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高家の晒首  作者: 西季幽司
第二章「みっつの密室」
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ひとつめの密室の謎③

「西脇さん。ほら、ここ。天井にフックがあります。シャンデリアを吊るしていたのでしょう。ここにフックがあるとすると、この辺りに椅子を置いて――」と一人、圭亮が精力的に動いて回った。

「先生。高房さんが殺されたとすると、密室ですよ。密室の謎、解いてください」

「まだ殺されたと決まった訳じゃありませんけど、逆に密室の謎が解ければ、殺された可能性がぐっと高まりますね」

「密室殺人ですね。名探偵の腕の見せ所です」

「僕は迷う方のメイ探偵ですけどね」

 安井の話では、高房の自殺以降、部屋は使われていないが、事件前も、高房が寝室代わりに使用するまで、ほとんど利用されていなかったと言う。

「私が言うのも何ですが、高房さんは自殺だったのでしょうか?」と竹村が聞くと、圭亮は「殺されたのだと思います」とあっさり答えた。

「殺された⁉」

「西脇さんはイタコの末裔で、変わった夢を見ます。西脇さんの夢は死者からのメッセージです」と西脇が見た、男が空中を漂っていて、足には誰かがしがみついている夢の話をした。そして、「誰かが足にしがみついていたことを、僕は最初、誰かが足を引っ張る、邪魔だてすることだと考えましたが、本当に足を引っ張られ、首を絞められていたのかもしれません。そう考えると、死者は恐らく高房さんで、自分は殺されたということを伝えたかったのかもしれません」

 やっぱり。夢を根拠に言っているのだ。信じてもらえるのは嬉しいが、こうも大っぴらに宣伝されてはかなわない。

「夢ですか・・・」竹村は、微妙な表情だった。

 こうなるに決まっている。夢の話なんて、誰も信じないし、何の根拠にもならない。

 気まずい空気になったのを、吉田の一言が吹き払ってくれた。「日頃、使われていない部屋なので、手入れが行き届いていないようですね。ほら、よく見るとドアの蝶番が壊れています」

 吉田が部屋の入口でドアを開け閉めして見せた。吉田がドアを動かす度に、キイキイと音を立てた。ドアを固定してある上下二つの蝶番の内、上の蝶番が壊れていてドアが僅かに傾き、床とこすれ合って音を立てているのだ。床にはドアの動きに合わせて、円形に擦れた跡が残っている。

 圭亮はドアに近寄る。「どれどれ」と吉田に代わって、ドアを動かしてみた。「蝶番が壊れているみたいですね~んっ⁉」

 圭亮が顔色を変えた。

 圭亮は廊下に出ると、外からドアを何度も開け閉めした。ドアが床にこすれて、キイキイと音を立てた。やがて圭亮はドアを閉めると、ドアノブを持って、がたがたとドアを動かし始めた。ドアを固定している上の蝶番が壊れている。ドアががたがたと僅かに上下に動いた。

 圭亮の行動を見守っていた竹村の表情が、どんどん険しくなる。吉田も西脇も、何か大変な事が起こりつつあることを感じ取っていた。

「密室の謎が解けたような気がします」

 ドアを開けて部屋に入って来た圭亮が言った。

「私にも分かったような気がします」竹村が渋い顔で頷く。

「この密室の謎が解けたからと言っても、飯尾さんの事件とは関係がないかもしれません」

「分かっています」

「何ですか? 何が分かったのです」、「密室の謎が解けたって、どうやって密室にしたのです?」と吉田と西脇が口々に尋ねた。

「高房さんはこの部屋で、首を吊って死んでいました。そして、部屋の鍵は床に落ちていました。そのことが、彼の死が自殺であると判断された理由のひとつになりました。ですが、見て下さい。このドアは蝶番のひとつが壊れている。ここをこうして――」と圭亮はドアを閉めると、ドアノブを思い切り上に引っ張り上げて言った。「ほら、見て下さい。わずかだがドアと床の間に隙間ができます」

 上の蝶番が壊れているので、ドアは斜めに傾き、ドアと床との間に、細長い三角形の隙間が出来ていた。

「どうです。ほら、この辺ならドアと床の隙間から、部屋の鍵を投げ入れることができそうです」

「ええ。遺体が発見された時の証拠写真を見ましたが、合鍵は裸のまま床に転がっていました。これだけ隙間があれば、廊下から合鍵を滑り込ませることができると思います」

 部屋の鍵は薄く平たい金属製の鍵だ。ドアを持ち上げて、下に出来た隙間から、部屋の中に滑り込ますことができそうだ。

「やってみましょう」吉田が安井に合鍵をキーリングから外させた。そして、合鍵を持って廊下からドアを閉めた。

 暫くガタガタと動かしていたが、なかなか上手く持ち上がらないようだった。合鍵をドアの下の隙間から部屋の中に滑り込ませようとすると、ドアノブを持ち上げながら、屈み込まなければならない。上下に相反する動作が必要となるのだ。

 やがて、床の上を滑りながら、合鍵が部屋の中に滑り込んで来た。

「やっと上手く行きました。最初に合鍵を床に置いて、ドアを持ち上げながら足で蹴り込めば簡単に出来ました」

「おう~賢い、賢い」竹村が吉田に拍手を送った。

「これで、高房さんが自殺ではなく、殺害された可能性が出て来た訳だ」

 品川邸で発生した事件には、密室の謎が付いて回っている。ひとつ密室の謎が解けたことになる。この調子なら、後、二つの密室の謎も解くことができるかもしれない。

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