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高家の晒首  作者: 西季幽司
第三章「心理的密室」
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ふたつめの密室の謎①

 女だ。女がいる。

――待ちなさい。

 と誰かを追いかけようとしているようだが、何かに引っ張られて動けない。

 首だ。犬のように首紐をつけられているのだ。

 懸命に手を伸ばすのだが、その誰かに手が届かない。

 その背中に向かって女が言い放つ。

――あなたを許しませんよ。

 だが、その誰かは、分かっています。あたなと共に地獄へ落ちましょう。お供いしますと答えると、ドアを開けて出て行った。


 西脇は飛び起きた。

 そうだ。またテレビ局の仮眠室に泊った。どうやら夢を見たらしい。西脇が見る夢は、死者からのお告げだと圭亮は言う。

 一体、どういう意味があるのだろうか? 取り敢えず圭亮に相談してみるべきだ。折角、寝付いたところだったが、考えれば考えるほど、眠れなくなってしまった。

 まんじりともせずに夜明けを迎えた。圭亮は朝が早い。西脇は電話をかけた。

「変な夢を見た」と言うと、「直ぐにそちらに向かいます。詳しく教えて下さい」と電話を切られてしまった。

 会って話さなくても良いのだが、圭亮を待つしかない。

 シャワーを浴びてさっぱりしたところに、圭亮がやって来た。

「ああ、先生。こちらに。コーヒーを用意してありますよ」と言うと圭亮が「やっ!コーヒーですか。それはありがたい」と嬉しそうな顔をした。

 何時もの会議室に移動する。

 自らコーヒーを配膳してから、西脇は今朝、見た夢について話した。

「ほへ~」と圭亮は奇妙な声を上げると、黙り込んだ。大好きなコーヒーを前に、腕を組んで、座ったまま動かなくなってしまった。

 俯瞰的演繹法が発動したのだ。

 こういう時は、放っておくに限る。うっかり思考を遮ってしまうと、つむぎかけた推理の糸がぷっつりと切れてしまう。一度、切れた推理の糸は二度と、もとに戻って来ないかもしれない。

 西脇は会議室を出ると、席に戻って仕事を始めた。

 たっぷり一時間、圭亮のことを忘れて仕事に励んだ。ふと、思い出して会議室に顔を出すと、圭亮は一時間前に出て行った時の姿のまま固まっていた。出直そうと踵を返した瞬間、「ああ、西脇さん。お待たせしました」と圭亮が声をかけてきた。

「すいません。推理の邪魔をしてしまいましたか」と西脇が言うと、圭亮は「いいえ。品川翔子さんの密室の謎が解けた気がします」と答えた。

「密室の謎が解けたのですか⁉」

「現地に行って確かめたいのですが、どうしましょう」

「あの竹村という刑事さんから名刺をもらっています。連絡を取ってみましょう」

 頭を使い過ぎたのか、悄然とした様子で「お願いします」と圭亮が言い、冷めたコーヒーカップに手をつけた。

「先生。そんな冷めたコーヒーなんか飲まないで、暖かいコーヒー、煎れ直しますよ」

「結構ですよ~西脇さん。冷めたコーヒーとかけて、初心者の車庫入れと解く。そのココロは?」

「おや。謎かけですか。さて、何でしょう」

「入れ(煎れ)直しが必要です」

「まあまあですね。電話してきます」

「はい」

 竹村と連絡を取ると、現地集合にしましょうと言われた。

「先生。出ます!」と圭亮を引きずるようにして品川邸に向かった。

 道中、密室の謎を聞きたかったが、我慢した。

 品川邸に着く。あの林のような槍門が行く手を遮っていた。インターホンで到着を告げると、安井だろう、「今、門を開けます」と遠隔操作で門を開けてくれた。

 本館前には見慣れた警察車両が停まっていた。竹村たちはもう到着しているようだ。待ちかねていた。「密室の謎が解けたそうですね」と竹村が飛び出して来た。

「先輩。少し落ち着いて」と吉田になだめられる。

「ああ、これは失礼しました。まあ、中に入って。さて、鬼牟田さん。ご足労、恐れ入ります。密室の謎が解けたそうですね?」

 挨拶もそこそこに、圭亮に西脇、竹村と吉田の四人は品川邸に上がり込むと、翔子の死体が見つかった寝室へ向かった。

「と思います」と圭亮が答える。

 圭亮はドアを気にして、蝶番を調べたり、何度もドアを開け閉めしたりして、隙間が無いか確認した。

「一体、犯人はどうやって密室にしたのですか?」と竹村が尋ねると、圭亮は意外な言葉を口にした。

「それが・・・犯人は寝室を密室にする気などなかったのではないかと思います」

「密室にする気がなかった? どういう意味です? でも、遺体が発見された時、寝室のドアには鍵が掛かっていたのですよ?」

「そうでしょうか? 僕の観察眼など当てにできませんが、どう見てもこの部屋のドアに機械的な密室トリックを仕掛けることは難しかったと思います。となると、心理的な密室トリックを使ったのでは無いかと思うのです。それを仕掛けたのは、一連の流れを考えると、正憲さん以外にはいないと思います」

「品川正憲!」

 正憲ならばジョン・ハリーのギターの件で飯尾を恨んでいたし、一族の遺産を独り占めにすることになった翔子を恨んでいたとしても不思議ではない。一連の事件の犯人像と合致している。

「考えてみて下さい」圭亮は言う。

 当日、何時もは朝の遅い正憲が、その日に限って早く起きて来た。そして、頼まれもしないのに、翔子の様子を見に寝室へ足を運んでいる。

「その後、正憲さんは食堂に駆け込んで来て、『翔子さんの様子がおかしい。寝室には鍵がかかっている』と言い、安井さんを急き立てて合鍵を取りに行かせました。そして、安井さんから合鍵を奪い取ると寝室に向かっています。そうですよね?」

「ええ。そう証言しています」と吉田が頷く。

「安井さんから合鍵を奪い取った正憲さんは、翔子さんの寝室に行くと、がちゃがちゃと鍵を回してドアを開けた。部屋の中には天井から首を吊った翔子さんの遺体がぶら下がっていた」

「そうです」

「頼まれもしないのに翔子さんを起こしに行ったり、合鍵を使って女性が一人で寝ている部屋のドア開けたり、正憲さんの行動はどこか不自然です。しかも、ドアに鍵が掛かっていたと証言しているのは、正憲さんしかいません。

 本当にドアに鍵がかかっていたのでしょうか? 部屋は密室だったのでしょうか? 僕には単純な心理トリックであるような気がします。正憲さんは部屋の中で翔子さんが首を吊っていることを知っていた。そして安井さんの前で。部屋に鍵がかかっている芝居をした。西脇さんの夢に出て来た女性は品川翔子さんだと思います」

「夢?」と吉田が不審気な顔をする。「先生」と西脇が止めようとするが、圭亮は話し続けた。

「西脇さんの夢に女性が出て来て、部屋から出て行こうとする人物に、あなたを許さない、そう言ったそうです。夢に出て来た女性は翔子さんでしょう。翔子さんは訴えたかった。自分を殺害した人物は、鍵をかけずに部屋から出て行ったのだと。僕はそう理解しました」

「はあ・・・」

 話がオカルトじみて来たからだろう。「おいっ! 正憲を締め上げるぞ!」と竹村が勇んで言った。そして、どしどしと足音を立てて、二階へと駆け上がって行った。

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