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高家の晒首  作者: 西季幽司
第一章「高家の一族」
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御家騒動④

「それが会社を辞められた理由でしょうか?」

「まあ、そうです。訴えを聞いて、全てがどうでも良くなりました。仲間たちからの信頼関係を失ってしまった以上、もうここで研究は続けられないと思いました。私はご覧の通り学者馬鹿です。研究が続けられないなら、会社に留まる意味がありません」

 後ろ盾となっていた高憲が急逝したことがきっかけとなり、斉藤は品川ケミカルを退社した。実は、品川ケミカルに在職していた時に既にアメリカの大学の研究機関から、「うちでLEDの研究をしてみないか」と勧誘を受けていた。品川ケミカルを退社後、斉藤は直ぐに渡米し、好きなLEDの研究を続けた。

「二代目社長が亡くなられたことで、あなたは会社を辞める決心を固められた訳ですね? あなたを会社から追い出した飯尾さんを憎んでいたのではありませんか?」

「恨んでいた? ううん・・・まあ、そうですね。高正社長、高憲社長には、本当によくして頂きました。特に年が近かった高憲社長とは公私共々、親しくさせて頂きました。ずっと品川ケミカルで研究を続けたかったと、今でも思っています。それを邪魔したのが、あの男でした」

「飯尾さんを憎んでいた訳ですね?」羽田が念を押す。

「はは。だからと言って、僕は飯尾さんを殺してなんかいませんよ。先ほども言いましたが、飯尾さんが殺害された日、僕はここにいました。後で学生たちに聞いてもらえば、僕が研究室にいたことを、証言してくれると思います」

 斉藤はそこで言葉を切ると、意外な言葉を口にした。「そうそう。飯尾さんと言えば、高憲社長が亡くなった時、時期が時期でしたので、飯尾さんが社長を殺したのではないかと言う噂が社内で流れました。飯尾さんが殺害されたのは、それが原因かもしれません」

「飯尾さんが二代目社長の・・・たか・・・何でしたっけ?」

「高憲です。初代が高正社長、二代目が高憲社長、三代目は高房社長です。由緒ある家柄ですから、我々庶民とは違い、家督を相続する長子は代々、高の字を受け継ぐようです。いかにも大名家の血筋といった感じだ」

「ああ、なるほど。それで、飯尾さんが、その高憲社長を殺害したのですか?」

「あくまで噂があっただけです」斉藤は研究者らしく、羽田の言葉を訂正した。

「一体、どういう噂だったのでしょうか?」

「高憲社長は、もともと心臓病を抱えていました」斉藤はそう前置きすると、高憲が亡くなった時に社内に流れていた噂を紹介してくれた。

 社長室を訪れた飯尾は、机に突っ伏して死んでいる高憲を発見した。遺体の第一発見者が飯尾だったことから、「斉藤を会社から追い出す為に、後ろ盾となって邪魔だった高憲社長を飯尾が殺害したのではないか?」と言う噂が流れた。

 高憲は心臓に持病を抱えおり、検死の結果、死因は心臓発作だと診断されている。

「はっきり言って根も葉もない噂でした。ただ、高憲社長が亡くなる前、飯尾さんはアメリカに出張しており、当時、まだ珍しかったスタンガンを購入して持ち帰って来ていました。娘の護身用だと飯尾さんは言って、周囲にスタンガンを見せびらかしていたようです。ですが、当時、彼の娘さんはまだ中学生だったと思います。高憲社長が亡くなると、『飯尾さんがスタンガンを使って心臓発作を引き起こしたのではないか?』と噂になりました」

 スタンガンは心臓に持病のある人間に使用すると、最悪の場合、心臓発作を起こす可能性があると言われている。

「なるほど。飯尾さんはスタンガンを用いて、高憲氏に心臓発作を起こさせ、殺害したと言う訳ですね」

 斉藤は「あはは」と笑い声を立ててから言った。「私はアメリカに暫くいましたので、多少は詳しいのですが、スタンガンは五万ボルトから大きなもので、百十万ボルトの電圧を瞬時に発生させ、相手に衝撃を与えることができます。一般の家庭用電圧が日本では百ボルト、海外でも二百ボルト程度ですので、その大きさが分かると思います。スタンガンを使用されると一時的に運動機能が麻痺してしまいます」

「相当、危険なもののようですね?」

「それが、そうでもないのです。発生電圧と通電電圧に差がある上に、発生は一瞬ですので、電流値であるアンペアはごく僅かなものになります。電力量としては決して大きく無いのです。例えば、冬場の静電気でも二万ボルトになると言われています」

「なるほど・・・」

「スタンガンが原因による死亡例などごく僅かで、安全性は証明されています。スタンガンを使って、人を殺害することなど、個人的にはできないと思っています」

「しかし、高憲社長は心臓に持病を抱えていらっしゃった。となるとスタンガンを使用して殺害することが可能だったのではないでしょうか?」

 竹村の質問に、斉藤は「うーん」と腕組みすると、「まあ、スタンガンを心臓に押し付けて、何度も放電すれば、或いは可能かもしれません。しかし、それで殺害できるかどうかは運次第なところがあります。人を殺害しようとして、そんな不確かなやり方をしないでしょう」と答えた。

「確かにスタンガンを何度も胸に押し当てて使用すれば、胸に火傷の跡が残るでしょうね。検死で気づかないはずがない」

「そうです。そんなことをすれば、胸に小さなヤケドによる水ぶくれが幾つも出来てしまいます。検死どころか、駆けつけた救急隊員が気付くでしょうね。それに、もし飯尾さんが高憲社長を殺害する為に、アメリカでスタンガンを購入したのだとすると、それを周囲に見せびらかしたりしないでしょう。アメリカで珍しい物を見つけて、いずれ娘さんが大きくなったら渡そうと思い、買って帰ったと言うのが本当のところだと思います」

 斉藤の説明は科学者らしく理にかなったものであったが、飯尾が高憲を殺害した可能性は否定できないと思えた。

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