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高家の晒首  作者: 西季幽司
第三章「心理的密室」
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死角④

「お願いがあるのですが」と竹村が改まって言った。

 圭亮だけにではなく、西脇にも言っているようだ。

「何でしょう?」西脇が尋ねると、品川ケミカルの御家騒動について教えて欲しい、特に斎藤栄治からのインタビュー映像を全て見せてもらいたいというものだった。「サタデー・ホットライン」品川ケミカルの御家騒動について報道があり、それを見た警察上層部から「御家騒動があったなんて聞いていない。ちゃんと捜査しているのか⁉」とお叱りがあったらしい。

「調べて報告したい」という話だった。

「何だか、すいません」と西脇は謝るしかなかった。

「いえ、気にしないでください」と竹村は言ってくれたが、(はらわた)が煮えくり返っているのかもしれない。

「勿論、警察の捜査には喜んで協力させていただきます」と西脇は斎藤を取材した素材のテープを丸ごと提供することを約束した。

 すると、それを聞いて、「そう言えば、中山さんが言っていた、品川のホテルの中華レストランで二人が言い争っていたという話が気になりますね」と圭亮が呑気に言った。

「ああ、それは気になりました」と竹村も言う。

「斎藤さんに会いに行きましょう。僕も会ってみたい」と圭亮が言い出したので、斎藤と連絡を取ってみることになった。寺井に頼んで都合を聞いてもらうと、「どうせ一日中、研究室にいるので、何時でも尋ねて来てくれ」という返事だった。

「では、招知大学の安孫子キャンパスに向かいましょう」

 道々、御家騒動について説明をしながら、斎藤の研究室に向かうことになった。

 御家騒動の説明が終わると、吉田が圭亮に尋ねた。

「ところで、鬼牟田さん。サタデー・ホットラインの金田一耕助として、今回の事件、どう見ています?」と聞いて来た。

「サタデー・ホットラインをご覧になったことがあるのですか?」

 圭亮が「サタデー・ホットラインの金田一耕助」と呼ばれていることを知っていると言うことは、番組を見ているのだ。

「ええ。ちょくちょく見ています」と吉田が答えると、「へえ~お前が情報番組を見ているなんて意外だな」とすかさず竹村が口を挟んだ。

「先輩みたいに体育会系の番組ばかり見ている訳ではありません」

「体育会系で悪いか。俺はね。鋼の肉体を持つインテリ刑事なのだよ」

「インテリア刑事でしょう」

「何だ? インテリア刑事って」

 調子にのって圭亮が横槍を入れる。「まあ、まあ。インテリ刑事とかけて、暴走族のリーダーを目指す不良と解く。そのココロは?」

「暴走族のリーダーですか?」

「さあ。何です?」

「アタマが良い――です」

「ああ~なるほど。頭と書いて“かしら”と読みますからね」

「止めましょう。解説は」

「そうですね」車内が静まった。

 沈黙の後、改めて吉田が尋ねる。「今回の事件、どう見ます?」

「事件の発端は、高房さんの死でしょう。彼が殺害されたことが、犯行の動機となっていると思います」

「鬼牟田さんは、最初から高房さんが殺されたと言っていましたね」根拠は薄弱だ。西脇の夢だった。「となると、動機は復讐でしょうか?」

「ひとつは復讐でしょう。高房さんと関係が深かった人間が犯人だと言うことになります。もうひとつは品川家の遺産。ただ、これは高房さんの死後、翔子さんのものになっています。今更、翔子さんを殺しても、戻って来ないでしょう。意外に、動機としては薄いのかと思います。そして、最後に――」と言った、圭亮は言葉を切った。

「最後に?」

「品川ケミカルの社長の座です。飯尾さんがいなくなり、翔子さんがいなくなれば、対抗馬がいなくなり、次の社長は品川一族の手に戻ることになるでしょう。犯行の動機となり得ます」

「今のお話ですと、はやり正子、正憲姉妹が最も怪しいということになりますね」

「現時点で分かっているのは、そんなところです。すいません。お役に立てなくて」と圭亮が申し訳なさそうに言う。

「いえ、大変、参考になりました」

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