表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第一章 ポアロイル旅楽隊
12/53

第十一話 襲撃

 ……なんてこった。

 モリスレーダーによると盗賊が来るかも知れないという。


 総勢五十人のマーリオ盗賊団。

 謎の皆殺し集団バンドウム盗賊団。


 ジェフの話を聞く限り、どちらに会っても終わりっぽい。

 だってこっちはおれを含めて七人だぜ?


 非戦闘員は三人。


 ソルダットとホワイトがいくら強いって言ったって、盗賊の襲撃を防げる確証は無い。

 セレシアだって戦えるといっても、所詮は女の子。

 頼りになるとは思えない。

 モリスだってレーダー能力だけっぽいし。


 第一、おれはこいつらの戦う姿を見た事が無い。

 こいつらは余裕かましてるけど、おれは不安でいっぱいだ。

 おれを襲った魔物とはわけが違うだろ。


「ん? どうした?」


 おれを見て、ソルダットが煙を吐きながら尋ねてきた。

 きっと端から見たら相当ビビって見えるんだろうな。


「い、いや、盗賊が来るってマジなのか?」

「来るかもってことだろ。おれはよくわからないからモリスに聞いてくれ」


 モリスを見た。

 馬車の窓から空を難しい顔で眺めている。

 いつもひょうきんな彼にしては珍しい顔だった。

 そして振り返ってみんなに聞こえるように大きめの声で言った。


「スンマセン。ほぼ間違いなく来ます。

 これ、三十分くらいでここまで来るっす。

 結構離れてるんで、まだ発見されてないみたいっすね。

 位置は後方っす。多分……うちらの馬車の通った跡を発見したみたいっす」


 こいつ察知してたのか。

 すごいな。

 そんな距離までわかんのか。


 それを聞いてソルダットが起き上がった。

 少し驚いたような顔をしてる。


「そんなに早いのか?

 ギターも弾けなさそうだな。おまえらも楽器いじんなよ」

「ういっす」

「おい、セレシア! 一旦馬車を停めろ」


 馬車がゆっくりと止まる。

 停めてどうすんだよ!?

 来ちゃうよ盗賊!?


「シゲル。悪いがお前の使ってた天幕使うぞ」

「お、おう」


 おれのマット代わりの天幕をソルダットが馬車の外に投げた。


「ホワイトー!」

「わかってら」


 ホワイトは、前方の窓から外に飛び出した。

 何を始めるんだ?


 ソルダットとホワイトが外でゴソゴソと天幕を広げている。


「せーのっ」


 かけ声とともに馬車の車内は真っ暗になった。

 天幕で車両部を覆ったのか。

 雨の対策か?


 真っ暗になった車内では、ジェフがランプに火を灯した。

 明かりのついたランプをモリスが受け取り天井に吊るす。

 そしてジェフは何も無いかのように読書を始める。

 そこにアカネが来て、ジェフのベッドから本を取って読み始めた。

 こいつら本当に安心してやがる。

 ビビってるのおれだけだな。


「もしかして怖いっすか?」


 暗さに目が慣れてなくて表情が見えないが、モリスはニヤついてる気がした。


「ああ、正直怖いな。ジェフの話を聞いてからかなり怖くなったぞ。

 まったく……ジェフのせいだ。

 ガキんちょのくせに大人をビビらせやがって」


 後半部分は少しおどけた感じで言った。


「なんだよ。ボクのせいか? 大丈夫だって、こいつら強いんだから」

「そうっすよ。ポアロイルは盗賊なんかに負けないっす」


 目が若干慣れてきた。

 モリスが言い終わると同時に、ガサゴソ音がしてソルダットとホワイトが入って来た。

 それに続いて馬車を操縦していたセレシアも入って来た。

 そしてこの三人が顔を見合わせながら言った。


「よし、そんじゃ誰がやる?」


 こいつらヤル気だ。

 しかもニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべ、完全に悪い顔になってる。

 漫画だったら目が銭マークになってるだろう。


「リーダーさんは休んでな! バンドウムならおれがやるぜ」

「じゃあマーリオだったら私ね!」


 ホワイトとセレシアはヤル気満々だ。

 何て言うか、二人とも目がギラギラしてる……


「おれはヤル気ないし、お前らどっちがやってもいいんだが……

 じゃそういうことで」


 タバコを天幕の隙間から外に捨てて、ベッドに寝転ぶソルダット。

 緊張感がないな。

 まさか盗賊って大した事ない感じ?

 いやまさか。熟練のサーチャーでもやられるとか言ってたじゃん。


 困惑してるおれにホワイトが指をさしてきた。


「カモフラージュとして、新入りに商人役を命ずる! ガハハハ!」

「しょ、商人役?」

「オドオドしてるし丁度いいだろ。ナハハ!」


 ナハハって。

 確かにオドオドしてるけどさ。

 でも商人役ってなんだよ。


「カモフラージュって何するんだ?」

「商人の荷馬車に見せかけんだよ。サーチャーの馬車って分かればこっち来ないだろうが。

 天幕だけでも十分なんだがな、確実性をあげるためだな! フハハ!」


 そうか、戦わないって選択肢はないんだな。

 おれは安全な方がいいんだが……

 提案だけはしてみよう。


「あのさ、盗賊と戦わないってのは無しな……」

「その黒いズボンはよくないわね!

 モリスの茶色いヤツあったじゃない。あれにしましょうよ!」

「そりゃいい! ダハハハ!」


 おれの話は全く聞いていない。

 しかも、あろう事かセレシアまでホワイトのプランに乗って来る始末。

 クローゼットっぽい箱の中からごそごそとズボンを探し始めた。

 このスーツのスラックスではダメなのか。

 ちなみにワイシャツは血だらけになったから捨てた。


 おれが商人役をするってことは……

 つまり、護衛のいない商人の馬車のフリをして盗賊を油断させる。

 そして油断したところをホワイトかセレシアが叩く。


 こんな感じで合ってるか?

 そしたらおれは必然的に外に出ないと行けないんじゃないか?


「そ、それって危険じゃないのか?」

「ノンノンノン! 安心しな」


 指を振りながらホワイトが言う。


「大丈夫だ。オレかセレシアも一緒にいるから」


 その時のホワイトの声は、馬鹿みたいにゲラゲラ笑ってばかりいるお調子者に似合わない、とても優しい声だった。

 そしてそれは、おれに不思議な安心感をもたらした。

 なんと言うか、とても頼りになる男の声だった。


「お、おう。わかったよ」

「よし、そしたら御者台に座りな! ゲハハハ…ッゴホゴホ!」


 なんだよ。

 すっかり見直したのに、またゲラゲラと。


「あったわ! はい!」


 セレシアがおれに何かを投げてきた。

 ここでモリスの大きめな声が飛ぶ。


「六人、バンドウムの方っすね。

 伏兵の様子はないっす。

 それぞれ馬に乗ってるっす。

 ……結構速いっすね、十分もすれば追いつかれますよ」

「ってことは、おれ様の出番だな!」


 ……バサッ


 放り投げられたモリスのズボンがおれの頭に掛かった。




-------


 おれは馬車の運転席(御者台っていうんだっけ?)にいた。

 ここは客車の前方席の屋根の上だ。

 小さな腰掛けが設置されてるだけの簡素な造り。

 十分に広いのだが、後部座席の上、ソルダットの特等席がある場所の方が断然広い。

 そこは天幕で覆ったので、端から見たら貨物車両に見えるだろう。


 いやしかし、馬車を運転するのなんて初めてだ。

 目の前にはガッチリとした大きな馬が四頭、パカポコとリズミカルに走っている。

 速度は、人間の速めの駆け足くらい、といったところか。


 しっかりと調教されてるからなのか、何もしなくてもしっかり走っている。

 おれはモリスの茶色いズボンとジェフの小綺麗なチョッキ、さらに誰のだか分からない胡散臭いベレー帽みたいな帽子をかぶり、格好だけは立派な商人になっている。

 手に鞭を持ち、馬車のオーナーを気取っていた。


 そして鞭を握る右手はブルブルと震えている。


「ハハハ! ビビんなって!」


 おれの後ろでは、なぜか頭までスッポリと覆うローブを着たホワイトが小さめの声で笑っている。

 フードで隠れてるし肌が黒いから顔はよく見えないけど、口元からホワイトのホワイトな歯だけは、ばっちり見えた。

 彼の手には二メートルほどの長い木の棒が握られている。


 木の棒って、おい。

 まさか、これがホワイトの武器?

 終わったかも知れん。 


「な、なあ。盗賊って弓矢とか持ってたりするのか?」

「んーまあ持ってるだろうな」

「それでいきなり、う、う、撃ち、こ、ころ、殺されたり、しない、よ、よな?」

「ギャハハハ! お前、噛みまくってるぜ!」


 うっわ。どうしよう。

 マジで怖いんですけど。

 怖すぎて気持ち悪い。


 うぅ、お腹が……


「わり、ちょい吐きそうだわ。うぷっ」

「わーわー、汚ねえから吐くな!」

「いや、マジで気持ちわりぃ……うぅ」

「酔ったのか?」


 答える元気がないので首だけ振った。


「こ、殺させるかもって考えたら……」

「大丈夫大丈夫! 盗賊ってのは荷物の中身を確認するまで商人を殺さねえ……ってオイッ!

 きったねぇ! 吐きやがったな!」


 ホワイトの話の途中だが、耐えられず吐いてしまった。

 大丈夫。全部地面に吐いたから。


 すると足下からドンドン音がして、天幕越しのくぐもった声が聞こえて来た。


「シゲルさーん! 大丈夫っすか?

 もうすぐで来まーす!」


 もうすぐ来るだと?


 大丈夫大丈夫。

 おれは大丈夫。

 きっと大丈夫。

 ホワイト強い。

 おれは安全……


 頭の中で自己暗示をかける。


「うぉえ! ゲロゲロ……」

「おわわ! きったねー!」


 自己暗示失敗。

 ホワイトもさっきからちょっと引き気味だ。



 ………ドド……ドド……



 ん?


 後方から微かな音が聞こえて来た。

 口元を拭いながら振り返ってみると、遠くに黒い馬が六頭。

 土煙をあげながら迫って来るのが小さく見えた。


 六頭の馬。


 モリスの言った通りの六人。


 盗賊だ。


「うわあああ、出たぁぁぁあ!!」

「来た来た! シゲル! 鞭を打て!」


 ホワイトに言われるまま、馬の尻に鞭を打つ。

 少し速くなったか?


「足りねえ! もっと打て!」


 え!?

 逃げるんですかホワイトさん!?


 おれは言われた通り鞭を振る。

 結構速くなった。

 馬車の揺れもかなり激しくなった。

 落ちないように、しっかりと踏ん張る。


 ちらっと後方を確認する。

 さっきよりも大分近くにいる。

 速い!


「打て打て打て!」

「おいホワイト! 逃げんのか!?」

「逃げねーよ! いいから鞭打て!」

「イ、イエッサァァァァッ!!」


 バチバチと馬に鞭をいれる。


 ダメだ。

 これが最速らしい。

 馬はこれ以上速く走らない。


 ……クッ、追いつかれる。



 ドドドドドドドドド!!


 既に盗賊の馬の音もはっきり聞こえる。

 後ろを見たら、すぐ近くにまで来ていた。

 ヤツらの服装まで確認できるほど近い。

 顔を隠している。

 いかにも盗賊ですって感じのルックスだ。


 盗賊の一人が馬車のすぐ横に来た。

 そいつは馬車をじろじろと観察している。

 ふとそいつと目が合った。


 ……ひえぇぇ

 とても冷たい目だった。


 先頭を走っていた二頭がおれらの馬車の前に出る。

 おれらの馬の前に来ると、徐々にスピードを落とし始めた。

 強制停車させるつもりらしい。


 ホワイトがおれの手ごと無理矢理手綱を引いた。

 おれらの馬車も徐々に速度を落とす。


 そしておれたちの馬車は完全に停止した。



-------


 辺りを見渡す。

 六頭の黒い馬は馬車を取り囲むようにして止まった。

 盗賊はお揃いの黒ずくめを着用している。

 全員忍者みたいな格好だ。


 囲まれた。


 六人の盗賊は馬から下りて、腰に下げてる剣を抜いた。

 大きなククリナイフだ。

 雨が降りそうな暗い空の下でも、彼らの禍々しい刃はぎらりと光る。

 真剣は初めて見るが、とても暴力的な形をしていた。


 一人は杖みたいな物を持っている。

 杖ってことは魔術師か?

 パーティー構成もしっかりしてるっぽい。

 という事は、やはり逃がす気ゼロなんだろう。 


 ブルブル震えてるおれにホワイトが耳打ちした。


「弓持ってるヤツはいないぞ。よかったな。ククク……」


 笑ってる場合か。

 ホワイトの顔はフードで見えないが、肩がバッチリ震えてるから笑ってるのは一目瞭然なんだよ。

 何がおかしいんだ。

 こいつ本当に余裕なんだな。


 一方のおれは顔から血の気が引いていた。


「おい、貴様が商人だな」


 リーダー格っぽい黒ずくめが、おれにククリナイフを向けた。


「……は、はひっ!」


 情けない声が出た。

 ホワイトは肩を揺らしている。

 まだ笑ってやがる。


「我らはバンドウムだ。命が欲しければ荷物をすべてよこせ。

 さもなくば貴様の首と胴体はサヨナラすることになるだろう」


 ジェフが言うには、こいつらは皆殺し集団だ。

 荷物を全部くれても首と胴体をサヨナラさせるつもりなんだろう。

 こういう手口で商人を安心させて中身を確認。

 積み荷にわからないモノがあれば、商人に聞く。


 盗賊もわからないものぐらいあるだろう。

 見た目ゴミみたいなものでも、ものすごく価値のあるものかもしれない。

 そういうものを見逃さない為にも、商人は確認作業が終わるまで殺さないのか。

 なるほど。


「後ろの者は護衛か? 商人ではあるまいな。」

「……プッ!」


 おい! ホワイト!

 笑うなよ!


 …………大丈夫だ。

 ギリギリ聞こえてない。


 別の黒ずくめが何か言い出した。


「ふむ、タジールよ。オレが察知したのは、こいつら二人だけだ」


 こいつは感覚系だろうか。

 にしても二人?

 馬車の中の連中は察知されてないのか?


 タジールと呼ばれたリーダー格の男が口を開いた。


「という事は、この者は護衛のようだな。

 おい、貴様。

 いくらで雇われたかは知らんが、所詮ミドルユニオンあたりの者だろう。

 しかも一人とはな。

 そんな者がこのバンドウムに勝てる筈はなかろう。

 マーリオどもは五十人でランクAだが、我々は六人でAだ。

 分かるか? 個々の質が違うのだ。

 たとえ貴様がアッパーユニオンの者でも、一対六では辛かろう。

 無駄な抵抗はするな。

 さもなければ、楽には死ねんぞ?」


 盗賊が凄んできた。


 ランクとかアッパーユニオンとか、ちらほらとおれの知らない単語が出て来たが、ホワイトの震えがデカくなって、それどころじゃない。

 もうこいつも我慢の限界っぽいな。


 ええい!

 どうにでもなれ!


 ついにホワイトが吹き出した。


「ワーハハハハハハハ!!

 ダメだ、腹痛ってえ!

 ギャハハハ!」


 盗賊は微動だにせず、不機嫌そうに眉だけピクリと動かした。



 もういいや!

 あとはホワイトに任せよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ