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ワンシーン  作者: 斗瀬
2/10

ついていますよ

 13/03/28修正。


 練習のテーマは、女性の身体をエロティックに……。

 一言、そう、一言だけだ。ただ、一言「ついてますよ」と言うだけでいい。それだけでいいんだ。


 俺は電車に揺られながら、自分の前の座席に座った女性を見て悶々としていた。ボックス席の為、凄く近い位置で舟を漕ぐ彼女は、きっとあんなのを自分がつけているなんて気付いていないのだろう。

 あんなのをつけていたら大変だ。しかもついているのが妙齢の綺麗な女の人なんだから、きっとついていると解ったときに彼女はとっても恥ずかしい思いをする。


 だから、一言「ついていますよ」と言ってあげなくては……、そう思うのだが、俺は中々声を掛けられなかった。


 だって、凄く美人なんだ。閉じた目蓋から伸びるまつ毛は長く、目鼻立ちはすっきりと整っていてクールで知的な大人の女を思わせる。だが、顎のラインは少し丸みを帯びた柔らかな輪郭をしていて、唇はふっくらと厚みがある可愛らしいアヒル口をしていて、そのギャップが妙に俺のなんとも言えない。もちろん美しいのは顔だけではない。夏用の薄い生地で出来たスーツを纏うその肢体もまたいい。肌がやんわりと透けて見えるワイシャツは上のボタンが大胆にも三つほど開いていて、大きな胸の谷間が見える。短めのタイトスカートは、丸みのある腰にピッチリと張り付き、その美しいラインを露わにしている。しかも足は組まれているため、太ももはさらけ出され、濃い色のストッキングさえ履いていなければスカートの中も確認できたのではないかという状態だった。


「ゴクリッ」


 唾を呑む音に俺は思わず口を抑えた。しかし、どうやらその音の主は俺ではなかったようだ。

 音の主、彼女を上から覗き込むエロそうな親父が、無遠慮な視線で彼女の身体を舐め回す。ああクソ、羨ましい。こっちはあんまり見たら悪いと思ってチラチラと盗み見ているというのに、あの親父めは上からガッツリ見ているんだ。きっとあの位置からなら彼女の胸を覆う下着ですら丸見えに違いない。

 そんなことを考えていると、電車のアナウンスで次の駅の名前が流れる。すると彼女は目を開き、キョロキョロと辺りを見回した後自分の隣に置いていた鞄を手に持った。


 いけない。彼女が降りる前に「ついていますよ」と、教えなくては……。


 しかし彼女は俺が声を掛ける前に立ち上がり、人の殆どいない電車内を移動して出口の前までいってしまった。


「あ、あの……」


 それでもなんとか声を掛けようと俺は立ち上がるが、そのとき丁度駅に付いたことでバランスを崩し、持ち直した頃には彼女は足早に電車から降りていってしまっていた。

 俺は締まるドアに手を掛けながら、小さくなった彼女の背中を見送る。


「行っちゃった……」


 彼女はその肩にあのエロ親父を憑けたまま、電車のホームを降りて行った。


 小説のエッセンスにエロスをまじえたい為の練習作。

 読んで下さりありがとうございました。


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