ルールは守ろう!
内容が少し宗教や思想っぽいですが、あくまでも作者個人の考えです。批判もあるでしょうが、この考えを他者にも強いるつもりはありませんので、気楽にお読み下さい。
ここは『天国の扉』がある所。
私はここで、ずぅ〜っと昔から門番をやっています。
そりゃあもう、何万年とやっているワケでして、でもいつからやっているのか覚えていません。
気がついたらここで、毎日毎日幾つもの魂を天国へ送っていたわけです。
見た目は人の16歳位の少女ですが、実際は……何万歳なんでしょうね?
エヘ。
そして今日もお仕事に励んでいます。
「はーい並んで並んで〜。急がなくて大丈夫ですよ〜。天国は逃げませんからぁ〜」
魂にはいろんなのがあります。
“金髪碧眼美女魂”、“黒髪オカッパ魂”に根元は黒く毛先は茶色のいわゆる“プリン魂”。
見ていて飽きません。ええ本当に。
「順番守ってくださいねぇ〜。
死んだ順番ですよ、自分の背番号をよぉくチェックしてください?
もし間違えて一つ早く扉くぐろうもんなら雷撃たれますからねぇ?
それから横入りもいけませんよ。
もしやってしまったら、お隣の『地獄の扉』に飛ばされますからねぇ〜」
私が受け持っている『天国の扉』の隣には『地獄の扉』があります。
もちろん、そちらにも門番はいますよ。
「オラッ!さっさと入んな!ちんたら歩いてんじゃねぇよ、バーカ。地獄行くのが怖えぇんなら悪さやってんじゃねっつーの!」
地獄の門番は口が悪い美女です。ナイスバディーで露出が激しいです。
彼女曰く、
『こんなカッコでもしねぇとウジ虫共の相手なんかやってられねぇんだよ!!』
だそうです。ちなみに私たち、仲良しです☆
「いつもながら素敵な発声ね、地獄の門番♪」
私語だけが私たちの楽しみです。
人間のようにご飯食べたり寝たりする必要がありませんから。
「ありがと。あんたも相変わらずオモシロイ魂相手にしてるわね、天国の門番?」
「そちらは変化ナシ?」
「ナシナシ。もちっとオモシロイ魂が悪さやれっての。暗いのとか狂ってんのとかもう飽きたんじゃー!!」
彼女が言っている通り、地獄に行く魂はどの魂も変わりがないのです。
なんたって人を殺すか自殺したかっていう人しかあちらにはやって来ませんから、どうしても偏るんです。
仕方がないことですが、何万年もやっていると……飽きるんです。
そりゃあ時代とともに変化してはいますが、でもガラッと一気に変わるワケじゃないので、結局変わんないんです。私達にとっては。
「確かに、そちらの魂たちは私も見飽きちゃったわ」
「だろー?マジ、やってらんねぇ」
ケッと悪態をつきながら、彼女もプロです、魂の尻を蹴ったくって地獄の門をくぐらせています。
もちろん私もプロです、きちんと魂を番号順に並べて見送っています。
「あっ!102番さん!101番さんの前に来ちゃあ……」
102番の学ラン魂が101番のサッカー少年魂がを追い越そうとしているのを発見し、止めようとしたのですが……
「あーあ」
「あら、いらっしゃい。あんたみたいなおバカ、私好きよ?だから……さっさと入んな!」
間に合わず、地獄の門番に蹴られて地獄の門へと入ってしまいました。
ルール違反は、ダメですよねぇ。
「あっはっは!いやぁ〜、スッキリ!天国の門番、プレゼントありがと〜!」
ハートをいっぱいまき散らして、地獄の門番は手を振ってお礼を言ってきました。
彼女は天国行きの魂が間違って地獄に行くことをとても喜びます。
一種の暇つぶしで、ストレス発散にもなるそうです。
「どういたしましてぇ〜!」
彼女が上機嫌だと、私も上機嫌!
不思議です。
「どーせ、天国も地獄も一緒だしぃ〜」
「私たちにとってはどっちに魂行っても変わんないもんねぇ〜」
仕事はサボらず、ウキウキと私語を楽しみます。
神の怒りはないのか?
仕事をきちんとこなしている分は、何もないんですよ。
どんなに天国行きの魂が地獄に行ってしまおうとも、私たちはここにいることが仕事、ここで魂が扉をくぐってしまうのを見届けることが仕事なんです。
注意を促すのはサービスです。
「ただ天国の方が確実に『来世の扉』に辿り着くだけだものね」
『来世の扉』とはその名の通り、次の世に新しい魂として、人あるいは動物に生まれ変わるためにくぐっていく門のことです。
「地獄では運がよくねぇと見つけられないけどな」
ちなみに地獄では『来世の扉』は『起死回生の扉』と呼びます。
まんまですね。
「天国も地獄も同じなんですけどね」
「そうだな。地獄は“恐怖”に感じるものを幻覚で見せてるだけで、天国は花畑を見せているだけ。もとは一つの真っ白でだだっ広い道だかんな」
彼女の言う通り、天国と地獄はもともと一本の道なんです。
真っ白で、果てしなく広い。この道の果てにある扉こそが『来世の扉』であり、『起死回生の扉』なのです。
ただ、天国の場合はその扉まで花畑で作り出した道を辿っていけば、自動的に着くのですが、地獄では道はなく、彷徨い続けることになっているのです。
でも確かにその扉はその道の先にあるわけですから、運良く辿り着く人も中にはいるわけです。
「そしてその扉をくぐり、またこの門までやって来る。同じ魂が別の姿で繰り返し生きてるだけだよな、生物ってのは」
「そうですね。結局同じ魂が生きて死んでを繰り返しているだけなんですから。意味あるのかしら?生まれることや死ぬことって」
「ないだろ。必要ねぇって、絶対」
途中までウキウキしていた私語が、いつの間にか真剣な話に変わっていました。
私たち門番は、生きてもいなければ死んでもいません。
だから死ぬことも寿命もありません。ずっとこの姿、ずっとここに居続けます。
魂たちがクルクルと、生・死・天国or地獄・生……と繰り返す意味が、私たちには理解できないのです。
「意味あるわ」
「あるわよ」
その時、私たちの会話に割り込んできた魂が二ついました。
地獄の方に一つ、天国の方に一つ。
彼女たちは同じ顔をしていました。
「はぁ?あるって?てめぇら死んどきながら、しかもてめぇ人を殺しておきながら、んなこと言うのか?」
「ええ」
地獄側の彼女はケロリと答えました。
「魂は同じでも、全然違う人生を生きているわ」
「……」
天国側の彼女が話します。
私たちは示し合わせたわけでもなく、その話に興味があって黙りました。
「きっと、その時その時で浄化されているのね。私が前、どんな人として生きていたのか記憶にないもの。
魂は同じでも、全くの別人として何度も生きるのよ。
素晴らしいことじゃない?あなたたちの言うその“扉”をくぐるのって、とても意味があるコトよ」
天国側の彼女の瞳は輝いていました。
「確かに、私は人を殺したわ」
地獄側の彼女が言います。
「でもそれは、私が私であるため。彼女が彼女であるためだった」
彼女たちは見つめ合っていました。
「それって、お互いの人格を尊重してのことだったのよ。
私たちは前の人から今の私たちになったことで、人はまったく違うものでしかないと知ることができた。
同じ人なんていないの。だからまた、別の人として生きられるなんて楽しみ♪」
地獄側の彼女はハツラツとした表情でした。
天国側の彼女も、とても幸せそうでした。
「あなたの力で、私たちは自分という一人の人間を見ることができたわ。ありがとう」
天国側の彼女の感謝。
「いいえ。あなたの勇気のおかげよ。ありがとう」
地獄側の彼女の感謝。
私たち門番は、その時知りました。
彼女たちが双子で、身体がくっついたまま生まれ生きてきて、そして互いの人格を尊重するために、死の道を選んだことを。
「また、次の世で会いましょう、マリア」
地獄側の彼女の別れの言葉。
「ええ、会いましょう。レスリー」
天国側の彼女の別れの言葉。
二つの魂は、それぞれの扉の中へと消えていきました。
私たちはその後、無言で残る魂達を見送っていました。
そして、毎日の8時間労働を終え、死んでやって来る魂たちを天国の扉、地獄の扉から離れた所に待機させ…
…500m離れた所に“これより12時間立入禁止”と書かれた看板を置くんです…
…私たちは門の前に座り込んで話をしました。
「魂が繰り返し生きたり死んだりするのには、意味があるって言ってましたね、マリアさんとレスリーさん」
「名前覚えてんのか?」
「一応は」
これまで魂に一方的に話し掛けたことはあっても、話を聞かされたことはありませんでしたから、今日は私たちにとって刺激的なものとなったようです。
「私は……繰り返すのに意味はないと思いますけど、やっぱり」
「私もそうだ。あれは彼女たちがそう言う生き方をしたために出てきた主観的な意見に過ぎないね」
「あら。難しい言葉使うなんて珍しい」
ちょっと茶々を入れたら、「うるせぇっ!」と怒鳴られちゃいました。
「でも、確かにいろんな人生経験できるってのは魅力的だよなぁ」
ちょっと羨ましそうな地獄の門番。
私も羨ましいです、魂たちが。
だって私たちは、ここを動くことを許されはしませんから。
「とりあえず、私たち死にませんものね。きっと人類が滅亡しない限り」
「人類だけじゃ、お前はお役御免になんねぇだろ?まだ動物がいる」
動物は本能で生きているので、善悪の区別はありません。ですから自動的に天国行きなんです。
「あ、そうか。じゃあ……地球崩壊かしら?」
「太陽系の消滅ってのもありだろ」
なんて果てしないことでしょう。
「死ぬにしても随分と先の話になりそうね」
「てか、全てなくなってんだから、また違う何かになるって無理じゃねぇ?」
「そうですわねぇ」
私たちは思わず溜め息を吐きました。
この仕事をしていることに気付いてから、こんなに落ち込んだのは、確かとっても昔に一度だけだわ。
「せめて、門番交代できたらいいのによぉ」
「本当に。前に一度試してみましたけど……」
そう、その昔、確か『ミナモトノヨリトモ』っていうその時代の日本という国で有名だった将軍がやって来た頃だったはず。
彼は地獄行きなのか天国行きなのか、微妙な所にいて……だから私たち門番もその微妙な所にやってきたのです。
その時初めて私たちは互いの姿を近くで見て、話して、意気投合しちゃったわけです。
そしてお互いに自分の仕事に飽きていた頃で、門番を交代してみようと言う話になり……
「雷に撃たれて終わったよな」
「痛かったです」
「あれぞ本当の……」
「神の怒り、雷です」
「だよな」
はぁ〜。と再び私たちは溜め息を吐きました。
あの時の雷はヒドイもんでした。
まさに神の怒り、神の怒鳴り声です。
2、3日ほど私たちは動けず、動けるようになってから3日間、休みなしで働き続けるはめになったのです。
「ルール違反って恐ろしいですよね」
「こと神様が決めたもんに関しちゃあな」
私たちはルールを守り、そして守らせてなんぼの仕事です。
せめてもの救いは友がいたこと。
これからも頑張りましょう、地獄の門番さん!
読んで下さり、ありがとうございました。もし、気分を害された方、いらっしゃるようでしたら深くお詫び申し上げます。