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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第一章 ポアロイル旅楽隊
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第十話 魔法と素質

 ジュピターワームってのは基本的に素人が相手に出来る魔物じゃないらしい。

 そんなアブナイ魔物がわんさかいるそうだ。

 死後の世界は異世界だな。

 想像するだけで恐ろしい。


 こいつらは、そんな物騒な魔物でも余裕だそうだ。

 ジェフとアカネは無理らしい。

 非戦闘員とか言ってたしね。

 ショ○カーではないらしい。


 モリスは別に相手に出来るし、倒せるけど時間かかるっぽい。

 ソルダット、ホワイト、セレシアの三人に関しては余裕との事だ。


 ていうか、セレシアも余裕ってどういう事よ?


 こいつらはユニオンとかいう、何でも屋チックな組織に所属しているという話だったが、聞いてみたところによると、魔物討伐なんていうのが結構多いらしい。


 そしてユニオンに所属しているものを総合して『サーチャー』という。

 もともと大昔のユニオンでは扉からの出現者保護を専門的に行っていて、まるで出現者をサーチしてるみたいだからサーチャーと呼ばれるようになったのだとか。


 今では何でも屋であるサーチャー。

 工事やお使い、子供の世話から家のお掃除までなんでもこなす彼らだが、やはり憧れの任務は強大な魔物を倒すことらしい。

 討伐系の仕事はユニオンの中でも花形なのだそうだ。


 まあそうだよな。


 近隣の民を恐怖に陥れている巨大なモンスター。

 そいつの首を持って颯爽と凱旋するおれ。


 おれ「とったどぉぉぉぉー!」

 民「ウオオオォォォォォォォオ!!!」


 もう英雄扱いなんだろうな。


 おれも男だ。

 男として、そういうのには憧れてしまう。

 もし鍛錬したら、おれもそういう感じになれるのだろうか。

 ジュピターワームの話を聞いて尻込みしているようじゃ厳しいか。


 だが、こいつらの話では、鍛えればある程度は強くなれるという。

 どれだけ強くなれるかは、そいつの魂の素質ってのが重要だとか。


「で、魂の素質って一体なんなんだ?」

「そうっすねー、才能って言ったらいいんすかね?」

「モリスにしてはなかなか良い例えだな」


 モリスはジェフに賞賛をもらって嬉しそうにしてた。


「例えば、こいつらだが……

 ソルダットとホワイトは身体系の能力に特化した魂を持ってる。

 だから、こいつらが身体系の能力を鍛えようとするなら、モリスとかと違って格段に効率がいい」

「ほう」


 才能ね。

 魂の素質とかそんな厨二な言い回しにしなくていいだろう。

 ま、呼び方なんて文化とか習慣とかみたいなモノだしな。

 みんなそう呼んでるなら別にいいか。

 身体系の素質を持ってるのは、この中ではこの二人か。


「そしたら他の連中は何なんだ?」

「アカネは魔法の素質がある」


 なんと、アカネは魔法少女アカネだった。

 てことは、おれを治療してくれたのはアカネだったのか。


「魔法か……」

「どうした?」

「いやー、アカネも立派な異世界人になったんだなーと思って」

「?」


 最後に会ってから今年でもう七年目だもんな……

 おれの言葉にアカネは首を傾げていたが、ジェフは説明を再開させた。


「それで魔法ってのは……」


 魔法には日常生活で使える生活魔法、戦闘などに使われる攻撃魔法、怪我や病気を直す治癒魔法の三つに分かれているそうだ。


 生活魔法はほとんどの人間がある程度使えるらしい。

 小さな火を起こしたり、飲み水を出したり、風を起こして部屋を換気したりと、その名の通り生活に密着した使い方がメインだ。

 これらを応用すれば、水の温度を調節して温水にしたり冷水にしたりできる。

 さらに冬になると、暖炉の他に温風を起こして部屋を暖めたりもする。

 一通り聞いてみたところ、相当便利なものだという事がわかった。


 科学技術もそんなに発達してないのは、この生活魔法の便利さのせいなのかも知れない。

 シャワーが浴びたかったら温水を出せばいいし、髪が乾かしたかったら温風をだせばいい。

 人は必要性がなければ新たなものへの探究心は廃れるってことか。

 確かに頷ける話だな。


 残りの二つは素質に大きく左右されるらしく、素質の無いヤツは使えない。

 例えば攻撃魔法。

 攻撃魔法というのは生活魔法の規模を馬鹿デカくして、戦闘用に改良されたものだ。

 生活魔法で火を起こすのも、攻撃魔法で火炎放射をかますのも、要は同じ『火』を使っているだけで規模の違いらしい。

 素質の無いヤツがいくら頑張ったところで、ロウソクから松明くらいのアップグレードしか出来ない。


 規模が大きくなればなるほど体力も消耗するんだそうだ。

 ただ体力と言ってもちょっと違うらしく、魔法を使いすぎると頭がふらふらして、思考機能がまともに働かなくなるそうだ。


「ということなので、それは体力とは呼ばず……」

「魔力という!(ドヤッ)」

「なんだ、知っているのか?」

「うん。ゲームの知識ね」

「ゲーム? まあ魔力ってのはそんなもんだ」


 魔力が多ければ多いほど魔法の素質は高いという事らしい。

 それで魔法の素質が無ければ、戦闘魔法に必要な魔力を捻出する事が困難だそうだ。

 そりぁそうさな。

 ライターみたいな火を出すのと、火炎放射器並みの火を出すのじゃ燃料の消費量が桁違いだもんな。

 エネルギー保存の法則に則ってる話だ。


 そしてすべての魔法に共通していえるのはイメージ。

 生活魔法でも初めての場合は難しいが、イメージをつかめば意外と簡単に使えるらしい。

 ラジオのチャンネル合わせ的な感じかな。

 生活魔法以上になると、より繊細なイメージと魔力の放出が必要になってくる。


「まあ攻撃魔法はボクも出来ないから教えられないが、生活魔法くらいなら練習すれば出来るようになるだろうな。

 ちょっと試してみたらどうだ?」


 本当かジェフ!?

 やってみたい!


「どうやるんだ?」

「イメージだ。指先に小さな火が灯るのを想像するんだ」


 ジェフの指先から小さな火が出て、ゆらゆら揺れている。

 す、すげー!

 トライしてみることにする。


「魔力ってどう出すの?」

「これもイメージだが、胸辺りに魔力があると思ってみろ」


 胸の辺り?


「イメージできたら、その魔力をゆっくり移動させて右手に集めるんだ。

 魔力の流れをイメージできたら、今度は火をイメージする。

 自分の体から出てくるっていうイメージが重要だ」


「ほーい………っうお!」


 言われた通りにしたら、ものすごくあっさり出来てしまった。

 すごい!

 おれの指から火が出てる!

 なるほど、本当にイメージだな!

 魔力がどうこうっていう実感は全くなかった。

 こりゃすげーな!


 あれ?

 この火熱くないぞ。


「なあ、この火熱くないんだけど?」


 みんなポカンとしている。


 え?

 なに、おれやっちゃった?

 さっきジェフも簡単とか言ってなかった?


「……まさか出現してから一日でできるとはな」


 ソルダットが驚いた顔をしながら呟いた。


 おっけ、わかった。

 これおれの才能ね。

 チートの匂いですわ、コレ。


「オーマイガ……すげえな」


 あのホワイトですらこの反応。

 こりゃおれのジョブ決定なんじゃないっすかー?

 死後の世界で異世界天才魔術師ってところか。


 と思ってニヤニヤしてたら火が消えた。

 あれ?

 集中を切らしたからか?


「すごいな。慣れればもっと簡単に持続させられるぞ」

「わかった。頑張るぜ」


 その後も魔法の話は続く。

 熱くないのは自分の魔法は自分に害を成さないから、といういい加減な理論があるということだった。

 火出して自分の火でやけどとか目も当てられないしね。


 みんなによると、普通の人は生活魔法でも一月くらいは練習しないと出来ないらしい。

 だから魔法の素質がいくらかあるそうだ。


 ただ素質があれば攻撃魔法も治癒魔法も両方使えるというものでもないという。

 治癒魔法は攻撃魔法と違い、規模を大きくすれば出来るというわけではないそうだ。

 要は繊細さ。

 繊細な魔力コントロールが出来なければ治癒魔法は何も治癒できない。


 そこで不思議な顔をしたアカネが皆に問いかける。


「治癒魔法ってコツさえつかめば結構簡単だと思うけど」


 自分の銀髪をなでながらアカネは言う。


 そう。

 アカネは非戦闘員である。

 彼女は治癒魔法の使い手だ。


「治癒魔法ってどんなのなんだ?」

「えーと、傷を治したり?」

「言っとくけどアカネの治癒魔法はすごいぞ」


 ソルダットが教えてくれた。


 アカネはこの世界に出現したのは、イルマーフという国の第二都市のマイゲルというところだそうだ。


『マイゲルと言えば治癒魔法』というほどの都市らしい。


 このマイゲルという街に関して説明するとなると、この世界に出現したばかりの者が、如何にしてこの世界に順応するかという過程を説明しなければならない。



 この世界では、始まりの部屋から出てきた者を出現者と呼ぶ。

 出現者は発見次第保護する、というのはこの世界の掟だそうだ。


 どこに出現したかによって保護される地域が違う。

 基本的に出現した国に保護されるという事らしいが、国もすべてに目が届いてる訳ではない。


 昔はユニオンのサーチャーたちが積極的に捜索していたが、今はそんなことはない。

 どこに現れるか、いつ現れるか。

 それらも全くランダムで捜索なんて出来たもんじゃなかったんだとか。

 勿論、今でも出現者の捜索の依頼はユニオンから断続的に出ているが、人気は高くない。


 人のいる場所に出現すれば儲け物。

 人里離れた場所や辺鄙な地域なんかに出てきてしまった者が、人里まで自力でたどり着くことはあまり無いらしい。

 魔物もいるって話だし。

 着の身着のままこんな世界にトリップして来たんじゃ魔物なんて相手にできないわな。

 実際、おれもそうだったわけだし。

 厳しい世界だ。


 運良く人里に出現したものには、皆がいそいそと世話してくれる。


 出現者を発見した者は、その者を近くの保護施設に送り届ける義務がある。

 保護施設といっても、ユニオンの運営する学校みたいなものらしい。

 そこで生活に必要な事を学んで、約二ヶ月ほどで独り立ちをするそうだ。

 独り立ちと言っても単に労働に従事することで、飲食店で働いたり、農家に住み込みで働いたり、はたまたユニオンに登録してその日暮らしをしたりと、形態はさまざまだ。


 さて話を戻そう。


 アカネが出現したイルマーフは、民主主義の国だ。


 この世界は王制の国もたくさんあるそうだが、イルマーフは議会を持ち、市民の代表者が民主主義の原則に則り、民主的な政治をしている。

 話を聞く限り、かなり近代的だという印象を抱いた。


 もちろんイルマーフは、近代国家のように基本的人権を尊重し、法整備も行き届き、困難な境遇ではみんなが互いに助け合うというお国柄。

 大陸の東南部に位置し、国土はさほど大きくはないが、大きな港湾を持つ。

 港湾部は対外貿易が盛んであり、西側の大陸の船も数多くやってくる。

 国家全体の貧富の差も少なく、社会福祉も充実し、産業基盤も整っている。

 極めて生活水準の高い国だ。

 ゲートワールドでは極めて先進的な国だそうだ。

 聞いてみると日本みたいな感じがする。


 その前に、ゲートワールドの大陸がどうなってるのか気になったが、まず話を聞く事にする。

 おれは話の腰を折らないのだよ。


 このイルマーフ、医療レベルが極めて高い。

 なぜならこの国は、質のいい治癒魔術師が多く存在するからだ。

 そしてそのイルマーフで最も多くの治癒魔術師を擁するのが、アカネが出現した第二都市のマイゲルだ。


 なんでも遠い昔、マイゲルという名の賢者がいて、治癒魔法を人々に教えたらしい。

 当時、この地域は魔物が多く、街を守る兵士が負傷して帰ってくるというのは日常茶飯事だったそうな。

 そこに賢者マイゲルが現れ、魔法に素質のある者を集めて独自の治癒魔法を伝授した。


 魔法はイメージだ。

 イメージが出来なければ魔法はできない。

 傷が治るのは時間がかかる。

 それゆえ治癒していくプロセスはイメージしがたいものだ。


 しかし賢者マイゲルは、治癒に関する魂の記憶を持っていた。

 魔物との戦いで負傷した戦士が多いこの土地では、治癒魔法は重宝された。

 マイゲルの指導により多くの治癒魔術師が生まれ、それにより命を落とす戦士は激減し、近隣の魔物の数を減少させる事に成功した。

 彼の治癒魔法を民が受け継ぎ、長き時を経て、今日の医療都市マイゲルになっていった。


 この都市では、周辺の出現者で、なおかつ魔法の素質があるものにはハイレベルな治癒魔法をタダで教えてくれる。

 他の地域の者が学びに来るということもあるそうだ。

 しかしマイゲルのユニオンは拒みはしない。

 ただし授業料として安くない学費を徴収する。

 それでもここではそれに見合う技術を学べるのだ。


 こうして数多くの治癒魔術師を取り入れるマイゲルには治癒魔術師の絶対数が多くなる。

 それに加えて、イルマーフは近代的な政治、住みやすい環境が揃ってる。

 外部の人間が住み着きやすい環境とでも言うのだろうか。

 この世界で最高レベルの生活水準だもんな。


 これがマイゲルが数多くのレベルの高い治癒魔法師を抱えている理由だ。

 したがって、マイゲルに出現した魔法素質の高い者は、質の高い治癒魔術師になるという。


「アカネなんて出現してまだ七年目だぞ? なのにこの実力!」


 ホワイトはアカネ推しらしい。

 そりゃアカネ凄いわ。

 おれの傷も跡形も無く治ったし。


「おほん」


 ジェフがわざとらしい咳払いをして話を中断させる。


「魔法はこんなもんでいいだろ。

 もう一つの素質は感覚だ。

 モリスがもってる」


 もう一つの素質は、感覚の素質。


 この連中の中ではモリスだだ一人だそうだ。

 これは書いて字のごとく、感覚が鋭い。

 それだけだと大した事なさそうだが、これが実は凄い。


 おれを発見したモリスは二キロほど離れたところに倒れていたおれの呼吸と、魔物の気配を感じ取ったらしい。

 しかも、視力も半端じゃなく、かなり遠くにポツンと見える枯れ木の樹皮まで見えるとか。


「あの木、虫食ってますねー」


 本当に見えてんのかよ。

 まあここからじゃ確認のしようがないが。

 でもおれを発見してくれたのもあるし、本当なんだろう。


 しかも、魔法や身体能力と違って、感覚は強化しようと思っても難しいという。

 モリスは感覚の素質を持つ者の中でも、群を抜いて凄いらしい。


 ソルダット曰く、モリスがいれば奇襲は恐ろしくないとの事。

 凄すぎるだろ。

 レーダーじゃん。

 今までただの下っ端とかDQNとか思ってて悪かったよ。

 これからはモリス先輩と呼んだ方がいいかな。


「てか、奇襲ってどういうことよ?」

「おいおい、奇襲は奇襲だろうが! アハハハハ!」


 ホワイトに笑われた。

 ソルダットの言いぶりからすると、奇襲を何度も凌いだみたいに聞こえるが。

 何で奇襲されるのだろう。


「奇襲ってのは盗賊とか魔物がしてくるのよ!」


 セレシアが大きな声で教えてくれた。

 魔物に加えて盗賊もいるのか。

 なんてデンジャラスな世界だ。


 でもよくよく考えてみたら、元の世界にも窃盗団なんてのもあったな。

 どこにでもそういうのはいるのか。

 悪人はどこにでもいるってことね。


 こいつらはこうしてノコノコと平和な感じで旅をしてるが、この世界では盗賊が結構いるという。

 移動中の商人の荷馬車とかは標的にされやすく、ユニオンでは商人の護衛関係の依頼がポツポツとらしい。


 盗賊のメンバーというのは、ある程度腕の立つ者が多いので、生半可な強さでは護衛は務まらない。

 毎年、一人前になったと勘違いしたサーチャーが盗賊と戦って犠牲になるとか。


 ポアロイルは以前滞在していた街のユニオンで盗賊討伐の依頼を受けたらしい。

 移動がてらに盗賊討伐の依頼をこなすのは効率がいいとの事。


 次の街に着くまでに依頼を達成できれば、到着した街で報酬を受け取る。

 もし失敗したら失敗手続きをするだけだ。

 普通は依頼を受けて失敗すればペナルティーが課せられる。

 依頼人も何度も失敗されてたら、たまったもんじゃないだろう。


 しかし人里離れた場所、なおかつ危険度の高い討伐依頼は、失敗のペナルティーがない。

 言うなれば難易度の高い依頼にはペナルティーがつかない。

 というのも、なかなか受けれる実力のあるサーチャーの絶対数が少ないからだ。


 盗賊討伐の依頼は人気がない。


 なぜなら盗賊を捜すのは難しい。

 彼らも馬鹿ではないので、そう簡単に見つからない。

 意気揚々と討伐に行っても、察知されれば見つける事もできない。


 しかも彼らは奇襲のスペシャリストだ。

 熟練のサーチャーでもやられることもあるんだとか。


 さらに不人気の大きな要因は、商人の護衛依頼があるからである。


 盗賊は主に商人の荷馬車をターゲットにしている。

 基本的に商人は安全なルートを選択するが、どうしても時間が無い時は護衛を雇って危険なルートを行くこともある。

 そういう場合、盗賊との遭遇率がグッと高くなる。


 その際、盗賊を討伐する事が出来れば、護衛の報酬に加え盗賊討伐の報酬も貰える。

 そのため実力のあるサーチャーは、危険ルートの商人護衛が無ければ、盗賊討伐を単発で受ける事は殆どない。


 こいつらは討伐依頼を引き受けた。

 次の街までのルート上に盗賊被害多発地域があるそうだ。

 いわば危険ルート。


「え? ちょっと。まさかここら辺にもいるの?」


 死後の世界って物騒だな。

 もう地球と勝手が大分違うから、異世界って思っておこう。


「もう割と街の近くだし、出てこないんじゃないか?」

「いてもオレがいるんで安心っすよ」


 そう、おれらにはレーダー先輩がいる。

 ソルダットのお墨付きだ。

 しかも、ソルダットもホワイトも結構強いらしいし、大丈夫かもしれないけど。

 ……本当に大丈夫なのか?

 こいつらがいくら強いといっても油断は大敵だ。

 熟練のサーチャーでもやられる程なら、もしかしてこいつらの手に余るかも知れない。


 おれがビビってると、ジェフがここらを根城にしてる盗賊の事についてサラッと教えてくれた。


「ここらを活動の拠点にしている盗賊は二組ある。

 一つはバンドウム盗賊団。

 こいつらは少人数の精鋭部隊で、並のサーチャーには手に負えない連中だ。

 自分たちの情報を漏らさないように、出会ったヤツは皆殺しにするそうだ。

 だからこいつらの情報はあまりない」


 皆殺しだと……?

 なんてやつだ。怖すぎ。


「もうひとつはマーリオ盗賊団。

 こいつらは五十人近い大所帯で移動し、おとなしくすれば命はさえ奪わないが、食い物から下着まで何もかも盗って行くそうだ」


 五十人って、ちと多すぎないか?

 そんなにいたら流石に彼らでも対応できないだろう。

 数は力って言うし、マーリオの方に出会ったら逃げるしか無いだろ。

 謎の皆殺し集団バンドウムも十分怖いが……


 異世界に来たばっかりで早速デットエンドなんてのはヤダな。


「まあこんな荒野で身ぐるみ剥がされるなんてのは、殺されるようなもんだな………あっ!」


 ジェフが突然立ち上がった。


「しまった!」


 え? なに!?

 周りを見渡すと汚らしい服装の大男たちが。

 おれたちはいつの間にか盗賊に囲まれていた。



 ……なんてことはない。


「時間を忘れて話し込んでしまった!

 話の続きは馬車の中ですることにしよう。

 食料が少ないんだ。

 到着予定が伸びると飯が無くなるぞ!」


 ほっ。

 そんなことか。

 ビックリしたじゃないか。

 盗賊かと思ってチビりそうになったじゃないか。


 確かに移動時間が延びたら、食料が足りなくなる。

 そうしたら、隠れ食いしん坊キャラのジェフはかなり困るだろう。


 おれたちはさっと片付けを済まして馬車に乗り込んだ。

 馬車に乗り込む際、遠くの空に大きな雨雲が見えた。

 しばらくしたら雨が降るかも知れないな。


 馬車に乗ると、急にモリスが立ち止まって「確実じゃないんですけどー」と前置きをして言った。


「風に乗って鉄の気配がします。こっちに来るかも知れないっす。

 いやー、来たらラッキーっすね」

「ホント? 確かにそれはラッキーね」


 アカネはガッツポーズまでしてみせた。

 何が来るんだ? 雨か?

 雨がそんなに嬉しいのか。

 まあカラカラに乾いた荒野の旅だし、雨っていい気分転換になるのかも知れないな。

 モリスの言葉を聞いたジェフとホワイトは、馬車の前の席で目を輝かせて話している。


「ガハハハハ! もしこっちに来たら、次の街でいい酒が飲めるな!」

「ボクは本を買うぞ!」


 来るのはどうやら雨じゃないらしい。

 いい酒が飲めるとか本を買えるとか。

 金が入るのか。


 となると、まさか


 外ではセレシアが馬に鞭を打つ音が聞こえた。

 馬車がゆっくりと動き出す。


「なあ、何が来るんだ?」


 問いかけたおれを一瞥もくれず、ソルダットがタバコを口に咥える。

 そして親指を立てて小さな火を出した。

 タバコの先がジュッと音を立て火が灯る。

 すーっと煙を胸一杯に吸い込んで、ソルダットは言った。


「盗賊だよ」


 おれはぞっとした。

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