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高家の晒首  作者: 西季幽司
第三章「心理的密室」
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死角②

 正門にあるくぐり戸を抜け、防犯カメラに向かって手を振りながら、竹村が吉田に電話をかけた。ハンズフリーにして会話を始めた。

「吉田~! 門を出たぞ。どうだ、見えたか?」

 とにかく正憲の後を追って、懸命に走った。気が付いたら正門の前に来ていた。

 後は向こう正面の北西の壁の上にある防犯カメラに注意して、くぐり戸を抜ければ、外に出ることができた。くぐり戸の鍵は正憲が持っていた。

 電話に出た吉田が驚きの声で言う。「あれ? 先輩、何時の間にか屋敷から抜け出したのですか。ここでずっと防犯カメラのモニターと睨めっこをしていましたが、品川さんと先輩の姿は見えませんでした」

「だろう」と竹村は自慢気だが、正憲と竹村の姿は見えなかったと言うことは――

「西脇さんの姿はちょくちょく見えていたので、大体、どの辺にいるのかは分かりました」と言うことだった。

 流石に運動不足で思うように体が動かなかった。ドンくさい姿を晒してしまった上に、二人の足を引っ張ってしまったようだ。

「すいません」と西脇が謝る。

「三人は無理だったか。でも二人なら見えなかっただろう。昔、高房と二人で、一生懸命検討したからね」

「本当に防犯カメラに映らずに屋敷を出入りする方法があったのですね」と圭亮。

 密室だらけの事件だが、これで、二重の密室の謎のひとつが解けたことになる。残るは飯尾の部屋の密室の謎だけになった。

「そうだ。これで、あの女が殺された夜、俺たち以外の人間にも、犯行が可能だったことが分かっただろう」と正憲が無邪気に言うが、一体、どれだけの人間が、この防犯カメラの死角となるルートを知っているのだろうか。

 正憲は有力な容疑者のままだった。

 一旦、正憲からの事情聴取を切り上げ、屋敷内で忙しそうに飛び回る安井を捕まえた。勝手口の鍵について確かめる為だ。

 翔子殺害時、外部から秘密の抜け道を通って屋敷に侵入したとなると、誰が勝手口の鍵を持っていたかが問題となる。

「前社長の四十九日の法要で屋敷に宿泊された皆様には、屋敷から外出されることがおありですから、お部屋の鍵と一緒に玄関の鍵と正門のくぐり戸の鍵をお渡しました。最も、昔、屋敷に住んでいらっしゃった正憲さんと正子さんは、玄関の鍵やくぐり戸の鍵をお持ちでしたので、お渡ししていません。お部屋の鍵だけお渡ししました。勝手口の鍵は必要ないと思ったので、誰にもお渡しませんでした」安井は固い表情で答えた。

 実直な性格だからだろう、余計なことは極力話したくない様子だ。

「戸締りは確認されましたか? あなたが屋敷を出る時、勝手口のドアは鍵がかかっていましたか?」

 安井は通いの執事だ。飯尾が殺害された夜も、翔子が亡くなった夜も、勝手口は勿論、屋敷の戸締りは確認して帰ったと言う。防犯カメラの目を盗んで、公園側から品川邸の敷地内に侵入できたとしても、屋敷に入ることが出来なかったはずだ。

 ただ、勝手口の鍵は、ボタン式になっていて、ドアノブの中央にあるボタンを押すことで、開錠、施錠をすることができた。オートロックにはなっていない。宿泊者は玄関から出入りすれば良いので、日中は鍵がかかっていないことが多いらしい。

 飯尾の首を切断し、勝手口から外に出て、防犯カメラに映らずに正門に行くことが出来た。そして、首を門柱に突き刺し、また同じようにして勝手口から屋敷内に戻って来ることができたはずだ。

 後はドアに鍵をかけておけば良い。

 住人である翔子以外、勝手口の鍵は持っていないはずだが、かつて品川邸に住んでいた正子と正憲は、正門のくぐり戸の鍵を持っていたくらいなので、勝手口の鍵を持っていても不思議ではなかった。

 当然、高房も勝手口の鍵を持っていたはずだが、安井にも詳しいことは分からない様子だった。

「ところで――」と竹村は安井を問い詰める。「正憲さんが言うには、あなた、飯尾さんが裏庭にある秘密の抜け道を通って、屋敷に忍んで来ているのを、知っていたそうですが、違いますか?」

「えっ・・・」と安井が絶句する。どう言い逃れをしようか考えている様子だったので、竹村が畳み掛けた。「防犯カメラの映像に、裏庭にある秘密の抜け道を通って忍んで来る飯尾さんの姿が映っていたのではありませんか?」

 竹村の言葉に安井は観念した様子だった。

「はい」とうなだれると、話始めた。「もう一年以上も前の話になります。不定期的に防犯カメラの映像をチェックしているのですが、ある日、夜中に裏庭から忍んで来る怪しい人影を発見しました」

 安井は当然、侵入者だと考え、警察に通報しようとした。だが、警察沙汰になると、当然、品川邸の当主だった高房に迷惑がかかってしまう。事前に了解が必要だ。安井は高房に相談した。

 防犯カメラの映像を見た高房は、「このことは誰にも言わないでおいて下さい」と安井に言って頭を下げた。高房が何を考えているのか、分からなかったが、安井は警察への通報を見合わせた。

 その後、防犯カメラの映像をチェックしていると、頻繁に侵入者の姿が確認できるようになった。侵入者は男で、動作が機敏でないことから、年のいった人物のように見えた。

 そして、ある月夜の晩に、月明かりに浮かび上がった男の顔を見た時、安井には侵入者が誰だか分かった。

「侵入者は飯尾さんでした。飯尾さんだと分かった瞬間、私には高房さんの気持ちが理解できたのです」

 高房は一目見て、侵入者が誰であるのか気が付いたのだ。少なくとも一年前から、飯尾と翔子は不倫関係にあったことになる。

 安井が侵入者の存在を告げた頃から、高房は二階の空き部屋を寝室として利用するようになった。

「飯尾さんが屋敷に忍んで来ている理由も、何となく推察できました」安井は言った。

 顔には高房への同情が滲み出ていた。

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