んで、元気よく立ち上がる。

 縄はもう準備してあったんだ。

 用意周到だこと。

 まあホワイトの実力を知ってれば、あんな盗賊どもに手こずらないのは明白か。


「おっけ、じゃ行こうぜ」


 入ってきた天幕の隙間から再び外に戻ると、ぽつりぽつりと小雨が降り始めていた。


「おーい! 持ってきたか?」


 ホワイトは散り散りになった盗賊たちを一カ所に集めていた。

 全員見事に伸びきっている。

 ……死んだヤツもいるのかな?


「ういーっす」


 モリスはおれを追い越してホワイトの方へ向かう。

 おれは少し離れたところで立ち止まっていた。

 だって伸びてるとは言え、まだ少し怖い。


 モリスとホワイトは見事な手つきで盗賊たちを縛り上げていく。

 途中、気絶してるフリをした盗賊がナイフを抜いてホワイトに襲いかかるという、ヒヤリとするシーンもあったが、彼は難なくいなした。

 そしてワンパンで沈める。

 まさに慣れた手つきってやつだ。


 盗賊全員を縛り上げると、押し車を出してその上に乗せた。

 そんなものどこにあったんだ?

 押し車に乗せ終わると、盗賊の一人がハッと目を覚ました。

 そして辺りをキョロキョロと見回して、縛られている自分に気づく。


「……クソッ! しくじったか」


 しくじるも何も、ホワイトの小石で一発だったんだけどね。

 盗賊もこれは相手が悪かったと思うしかないだろ。


「よし、そんじゃマスクでも取るか! ガハハ!」

「わ、よせ!」


 必死に抵抗する盗賊を無視し、ホワイトは馬鹿笑いしながらマスクを剥ぎ取っていく。

 すこしドキドキするな。

 何かこう、人が必死に隠そうとしている顔をさらけ出させるという背徳感。

 おれも近くに行ってみる。

 見学だ。

 変な趣味に目覚めてしまったんだろうか?

 いやいや、多分期待しているんだろう。

 綺麗なお姉さんが紛れてることに。


 最後の一人のマスクを剥ぎ取ると、おれの願望を神に聞き入れてくれてたのか、とてもとても美しいナイスバディーのお姉さん盗賊が……


 ……いるはずもなく。

 それはそれは見事にムサいおっさんだった。

 まあそうだろうな。

 実際、女盗賊なんていないのかもしれない。

 おれは結構好きなんだがな。女盗賊。

 この世界、剣と魔法の世界みたいだし、いてもおかしくないとは思ったんだけどな。

 いても少数派ってところだろう。


 こいつらの素顔を見た途端、そういうワクワクしたテンションは鳴りを潜め、こいつらの汗臭さだけが残った。

 こう改めて見ると、全員が完全な小汚い大男だ。

 さっき起きたヤツ以外、すこやかな顔で眠っている。


「あんたたち、アジトはどこなの?」


 おっと。

 いつの間におれの後ろにアカネとジェフがいた。

 アカネは盗賊を怖い顔で睨みつけてる。


「フン!」

「今起きているのはあなただけみたいね。

 正直に場所を教えてくれたら、あなただけを解放してあげてもいいわよ。

 ただし、その場所に到着するまでは放さないけど。

 どうする」

「……ッ!」


 アカネが何やら交渉を始めた。

 魅力的な提案に盗賊も迷ってるようだ。

 しかし、


「ハッ! そう言って結局アジトまで案内させて解放しないつもりだろ!」


 そう思うよな。

 でもここまではよくあるパターンだ。


「あなたがどう思っても構わないわ。

 とりあえず私は提案しただけで、もしあなたが信用できないと思うのなら勝手にしなさい。

 嫌だというならもう言わないわ。次の街で騎士団に突き出す。

 ただ後から怖じ気づいてやっぱり教えるとか言うのはナシよ。

 わたしたちも急いでるんだから」


 まさに台本通りってやつだな。

 でもこいつらのアジトが分かったからってどうするつもりだ?

 残党もひっ捕えて、報酬上乗せとか。

 それはないか。せこすぎる。


「くっ……」

「もう出発しなきゃ。ホワイト、こいつ喚いたりしたらうるさいんでボロ切れでも噛ませといてちょうだい。

 出発してから教えるとか言われても面倒だし。

 口を塞ぐのが一番ね」

「ガハハ! 任せときな」

「ま、まて! わかった!」


 エグいですねーアカネさん!

 ついに折れたみたいです。


「言う気になったの?」

「……ああ、約束は守ってくれよ」

あなたたち・・・・・次第ね」




-------


 その後、進行ルートを逸れて馬車に揺られる事約二時間。

 荒野で時々見られる枯れ木が突然多くなったように感じる。

 昔は林か何かだったのかもしれない。

 おれは天幕に覆われた薄暗い馬車の中から、外を見ていた。


「ここだ」


 外から盗賊の停止の合図が聞こえた。

 しばらくして馬車が止まる。

 今馬車を操縦しているのはホワイトだ。

 その横にボウガンをもったモリスが控える。

 おれはモリスに車内待機を厳命された。

 外から彼らの会話が聞こえてきた。


「先輩、こいつぶん殴ってやりましょう。

 ここ罠だらけっす。正規のルートはここから三十メートルほど左です」

「へへへ、そうかそうか。よーし」

「ま、まて! 違うんだ!」

「何がだ?」

「む、むこうは馬車が止められないんだ!」

「ふむ、どうだモリス?」

「いや、嘘っすね。そっちに大きな荷馬車が入ったっぽい轍が見えるっす」

「な、なにを……ギャ!」


 バコっと盗賊が殴られる音が聞こえた。

 ここまで来て罠にかけようとするとか、往生際が悪いな。

 モリスがいるから、罠だろうが奇襲だろうが問題ない。

 安全を確認したところで、アカネとセレシアとジェフが馬車から出る。

 おれも出ようかな。


 外に出ると、枯れ木の林は想像以上に綺麗だった。

 葉の無い枝は太陽を遮らずに、林全体を明るく照らしている。


「先輩、むこうの少し大きめの木の根元っす。

 不自然に転がってる大岩の影に穴があるっす。

 穴の中がアジトっぽいっすね。

 中の大きさはよくわかんないっすけど、そんなに大きくないっす。

 それから中に三人います。

 気をつけてください」

「オッケーまかせろ」


 ニヤリと笑う口元からは真っ白な歯が光る。

 歯はホワイト、なんつって。


 そしてさっきの戦いで使ってた棒を持って、音もなくぴょんぴょんと跳ぶように穴に向かって走っていった。

 ここからじゃ穴は岩の影になって見えない。

 その岩の上にホワイトが到着。

 穴を上から確認しているのか。


 少しの間観察した後、ひょいと向こう側に跳び降りて、ホワイトの姿が消えた。

 静寂が辺りを包む。

 おれは一体盗賊のアジトで何をするかわからない。

 移動中にアカネに聞いてみたが、着いたらわかるって言うだけで教えてくれなかった。


「……」


 盗賊が緊張した様子で見守る。

 何があるんだ?

 何かがあるのは確実っぽいけど。


 ホワイトが潜って一分ほど経過した。

 背の高い枯れ木の枝を眺めていたら突然おれの視界に何かが映り込む。

 それは一定の速度を保ちながら飛行し、バキバキと枯れ木の枝を折りながらこちらに接近してくる。

 しかし、徐々に速度を失い、ついには地面に落下した。

 そして地面にぶつかる際、「グヒッ!」と言った。


 何かと思ったら人間だ。

 筋骨隆々な大男だ。

 なるほど、残党か。

 落下の衝撃で気絶したっぽい。


 ……しかしこいつ、なぜ全裸なんだ。

 そう、一糸まとわぬ姿で穴から飛び出してきたのだ。

 ホワイトがぶっ飛ばしたのか。

 服もホワイトに剥ぎ取られたとか?

 おっと、まさかそんな趣味はないよな?


 あ、そうだ。モリスの話じゃもう二人いるらしい。

 てことはあと二回全裸の大男が降ってくる可能性があるのか。


 と、くだらない事を考えてると岩陰から動く影が見える。

 背が低いのか、頭が見え隠れしている。

 少し遅れてホワイトの黒い頭がぬっと出てきた。


 彼はこっちを向くと、手招きをした。

 その顔は珍しく笑ってない。

 真剣な表情だ。

 盗賊との戦闘でもこんな顔しなかったのに、一体なんだ?

 怪我したとか?

 残りの二人はどうしたんだ?

 おれ達が小走りで向かおうとすると、こっちに手のひらを向けて「止まれ」の手信号。


「アカネ、セレシア、来い」


 男は行っちゃいけないらしい。

 今呼ばれた二人は顔を見合わせて走っていった。


 あ! わかったぞ。


「まったく、ひどいっすね」


 モリスはもう見えてるらしい。

 やっぱりそうか。


 岩陰から、セレシアとアカネに連れられて、粗末な布に身を包んだボロボロの二人の女性が出てきた。

 遠見から見た感じでは若い子のようだ。

 顔は完全に衰弱しきっている。

 肩を支えられて歩く足取りは、まるで歩き方を忘れてしまったかのようにおぼつかない。

 足首から見える痣は、縄か何かに縛られてたのだろう。

 黒紫色になっていて、見るだけで痛々しい。

 おそらく、というか十中八九、盗賊たちが戦利品として奪った旅の商人の家族とかそんなところだろう。

 さっき飛んできた全裸はコトの最中だったのか。


 どのくらいの間、この穴蔵で慰み者になっていたのだろうか。

 近くに見えてきた彼女らの目には生気を感じない。

 涙も乾いてしまったのだろう。


 ホワイトはまた岩陰の奥に見えなくなってしまった。

 多分、残りの捜索に行ったんだと思う。


「本当に最悪だな、盗賊ってのは」


 ジェフが不機嫌そうに呟きながら縛られている盗賊を睨む。

 しかし、盗賊はガキんちょは怖くないと言わんばかりに、フンと鼻を鳴らす。


「おい、もういいだろう? 約束は守れよ、早く解放してくれ」


 なんだこいつ。

 ホワイトがいないと態度がデカいな。

 まるで自分がやってきた事に対して罪の自覚がないようだ。

 こういう態度を見てると無性に腹が立つ。


「ふん、ボクが知った事か」


 ジェフもなかなか言うね。

 女性を連れてアカネとセレシアが戻ってきた。

 アカネが戻ってくるや否や盗賊が口を開く。


「おい、早く縄を解いてくれ。キツくてかなわん」


 アカネは盗賊の言葉を無視してずんずんと近づく。

 そして、


「ぐえ!」


 座ってる盗賊の腹にグーでかなり強い一発をいれた。

 さらに、顔面をパーで往復ビンタ。

 しかしもう一往復行こうとしたところで、ジェフがアカネの腕を掴み制止をかける。


 アカネは振り向くと、ジェフは真顔で棒切れを渡した。

 二人とも目は笑ってない。

 なるほど。

 ジェフも凶暴だってことがわかった。


 ジェフから受け取った棒で無容赦にボコボコに殴ると盗賊は再び伸びてしまった。


「ふう」


 棒を今度はセレシアが受け取る。


 ……こいつはヤバい気がする。


 セレシアはフンと鼻を鳴らした後、未だに絶賛気絶中の残りの五人の股間にドカドカと棒を振り下ろした。

 痛みにより無理矢理目覚めさせられた盗賊たちがうめきだす。

 するとセレシアはさらにもう一発ずつ振り下ろした。

 失禁してるヤツもいる。


 うっわ……

 棒を渡したジェフまでも「げぇ」とか言って顔を歪めてる。

 あまりの光景におれとジェフとモリスは背を向ける。


「盗賊に同情する訳じゃないが、女はアレの痛みを知らないから怖いな」


 おれの発言に両隣のジェフとモリスは激しく頷いた。

 背後に盗賊たちの悲鳴を聞きながら。


-------


 しばらくしてホワイトが穴から出てきた。

 彼は穴の隣にある巨大な岩を押して、アジトの入り口を塞いでしまった。

 怪力だ。


 手には特に持っていない。

 盗賊たちの物資とかは持ってこなかったのか。

 どうして何も持ってこないか聞いたところ、「おれらは盗賊を退治して、不遇なレディーを救出しただけだ。物取りなんざ盗賊だけがやればいい」と、めちゃくちゃ男らしくかっこいい返事が返ってきた。

 そうだよな、確かにホワイトの言う通りだ。


 おれたちは未だに気絶している全裸の残党も縄で縛ると、足早に出発した。


 馬車の中でアカネと今回の事について話をする。

 何故アジトまで探しにきたのかというと、辺境にいる男たちだけの盗賊団というのは、ほぼ間違いなく女性を監禁して、性奴隷にするのだという。

 バンドウムが全員男だった場合、すぐにアジトへ向かう事は決定事項だったようだ。

 大体の場合、アジトには留守番がいて、何かあったら監禁している女性を殺して逃げてしまうのだとか。


 本当にひどい連中だ。

 おれも一発殴っとけば良かったかな。


 馬車の進行速度は普段よりもゆっくりだ。

 セレシアとアカネのベッドには、身を清め新しい服を着た二人の不幸な女性がすやすやと眠っている。

 彼女達の心の傷が癒えるのを、ただただ祈るばかりだ。


 馬車は盗賊を乗せた粗末な荷車をガタガタと強く揺らしながら、荒野を進むのだった。

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