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高家の晒首  作者: 西季幽司
第二章「みっつの密室」
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ひとつめの密室の謎④

 蝶番を調べていた圭亮が、「蝶番に細工をした跡があります。ひょっとして計画的な殺人だったのかもしれません」と言った。

「どれどれ」竹村、吉田、西脇と順番に蝶番を覗き込んだ。確かに蝶番には何かで衝撃を与えたような跡があった。衝撃で蝶番が緩んでしまったようだ。

 それが意図的であったとしたら、殺人の可能性が高まる。

「高房さんが殺害されたとなると、事件当夜に屋敷にいた人間は翔子さん一人です。彼女が高房さんを殺害したのでしょうか?」吉田が圭亮に尋ねた。

「そうですね~そこまでは、まだ、分かりません」圭亮が首を振る。

 小柄な翔子が高房を絞殺し、遺体を天井から吊るしたと考えるのは無理が多い。そのことを圭亮は良く分かっていた。だが、密室は密室ではなかった。殺害が可能だった。

「では、お次は一階の密室の謎にチャレンジしてもらえますか?」

 すっかり圭亮は竹村の信頼を得た様子だ。

「鋭意、努力します」

 またぞろぞろと階段を降りて行く。階段を降りて直ぐの場所に、翔子の遺体が発見された寝室があった。

「鍵を開けますよ」と安井が鍵束をじゃらじゃらさせた。

「お願いします」

 ドアが開く。寝室と呼ばれているが、普通の家のリビングくらい広い。ベッドに鏡台、ソファーにテレビまである。部屋の中央の天井にはロープを結わえたとフックがある。シャンデリアを吊るしていたものだ。品川翔子は天井のフックにロープをかけて首を吊って死んでいたと言う。鏡台の椅子を使ったのだろう。

 発見時、部屋には鍵がかかっており、密室状態だった。夫を亡くした翔子が、夫と同じ死に方を選んだと考えられなくも無かったが、誰もその考えには納得できないだろう。夫を忍んで後追い自殺をするような女性なら不倫などしない。

 高房と違い、翔子が亡くなった時、屋敷には正子と正憲の二人がいた。

「検死の結果、品川翔子の死亡推定時刻は午前零時から二時の間と推定されています。自殺か他殺かについては、首筋に見られた吉川線はかなり薄いもので、自殺と思われるが、他殺の可能性は排除できないと言う甚だ曖昧なものでした」と竹村が教えてくれた。

「竹村さんは他殺だと考えているのですよね?」

 圭亮が問うと、竹村は苦笑しながら言った。「まあ、刑事の感ってやつですが。証拠はありません。死に方があまりに夫と似通っていますが、仲の良い夫婦では無かったので、後追い自殺とは考えられないでしょう。となると、他殺と見て間違いないと思います」

「ロープの問題があります」と吉田が隣から言う。

「ロープの問題?」

「ああ、夫人が首を吊っていたロープは、屋敷にあったものではなく、見たことがないと――」と言って、竹村が廊下で待つ安井を指さして言った。「安井さんが証言しています。夫、高房さんの事件ではロープが問題となりました。安井さんによれば、当時、屋敷内にロープは無かったそうなので、高房さんが外部から持ち込んだものだと結論付けられました。以降、安井さんはロープの管理について神経質になっていて、この屋敷に、絶対にロープはなかったと断言しています」

「ええ、はい」と入り口に待機したままの安井が大きく頷いた。

「犯人が外部からロープを持ち込んだことになるのですね」

 高房の事件以降、翔子は屋敷に閉じこもった切りで、ほとんど出歩いていなかった。安井は「私の知る限り、奥様が外出してロープを買って来たなどと言うことはありません」と言った。

 犯人がロープを持ち込んだのだ。

「それにドアノブから採取された指紋の問題があります」と竹村が言う。

「ドアノブの指紋ですか」

「寝室のドアノブから正憲さんの指紋が採取されています。遺体を発見したのが正憲さんである以上、指紋が残っていたことは不自然ではないのですが、自殺だとすると、内側のドアノブに夫人の指紋が残っていなければなりません。それが無いのです」

「それは不自然ですね~」

「指紋が残っていないと言うことは、犯人がドアノブを綺麗に拭きとったと言うことです。ドアノブ以外にも、部屋の照明のスイッチなど、指紋が採取できなかった箇所がいくつかありました。犯人が、自分が触った場所の指紋を拭きとったのではないかと思います」

「なるほど~」

「それにもう一つ、高さが合いません」

「高さですか?」

「夫人は天井のフックにロープを結わえて、首を吊っていました。夫人の身長は百六十五センチ、椅子に乗れば、首を吊ること自体は可能です。ですが、ご覧の通り天井の高い洋館で、天井のフックにロープを結わえようとすると、夫人では椅子に乗って手を伸ばしても身長が足りないのです。手が届きません」

「そうですね~他殺と見て間違いなさそうですね」と手を伸ばせば天井に手が届きそうな圭亮が頷いた。

「他殺となると、当時、屋敷にいたのは、正子さん、正憲さんの二人だけです。この二人が、最も怪しいことになります」

「アリバイはどうなっているのですか?」

「アリバイと言っても屋敷内のことですからね。しかも、家族内のことです」

 翔子の死亡推定時刻に屋敷にいた二人が、最も疑わしいことになる。死亡推定時刻が深夜を回っていたことから、二人共、「部屋で寝ていた」と言うアリバイしかなかった。

「小柄な女性だったとは言え遺体を、正子さんが天井から吊り下げるのは、無理があるかもしれんね」

「となると、やはり正憲さんの犯行と考えるのが妥当かもしれません」

「単独犯の仕業であれば、そうでしょう」

「そう、複数犯の可能性があります」

 正子と正憲が共犯である可能性があった。

「動機は金でしょうか?」

「でしょう。高房さんが亡くなり、彼の遺産は夫人が相続したはずです。夫人がいなくなれば、品川家の遺産は正子さんと正憲さんが相続できると思っていたのでしょう」

 正子も正憲も、翔子に対して殺害の動機を持っていたことになる。二人が共謀すれば、翔子を殺害し、天井から吊るすことは出来たはずだ。

「二人が共謀して殺害したとなると、密室の謎が重く圧し掛かって来ますね」

 そう言うと、圭亮はぐるぐると部屋の中を歩き始めた。

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