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高家の晒首  作者: 西季幽司
第四章「愛の形」
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さまよう生首①

 ぐるぐると視界が回る。

――止めろ! 気持ち悪くなるだろう。髪の毛を持つな。毛が抜ける。

 やっと回転が収まった。

 視界に飛び込んで来たのは、首のない胴体だった。それを随分、低い位置から見ている。

――ああ、そうか。

 分かった。切断された首なのだ。切断された首が見ている光景なのだ。誰かに髪をつかまれ、ぶら下げられている。

 ゆらゆらと動いて、部屋を出て行く。

 目の前でドアが閉まる。鍵穴に鍵を差し込んで、鍵をかけるのが見えた。

 歩く度にぐらぐらと揺れる。廊下を歩き、階段を降りて、また廊下を歩く。台所を横切って、勝手口の前で立ち止まる。

 ドアを開けると、一気にかけた。振動で、上下左右に激しく揺さぶられた。

――止めてくれ! 目が回る。


 目が覚めた。夢だ。また夢を見た。

 今度の夢は、飯尾らしい。それくらい、西脇にも想像がついた。しかし、どういう意味があるのか。それは圭亮に聞いてみないと分からない。

 それにしても、気持ちの悪い夢だった。首を斬られて、ぶら提げられている夢だ。

 西脇は首筋を撫でまわして、ちゃんと胴体とつながっていることを確かめた。久しぶりの自宅のベッドだ。寝直すことにした。

 翌日、出社すると早速、圭亮に電話をかけた。

「おや、西脇さん。放送が終わったばかりだと言うのに、こんな朝早くなら何かありましたか?」

「先生、夢を見ました」

「夢ですか! で、どんな?」

 西脇の夢に興奮してくれるのは圭亮くらいだろう。なるべく詳しく夢の内容を話した。

「・・・」夢の内容を聞いた圭亮は、暫く無言だった。電話が切れたのかと思ったほどだ。

 俯瞰的演繹法が発動したのかもしれないと思って、黙っていた。こういう時に、うっかり思考を遮ってしまうと、つむぎかけた推理の糸がぷっつりと切れてしまうらしい。一度、切れた推理の糸は二度と、もとに戻って来ない。

 沈黙の後、圭亮が言った。「少し、考えてみます」

 電話を切った後で、西脇が愚痴った。「考えていたんじゃないのかいっ!」

 一時間ほどしてから、圭亮から電話があった。開口一番、「西脇さん、今から出かけることができますか?」と聞かれた。

「今からですか? どちらへ?」

「実は――」圭亮が言うには、最後の密室、飯尾の部屋が密室だった謎が解けたかもしれない。だが、圭亮の推理通りだとすると、犯人が限定されてしまう。しかも、動機が全く分からなくなると言うのだ。

「密室の謎が解けたのですか⁉」

「いや。解けたというか、そうとしか考えられないなあ~というのがあります。そこで、試しに竹村さんに相談してみたところ、今日は今から横浜まで飯尾さんの奥さんの事情聴取に行くことになっている。それから、僕の推理が正しいかどうか検証してみましょうという話になって、飯尾さんの奥さんの事情聴取に同行しませんかと誘われました。どうせだったら、西脇さんもと思い、電話しています」

「飯尾さんの奥さんから事情聴取?」

 飯尾夫人から事情を聞く理由として、品川ケミカルの社員からの事情聴取で、「前に一度、飯尾さんの奥さんが会社に乗り込んで来たことがあります。飯尾さんの部屋に押しかけて来て、派手に浮気を責めていました。奥さんの怒鳴り声が部屋の外にまで漏れて、あっという間に噂が会社中に広まりました」という情報があったかららしい。

「奥さん、飯尾さんの浮気相手が翔子さんだと気が付いていた形跡があります。女の感は怖いですね。私立探偵でも雇って、調べたのかもしれません。奥さんから話を聞いておいた方が良いと思い、横浜まで出かけるところでした」と竹村が説明したそうだ。

「先生、グッジョブ!行きます。ついでに先生が解いた密室の謎を教えてください」そう返事をした時にはもう、西脇は上着を羽織っていた。

 一旦、圭亮のマンションに待ち合わせて、そこから警察車両で横浜に向かった。

 圭亮は長い体を器用に折り畳んで後部座席に収まった。大型車なのだが、巨漢の竹村と圭亮を乗せた車は狭く感じられた。圭亮が乗り込んだ途端、「鬼牟田さん。詳しい話をお聞かせいただけますか?」と竹村が質問を浴びせかけた。

「は、はい。西脇さんが夢を見たそうで――」と西脇の夢の話を始めた。西脇の夢の話はもう共通言語となりつつある。「ああ~」と竹村は半信半疑で聞いてくれた。

「正直、動機が何なのか? 何故、飯尾さんと品川翔子さんを殺したのか、まるで分かりません。ただ、密室の謎が解けてみると、いえ、僕の想像通りだとすると、彼が犯人だとしか思えないのです。どう考えても彼にたどり着いてしまう――」圭亮が自らの推理を滔々と述べている間に、車は横浜に着いた。

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