ハーレムの最後
13/03/28弱修正。
テンプレハーレムもので遊んでみました。
「一人で旅に出ようと思うの」
豪華な屋敷の食堂で、彼女はそう呟いた。
「……なんで」
スープを飲むために口に寄せていたスプーンを降ろして、俺は彼女を見る。声は辛うじて震えていなかったが、きっと顔はとても情けなく歪んでいるのだろう、その証拠に彼女が憐れむような目で俺を見ていた。
……ああ、嫌だ。こんなカッコ悪いのは俺らしくない。
「ごめんね、貴方だけをずっと好きでいられると思ってた。私だけは貴方とずっといるって思ってた。でも、結局私もみんなと同じだったわ」
「意味が解らない、なんでだよ?みんな俺が好きだって、諦めないって言っていたのに……」
ああ、カッコ悪い。そう思うのに俺は未練タラタラの言葉を止められなかった。だって、もう彼女が居なくなったら俺を好きでいてくれる女性は姫しかいない。いや違う、誰もいない。姫は結局勇者との結婚だけが目的で、そこに恋愛感情はないと俺は知っている。
……三年前、俺は俗にいう異世界トリップという非現実的なもの体験した。勇者として召喚された俺は、何処かの空想物語のようにハーレムパーティを築き上げ、そのメンバーと沢山の苦難を乗り越えて、召喚されて僅か二年で魔王を倒してみせた。物語ならばここでハッピーエンド、ハーレムエンドならばみんなで楽しく暮らして終わりだろう。
だけど、現実はそこでは終わりにはならなかった。
物語のような経験を経て俺への恋心を育んだはずの彼女達は、平和な日々のなか何故か俺から離れて行った。
始めに俺から離れて行ったのは女騎士、肉感美女の彼女は昔から彼女にセクハラめいたアプローチを掛けていた貴族の男と結婚した。結婚式では「馬鹿だし最低のセクハラ男だけど、あたしだけをずっと見ていてくれて……、正直絆されちまったんだろうね」と幸せそうに話していた。その時はまだ余裕で祝福出来た。貴族の男はちょくちょく旅の合間に顔を出しては彼女を口説いていたし、意外に一途に彼女を思っていたから、まだ納得出来ていたんだ。
次に離れていったのは俺を呼びだした巫女、彼女は魔王を倒したあと年下の新米冒険者に猛烈なアプローチをされていた。勇者である俺にも突っかかってくるような浅はかで猪突猛進な若い冒険者。思慮深い彼女が彼の思いに応えることなどないと思っていたのだが、何故か彼女は彼とともに旅に出ると言いだした。最後に「別に絆された訳じゃありません! 毎日告白されるのがいい加減うっとおしいから……、と、とにかく! 彼が好きとかそんなんじゃありませんから!」と言っていたが、彼の隣に駆けて行った彼女の表情は凄く輝いていた。その表情は俺だけに向けられていたはずなのに、俺は複雑な内心を隠して彼女の背中を見送った。
三番目に離れてったのは弓使いのエルフ、無口な彼女が俺のもとから去って行った理由は今でも良く解らない。彼女は夕飯の時に「……あの人たちが見つけたもの、私も探したい。それには、ここに居ちゃダメなんだと思う」と、いきなり言いだし、次の日には何処かに消えてしまった。
これでもう、俺が一緒に旅した仲間は、今目の前にいる魔法使いの少女だけとなってしまった。なのに、何故彼女まで……?
拳を握りしめて震える俺の手を、彼女は優しく包み込む。
「ねえ、貴方はこれからどうしようとか、考えたことはある」
「これ、から?」
俺は魔王を倒したあとは彼女たちと死ぬまで幸せに暮らしていくのだと、そう思ってた。金なら、魔王を倒したことで一生遊べるくらいの褒賞金があるし、地位だって確立している。だから、あとは彼女たちと幸せに暮らすだけでいいと思っていた。でも、彼女たちはもういない。なら……。
「君と、幸せに暮らす」
俺の手を包んでいる彼女の手に少し力が入り、なにかを期待するような眼差しが俺を突き刺した。
「私と、二人で? それって、結婚するってことでいいの?」
言われた瞬間ギクリとした。そこまで考えていなかったんだ。俺はまだ19歳、早い奴なら結婚しているが、多くはまだまだ遊びたい、自由で居たい年頃だと思う。結婚なんてまだ考えたくなかった。
俺が視線を彷徨わせていると、彼女はスッと手の力を抜いて自分の膝の上へと戻した。
「ごめんね、バイバイ」
寂しそうに笑って、彼女は席を立つ。……俺には彼女を追うことが出来なかった。
――――勇者とその最後の仲間が別れてから数百年後、彼らの旅は今でもおとぎ話として残っている。そのおとぎ話の最後にはこう書かれていた。
魔王を倒した勇者はお姫様を娶り、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。
ハーレム解散。