the 2nd door:瓜と火星人
近しき仲のマーガレット(仮称)が、メールを寄こした。
『最近、顔が曲がってきたような気がする。なんか下のほう。瓜っぽい』
返答に窮した私は、こう返した。
『それはやはり火星人になるという兆しではないだろうか。そっちのほうが気になる』
断っておくが、マーガレット(仮称)はれっきとした地球人だ。
火星で生まれたわけではないし、行ったことも親類縁者もいない(と思う)。
それなのに、なぜ火星人か。
それは、ここ数年、彼女の顔が著しい変化を呈していることによる。
有り体に言えば、肉が落ちてきた。それも下半分がひどい。<コケた>というレベルを超えている。
一方で目が大きいため、上半分と下半分の対比が凄いことになっている。
こうなると、貧相というより怪相である。
そういえば、いつぞや見たTV番組で、とある専門家が、老化により骨密度が下がる(=骨が痩せる)と、その上に乗ってる筋肉も垂れて貧乏たらしい顔になる、というようなことを話していた。
牛乳に煮干しを入れるべきかと、現在検討中である。
本題。
そのようなマーガレット(仮称)の顔は、火星人を彷彿とさせる。
彼らに遭遇した経験はないので(そもそも宇宙人に知り合いがいない)確かなことはわからないが、世の中に広く浸透している彼らのイメージは、大きな頭に巨大な目。そして、麺を一本ずつ食べるしかないようなすぼんだ口許。おまけに毛がない。マーガレット(仮称)はハゲではないが、髪が薄いことを日頃から気にかけている。やはり、共通点があるのだ。
そんなわけで、この変化を『火星人化』と呼ぶことにした。
となると、気になるのは、瓜と火星人の関係である。
瓜は成長すると、下部に曲がりが生じてくる。見た目がよろしくないと売れないのか、農家では、あまりに曲がった瓜は出荷せず、身内で食べてしまうらしい(多分)。味に変わりはないだろうと思うのだが、それほど世の中は見た目にこだわっているのだろうか。
もちろん、真っ直ぐな瓜がメロン味で、曲がった瓜がくさや味だったら、メロン味を選ぶだろう。
が、瓜はやっぱり瓜味が一番だ。でなければ、瓜の存在意義はどうなるのだ?
何事も、見た目にこだわりすぎるのはよくない。
当然、自分も見た目にはこだわらない。平凡が一番だ。なぜなら自分が平凡だからだ。
平凡が非凡を主張するのは、カッパがろくろ首に憧れるようなものだ(多分)。
で、瓜と火星人である。
火星人の顔は下方向に真っ直ぐしぼんでいるのを特徴とするが、瓜は左右どちらかに曲がっている。
そして人間の顔は、非対称である。
もちろん、右目だけ鼻と水平にありましたとか、左の鼻の穴だけ右と比べて10倍あります的な非対称は存在しない。あくまで「ピッタリではない」、というレベルである。
そう考えると、『火星人化』というより、『瓜化』かなとも思うが、瓜に目はない。
瓜に火星人の目をつけると、一番しっくり来そうな気もするが、そんな瓜、存在するのだろうか。
とりあえず、マーガレット(仮称)には、『火星人になっても二人の関係は変わらない』とメッセージを送った。
今後の彼女の顔に期待したい。
※なお、本エッセイの内容はマーガレット(仮称)の確認を取っていることを追記しておく。