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高家の晒首  作者: 西季幽司
第一章「高家の一族」
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あのギターは私のもの①

 寺井の顔に、どうですか? と書いてあった。

 素材テープを見終わった西脇は、椅子にふんぞり返って、暫く沈黙した後、「使えそうだな。御家騒動自体には、めぼしい話はなかったけど、飯尾社長が先々代の高憲社長を殺したという噂があったというのは面白い。確か、先代社長も亡くなったばかりだよな。先代社長の死因は何だろう?」と言った。

「先代社長というと・・・高房社長ですよね。死因ですか?」

「不審死の噂があったりして。そうなると、社長が三代続けて、不審死を遂げたことになる。それも殺されたとなると――」

「ビッグニュースですね!」と寺井が目を輝かす。

 高憲―高房―そして飯尾、と品川ケミカルの社長が三代、続けて殺された、連続殺人となると、生首が晒されるという、ただでさえショッキングなニュースが、更に世間の注目を浴びることになる。

「週末の放送で、それを匂わすことが出来れば、話題になること、間違い無し~だね」西脇がにやりと笑った。

「調べてみましょう」

「この素材も、上手く編集しといてね。放送で使いたい」

「任せてください」

「残業はダメだよ~」

「分かっています。家に持って帰ってでも仕上げます」

「聞かなかったことにする」

 品川高房の死因については直ぐに分かった。

 仮にも会社の社長だ。サクラ・テレビ局内で情報を集めることができた。社会部に行けば、訃報をもとに詳しい話が聞けた。

「どうやら自殺したみたいだ」と社会部の記者が言った。

 若くして突然、亡くなったので、不審に思い、社会部でも調べてみたらしい。

 品川家の関係者から話を聞いたところ、高房は自宅の天井のフックにロープをかけて、首を吊って死んでいたそうだ。部屋はベッドに机と椅子が設置されているだけの簡素な部屋で、高房は椅子の上に立ち、天井のフックにロープを掛けて、首を吊って死んでいた。

 床の上には、部屋の鍵が転がっていた。

 直ぐに救急車が呼ばれたが、高房が死亡していることは明らかだった。警察が呼ばれ、遺体の検死が行われ、関係者への事情聴取が行われた。

 仕事面では、高房は飯尾の専横に苦しんでいた。私生活では、妻の翔子とうまく行っていなかったという話があった。生きていることが苦痛になり、突発的に自殺してしまったのではと考えられた。

 結局、西脇はまたテレビ局の仮眠室で夜を過ごすことになった。

 寺井が帰宅するのを見守る――という名目で、残業している内に、零時を回ってしまい、帰宅するのが面倒になってしまったからだ。寺井は零時を回る前に帰宅した。寺井の帰宅する姿を見送り、最後まで職場に残っていた。仮眠室が西脇の別宅だ。

 その夜、西脇は夢を見た。


――男が座っている。立派な机に突っ伏しているので、顔が見えない。

 男はぶつぶつと呟いていた。だが、声が小さ過ぎて聞こえない。何と言っているのだろう?男に近づいてみる。

――あのギターは私のものだ。誰にも渡さない。あのギターは私のものだ。

 男はそう言っていた。

 ギター? ギターがどうかしたのだろうか。

 男が顔を上げる。そして、言った。

――あのギターを取り返してくれ。


 仮眠所のベッドの上で目を覚ました西脇は、起き上がって「何! 何だ?」と叫んでしまった。そして、夢だと気がつくと、「全く・・・やってられねえな・・・」と呟いて寝直した。


「サタデー・ホットライン」は大盛況だった。

 レポーターとして羽田が登場、被害者である飯尾連傑が社長を勤めていた品川ケミカルと三浦化学との関係、品川ケミカル創業時のエピソード、それに会社を舞台に繰り広げられた御家騒動を詳しく紹介した。

 斎藤のインタビュー映像も使った。だが、流石に、飯尾が高憲社長を殺害したという噂があると語った斎藤の姿は流す訳には行かなかった。

 そして、三代続けて社長の不審死が続いており、そこで高憲社長の死は病死ではなかったという噂があることを羽田が匂わせた。

「鬼牟田さん、最後に、この事件、どうご覧になりますか?」

 ニュースの締めくくりに、総合司会の宮崎が圭亮にコメントを求めた。

 事前の打ち合わせ通り、「僕は品川邸の槍門に突き刺さっていたと言う被害者の生首が、どちらを向いていたのかが非常に気になります。生首が外を向いていたとすれば、犯人は被害者を殺害したことを、広く世の人に知らしめたかったのでしょう。反対に屋敷の方を向いていたとしたら、犯人は屋敷にいた人間に対して、被害者を殺害したことを知らしめたかったのではないかと思うのです」と圭亮が自説を披露した。

「なるほど――」と宮崎が大仰に感心して見せた。

 すると気を良くしたのか、圭亮は事前の打ち合わせには無かったことを言い出した。「僕は胸騒ぎがするのです。生首が屋敷の方を向いていたとすると、事件はまだ終わっていないぞと屋敷の人間に告げているような気がします。まだ続きがあるのではないかと思えるのです」

「この事件に、まだ続きがあると言うのですね!? 鬼牟田先生は更に人が殺される可能性があるとおっしゃっているのですか?」

 打合せに無かったので、宮崎は演技ではなく本当に驚いていた。

 圭亮のこのひと言のお陰で、宮崎がニュース・コーナーを締めることができないまま、コマーシャルへと突入してしまった。

 この一言が、圭亮を否応なく事件に巻き込んでしまうことを、圭亮は勿論、この場にいた誰も予想していなかった。


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