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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第一章 ポアロイル旅楽隊
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第十二話 戦闘見学

「おい貴様、何がそんなにおかしい?」

「タジール、そのうるさい護衛を早く始末してしまおう」


 黒尽くめの下っ端Aが、物騒な事を言い始めた。

 一方、こっちの陽気な黒人はまだ一人ゲラゲラと笑っている。

 その馬鹿笑いの黒人を睨みながら盗賊のボスは口を開く。


「貴様ぁ……楽には死ねんぞ?」


 タジールと呼ばれたボスキャラが、刀をぎらつかせて凄んできた。

 しかし


「プッ、楽には死ねんぞだってよ! それ、さっきも言ったよな……ギャハハハ!」


 ホワイトは完全に盗賊を馬鹿にしている。

 おれはもう吹っ切れたから、止めたりはしない。

 あまり調子に乗らない方がいいのかもしれないが。

 もうここまで来たらホワイトを全面的に信じるしかない。


 てかホワイトが吹き出した辺りでアウトって感じだし。


 でも出来れば、この盗賊イベントをさっさと済ませてほしいっていうのが本音だ。

 だって馬車の中から、ちょっとだけクスクス聞こえ始めてるからな。

 盗賊に感覚系のヤツがいたっていうのに何でバレないんだろう?

 レーダー男のモリスが何かやってるのかも。


「ギャハハハ! ガシャシャシャ!」


 ホワイトの笑い声も訳のわからない領域に達してきた。


 ボスっぽいヤツの握る剣がプルプルしている。

 よく見ると、少しだけ覗く目元には青筋が立ってる。


「……よかろう、そんなに死にたいのなら直ぐに殺してやる!」


 マジギレじゃんか。


 その言葉を聞くと、ホワイトは馬鹿笑いをやめた。

 というより、頑張って堪えた。

 その証拠に肩はまだ揺れている。


 そして黒尽くめに向き直って一言。


「ふぅ……ありがとな。いっぱい笑わせてくれて」


 何を言うかと思ったら、盗賊どもがすぐに襲いかかって来てもおかしくない一言。


 ホワイトさん。

 決め台詞はないんですか?

 と、おれが言おうとしたところで


「でも、お前らがしてきた悪事の数々は帳消しにはできねーから、

 とりあえず、ひっ捕えるぞ」


 それだよ、それ!

 とっととやってくれ!


 これぞ一触即発ムード。

 今まさに戦闘開始と思いきや、突然盗賊たちが笑い始めた。

 ようやくホワイトが笑い止んだのに、今度はそっちかよ。

 まったく、なんでこんなに賑やかなんだ?


「フハハ! 貴様、我らに勝てるとでも思ってるのか?

 おい、商人。こいつをいくらで雇った?」


 何でそんな事聞くんだよ。

 盗賊さんも話が好きだな。

 こんな無駄話なんてしないで、さっさとやってしまってほしい。

 おれじゃなくてホワイトを。


 でも、確かに盗賊にとって、いくらで雇ったかというのは、護衛の強さの大まかな指標になるのかもしれない。

 弱い護衛は値段が安く、強い護衛は高いっていうのは想像出来るし。


 あ! そしたら、もしここでおれが嘘をついて「超高額で雇いました」とか言ったら戦わずに済むのだろうか。

 さすがに、めっちゃ強い護衛だったら、こいつらも戦いたくはないはずだ。

 やつらも怪我はしたくないだろう。

 おれも怪我はしたくない。


 ここは吹っかけてみるか。


「えーっとですね、高いですよ?」

「いくらだ? 言ってみよ」

「……」


 ……金の単位、わかんねえ。

 どうしよう。


 とその時、


 ギィィィィン!!


「え?」


 言い淀んでいると、隣から金属と何か硬い物が激しくぶつかりあう様な音が響いた。


 ふりかえると、ホワイトがいる。

 片手でさっきの棒を構えていた。

 こいつ、何した?

 ホワイトは棒を構えている以外、特に何ともない感じだ。

 深くかぶったフードから見える顔は無表情。


「やっぱ悪党だな。汚ねえマネがお好きなようだ」


 ……ザッ!


 ホワイトが言い終わるか終わらないかのところで、盗賊のボスの足下に剣が突き刺さった。


「は?」


 なにがどうなったのか分からない。

 周りを見渡すと、ホワイトの視線の先に剣を持っていない黒尽くめの一人がいた。

 そいつの表情全体は伺えないが、開かれた目は驚愕の色に染まっている。


「なるほど……お前らはこうやって護衛の油断を誘ってぶっ殺すってわけだな。

 アッパーユニオンでも余裕だって? まったく……」


 若干ホワイトの声が低くなったように感じた。


「くっ、やり手かもしれん!

 ワモール! 積み荷が多少燃えても構わん、魔術を放て!」



 ワモールと呼ばれた少し遠くに立つ盗賊が、杖を構えてごにょごにょと何かを唱え始めた。

 呪文詠唱ってやつだ。


 やばい!

 魔術が飛んできたら無事では済まないかも。

 ジェフの言うには火炎放射みたいのも全然出来ちゃうみたいだし。

 もしかしたら、もっと強力な魔法がくるかもしれん。


 さっきまで緩まっていた緊張の糸が再び張りつめた。


 魔術師がごにょごにょ言い終わると杖が光り輝き、その先から小さな火の玉が出現した。

 するとそれは、みるみるうちに直径一メートルもあろうかという大きさになった。


 初めて目にする攻撃魔法。

 その迫力に完全に圧倒されてしまった。

 明らかな敵意と殺意を向けられたおれは、恐怖で完全に固まってしまった。


「焼け死ぬがいい! フレイムランチャー!」


 後半イタい単語が聞こえてきたが、まったくそれどころじゃない。

 ヤツが杖を後方に振り構えると、大きな火の玉は杖の先に引っ付いているような動きをした。

 野球のピッチャーが振りかぶるようだ。


 直ぐに分かった。

 これが発射の予備動作であることが。


「ひゅー! やるじゃん」


 頼りのホワイトを見ると、目を開いて口笛を吹いて感激する始末。


 大丈夫なんだろうね!?

 君だけが頼りなんだよ!?


 魔術師が杖を振ると、火の玉が勢いよく発射された。

 想像していたよりも少し遅いが、それでも十分な速度だ。

 魔術師との距離はおよそ三十メートル。

 ここまで到達するのに一秒とかからないだろう。


 あわわ……

 ホワイトは木の棒しか持ってないし、本当に防げるのか?

 火の玉が徐々に近づいてくる。

 時間の経過がゆっくりと感じられる。

 これが俗に言う死ぬ間際のなんちゃらってやつか?


 終わったかも知れん……

 死後の世界、一日目でデットエンドか。


 すると、おれの横にいたホワイトが一瞬ブレた。

 ブレたと思ったらかき消えた。


「!?」


 直後、頬が焼けるんじゃないかと思うほどの火球の熱が一瞬にして霧散した。

 特に音はなかった。

 何が起こったのかまったく分からない。


 ただ火球の進行ルート上の空中に、棒を振り抜いた体勢のホワイトがいる。

 一瞬のうちに十メートルほど移動していた。

 そして音もなく地面に着地。


 まさか、一瞬であんなに?

 しかも、あの火の玉を木の棒で?



 周りを見渡すと盗賊どもが若干後ずさりしている。

 おれも若干後ずさった。

 加えて言うなれば、ズボンの持ち主であるモリスに申し訳ないが、ちょっとちびった。


「ひ、引くぞ!」


 盗賊のリーダーが大きな声で号令をかける。

 それを耳にするや否や、即座に馬に跨がった盗賊たちは散り散りになって逃げ始める。

 どうやらホワイトには敵わないと判断したのだろう。

 一度目の奇襲を簡単に防がれ、強力な攻撃をいとも簡単に無効化されたのだ。

 賢明な判断だろう。

 流石に盗賊と言えどもリーダーは危機管理能力があるらしい。


「ハッハッハ! 逃がさねーから!」


 どうやらホワイトは追撃に出るようだ。


 さっき火球を消しに飛び出して、既に地面に立っているホワイトは素早く小石を拾うと、盗賊たちに向かって投げ始めた。

 なんというか、小石の弾道はレーザーのようだった。

 めちゃくちゃ速い。

 多分プロ野球とかそういうレベルじゃない。

 弾丸のようだ。


「ぐお!」

「うあ!」

「ギャッ!」


 ホワイトの投げる石は次々と命中し、標的になった盗賊は馬から転げ落ちた。

 頭に当たった者は意識を失い、まだ意識のある者は痛みに顔を歪めながら地面をのたうち回った。


「くっ! 貴様、ただ者ではないようだな」


 なんとかしてホワイトの小石スローをやり過ごした盗賊のリーダーは馬を下り、剣を中段に構えた。

 剣を構えると、一気にオーラが出てきたような気がする。

 なんていうか、めちゃくちゃ強そうだ。


 そして盗賊のボス、タジールは脚を半歩前に出し、上半身を少しひねり、腰の前で構えた刀を胸の高さまで持っていく。

 剣先をホワイトに向けたまま一気に引いて構えが完成した。

 忍者っぽいポーズだ。

 明らかな臨戦態勢である。


 本気モードだ。


 そう、ヤツに残された選択肢は戦闘の他ない。

 馬に乗って逃げようとすれば、無防備になったところをホワイトの投石が襲ってくる。

 味方も全員戦闘不能である。

 ヤツはもう背水の陣だ。


 対するホワイトはというと、木の棒をだらりを下げ、特に構える事もなく地面に立っていた。

 そして、ため息を吐き出すと、頭にかぶったフードを脱ぐ。

 それを見たタジールは首を傾げた。


「ん……貴様、どこかで…………ッ!?」


 盗賊に反応があった。


「ヒャッヒャッヒャ! よし、お遊びはもう終わりだぜ」

「ま、まさか! 貴様、ホワイト・マリシオクネかッ!?」


 どうやら盗賊の方はホワイトを知っているらしい。

 ホワイト、マジ白くね?

 あ、マリシオクネか。

 ホワイトの名字?

 変な名前だな。


「ダハハハ! こんな辺境に根城を構える盗賊までおれの名前知ってんのか?」


 ホワイトは相手を知らない。

 相手はホワイトを知っている。


 ってことはホワイトって、まさか有名人?

 強くて有名なのかもしれない。

 デカい火の玉消して、石投げたぐらいしか見てないけど、確かに無駄な動きがなかったような気がする。

 あ、奇襲の剣も弾いたか。


 強くて有名だなんて……なんかかっこいいな。


 さっきまで六対一の構図が既に一対一だ。

 ぶっちゃけ半信半疑だったけど、強いってのは本当だったんだな。


 少しタジールがうろたえている。

 おれの事はもう既に眼中にないだろう。

 ここは見学とさせていただく。


「くそっ!」


 盗賊のリーダー、タジールは剣の柄をギリっと握り直し、腰を低くした。


「いいぜ、かかってこいよ」


 ホワイトは両腕を広げ挑発する。

 しかし、タジールの方はいまだに動こうとする気配がない。

 少しずつ距離を詰めたりもしない。

 端から見ていてもタジールが緊張してるのがわかる。


「来ないならこっちからいくぜ?」

「……ッ!」


 ホワイトは右手に握った木の棒を両手で握り直し、上段に構えた。

 ゆっくりと腰を落とし、体の重心を下げる。

 次の瞬間、ホワイトがまたかき消えた。

 いや、かき消えたように見えた。


 さっきは近すぎて何が何だかわからなかったが、今は距離があるので見える。

 ホワイトはものすごい速さで移動したのだ。

 さっきまでホワイトが立っていた地面からは土ぼこりが舞っていた。


 おれは目を凝らす。

 タジールは上段からの攻撃に備え、剣を頭の上に持ちあげる。

 ホワイトが地面を蹴ってからここまで、おそらく0.5秒も経っていない。


 剣と棒。

 棒の方がリーチが長い。

 高速で近づくホワイト。

 タジールが彼の射程圏内に入った時、ホワイトは構えていた上段から振り下ろす。

 ホワイトの方が遥かに速い。

 それに合わせてタジールのククリブレードが上段を守るように動く。

 迎え撃つ形なのに後手に回った。


 ここまでは見えた。

 そう、ここまでは。


 その直後、

 上段から振り下ろしたはずのホワイトの棒は、何故か下段から振り上げられていた。

 ビュンと棒が空気を切り裂いた音が、少し遅れて耳に届く。

 そこにいたのはもう既に攻撃を終えたホワイトの姿。

 その攻撃を受けたタジールは空中に投げ出されている。


 一撃の攻防。

 本当に一瞬だった。

 最後はまったく見えなかった。


 凄すぎる……!

 カッコいい!!


 ぶっちゃけかなり感動した。

 すこし憧れる。

 生であんな戦いを見せられたら男として「おれもあんな風になりたい」と思うのは当然の事だろう。

 こいつらみんなこんなに強いのかな?

 おれでも頑張って一生懸命鍛えればなれるかな?


 ホワイトはまだ落下中のタジールを見て振り返った。


「ハハハ! 手加減したのにチョロかったなー! 縄取ってこようぜ!」


 どすんとタジールが地面に落ちた。

 さっきの衝撃でマスクが開けて、素顔が露になった。

 ちょっと遠くてよく見えない。

 てか、ホワイト。お前アレで手加減してたのかよ。


「ダハハハ! これでたんまり金が入るぜ」


 ホワイトがタジールの足をつかんで引きずってきた。

 近くで見ると、黒髭ボーボーのムサいおっさんだ。

 口からブクブクと泡を吹いている。


「なあ、ホワイト」


 おれは完全に伸びている盗賊タジールと見ながら、さっき思った事を聞く事にした。


「お前らって、みんなそんなに強いのか?」

「まあ、今のは遊びって感じで手加減したからあんなだけど、まじめにやったら六対一でも十秒ってとこだな」


 マジか!

 凄すぎるだろ!


「セレシアなら一秒だろ。あいつは強いぞ」

「うそ?」


 女の子だぜ?

 マジかよ。


「でもタイマンだったらソルダットの右に出るヤツはいねーなあ。

 おれが本気でもまったく相手にならん」


 まったく相手にならないだと?

 ホワイトは手加減したってこんなに強いのに、それ以上って……

 ソルダット、どんだけ強いのさ?

 やっぱりリーダー最強説か。

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