親子の相克②
斉藤からの事情聴取を終え、さてどうしようかとなった時、「金子に会いに行ってみましょう」と吉田が言った。
「金子?」
「ほら、斎藤さんの後任として研究開発部門の責任者だった男ですよ。その後、研究成果がないと言われ、飯尾にクビをい切られた」
「ああ~」と竹村が頷く。
どうやら席を中座して金子の所在地を調べていたようだ。
「会社を辞めた人間なら、面白い話が聞けるかもしれませんね」と圭亮が言うので、金子のもとに向かうことになった。
吉田によると、住民票では、千葉県松戸市にあるアパートに住んでいることになっていた。安孫子から近くはないが同じ千葉県だ。
金子が住むアパートへ向かった。
道中、「金子は今、何をやっているんだ?」と竹村が聞くと、「すいません。そこまでは分かりません」と吉田が答えた。
「最近は『すいません』でも良いみたいだけど、『すみません』が正しい日本語だからな」と竹村が関係のないところに突っ込む。
「先輩、時々、日本語にうるさいですよね」
「言っただろう。俺は鋼の肉体を持ったインテリなのだよ」
「脳味噌が括約筋で出来ているような人がよく言いますよね」
「括約筋とは何だ! 括約筋って肛門の筋肉のことだろう? 普通、脳味噌、筋肉だろう」
「あら、先輩の脳みそは筋肉なのですか?」吉田が「えへへ」と笑う。
賑やかな車内だった。長い道中でも退屈しない。
尋ねてみると年季の入ったアパートで、金子は留守のようだった。
二階建てのアパートで、一階に三室、二階の三室の計六室がある。二階の角部屋が金子の部屋だ。郵便受けを覗いてみると、郵便物が溜まっていなかったので、このアパートに住んでいると見て間違いなさそうだ。
近所を聞き込んで回ると、一階に住む主婦が在宅しており、「二階の金子さんですか? 奥さんと二人のお子さんがいたのですが、一年くらい前ですかねえ~奥さんがお子さんを連れて出て行ったみたいですよ」、「この間ね、駅前のコンビニで働いている姿を見ました」と教えてくれた。「刑事さん、金子さんが何かしたんですか? 何か、事件の犯人だとか? 怖いわよね~最近は何かと物騒で――」噂話が大好きな様子で、話がつきないので、竹村は「ご協力、ありがとうございました」と礼を言って、アパートを出た。
早速、駅前のコンビニエンス・ストアに寄ってみると、中年男性の店員が働いていた。「金子透さんですか?」警察バッジを見せながら尋ねると、男は突然の刑事の訪問に驚いた様子だった。金子だ。
「私に何か?」
「少々、お尋ねしたいことがあります」
「店ではちょっと・・・休憩を取って来ますので、外で話をしましょう」と金子が言うので、そろってコンビニを出た。
人通りの多い駅前広場での立ち話となった。
「三年前に、品川ケミカルという会社にお勤めでしたよね?」竹村が尋ねると、金子は「ええ」と頷いた。
「会社を退社される際、当時、役員だった飯尾さんとトラブルになったと聞きました」
ここで金子は「ああ、飯尾さんが殺された事件の捜査ですね!」と刑事が訪ねて来た理由に合点が言った様子だ。そして、「へえ~私みたいな者のところにまで、話を聞きに来るんだ」と感心していた。
「当時の状況を、お聞かせ頂けますか?」
「当時の話ですか。まあ、今更、隠し立てする必要など、ありませんから、包み隠さずお話しますが」と言って、金子は当時の状況を語った。
「斉藤が研究成果を独り占めにしている」と社長に訴え出た金子たちだったが、案の定、裏で糸を引いていたのは飯尾だった。
「斉藤さんの後釜として、君を考えている。君に研究開発部を任せたい。大丈夫、俺に全て任せておけば心配ない」とそそのかされて、部員を扇動して訴え出たのだ。金子は「全てが斉藤さん一人の成果のように言われるのは心外だった」と言った。
斉藤を追い出した後、飯尾は約束通り、金子を斉藤の後釜に据えた。
金子の指導の下で五年、LEDの研究開発が進められた。
「白色LEDの開発など、いくつか製品化に成功したものがあります」と金子は胸を張るが、開発は後手に回った。金子たちの開発が終わった段階で、既に他社の製品が出そろっているような有様だった。
一方、アメリカに渡った斉藤は、その後も画期的な発見を続け、ついにはノーベル賞候補と言われるようになった。
――君はもう会社に必要ない!
ある日、社長室に呼び付けられると、金子は飯尾からそう言い渡された。三代目社長、高房が同席していたが、苦りきった表情を浮かべるだけで、何も言ってはくれなかった。
「高房さんは、飯尾さんに弱みを握られていましたからね。飯尾さんには逆らえなかったのでしょう」
「弱み?」金子の言葉が引っ掛かった。
「刑事さん相手に言うことじゃないかもしれません。ですが、高房さんも飯尾さんも、もう故人ですから、話しても差支えないでしょう」




