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高家の晒首  作者: 西季幽司
第二章「みっつの密室」
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ひつとめの密室の謎①

「じゃあ、そういうことで」と正憲は客間を出て行った。

 正憲が部屋を出て行くと、沈黙が訪れた。沈黙を破って竹村が圭亮に尋ねる。「どう思います?」

「なかなか一筋縄では行かない御仁のようですね。まだ何か隠していることがありそうです」

「ですね」と吉田が頷く。

「さて、我々の仕事は終わりですが、どうします? 現場でも見て見ますか?」と竹村が言ったものだから、「良いんですか⁉」と圭亮が声を上げた。

 圭亮の陰で西脇がほくそ笑んでいた。他局を出し抜くチャンスだと思っているのだ。

「構いませんよ。何かあれば、須磨さんが責任を取ることになっています。須磨さんに面倒をかけると、後が怖いですよ~」と竹村が脅すと、圭亮が「人間として終わっちゃいそうですね~」と肩をすくめた。

 西脇としても須磨の顔を潰してまでして捜査機密をすっぱ抜くつもりはない。

「はは」と笑う竹村と吉田に、圭亮は「現場を見た後、関係者の皆様から話を聞きたいのですが」と図々しくも頼んだ。

 吉田が「合鍵が必要ですね」と安井を呼びに行った。西脇が小声で圭亮に「鬼牟田先生。グッド・ジョブ!」と囁いた。こういう時、圭亮の名声と好奇心が役に立つ。

 直ぐに安井がやって来た。「では、飯尾さんが宿泊していた部屋から見ましょうか? 二階です」と竹村を先頭にぞろぞろと客間を出た。

 玄関から入って右手、北側の壁沿いに二階への階段がある。階段下のスペースが物置になっていて、屋敷内の合鍵は全てここに保管されている。物置と言っても、中は結構広く、安井の執務室になっている。物置兼事務室には合鍵の保管庫があって、屋敷の部屋の合鍵は全て保管庫に保管されている。

「合鍵の保管庫の鍵はどうなっているのですか?」と圭亮が安井に尋ねた。

「事務室の鍵と一緒に、私が肌身離さず持ち歩いています」と安井が答えた。

 安井がいないと、合鍵は手に入らないようになっている。安井が合鍵を持って来る。合鍵は、映画で牢番が持っている鍵束のようにキーリングでひとつにまとめられていた。歩く度にじゃらじゃらと音がした。

 階段を登る。

「歴史を感じますね~」と圭亮が呑気に言うので、「先生。緊張感」と西脇が注意する。

「そうでした。緊張感。カンチョーはゴメンです」

 階段を登ると二階の廊下に出た。

「庭に血痕は見られませんでした。犯行は屋敷内で行われた可能性が高いと思われます。生首が門柱に突き刺さっていた以上、犯人は部屋で飯尾さんを殺害し、首を切断、部屋を密室にして生首を持ち去ったことになります」

 廊下を挟んで東側に部屋が四部屋、西側に三部屋ある。東南の角部屋が飯尾が宿泊していた部屋だ。

「ここです」一行が立ち止まる。

「鍵穴に無理にこじ開けた形跡はありませんでした」

 安井が合鍵を取り出して部屋の鍵を開けようとした。すると、「あっ! すいません。鍵を、鍵を見せてもらえますか?」と圭亮が安井に言った。

「どうぞ」と安井が圭亮に鍵を渡す。

「へえ~変わった鍵ですね」

 合鍵は両端がぎざぎざになっているタイプではなく、平たい棒状の鍵の本体に、穴が幾つも空いているタイプだ。

「ディンプルキーと言う特殊キーです。町の合鍵屋さんでは、合鍵を作成してはいけない決まりになっているそうで、合鍵は全てメーカーへの発注になります」

「すると合鍵が作られたかどうか、メーカーに問い合わせると分かる訳ですね?」

「はい」安井が頷く。

 横から吉田が「メーカーに確認済ですが、屋敷で使用しているもの以外に、スペアキーが作られたと言う記録はありませんでした」と教えてくれた。

「どうもありがとうございます」

 圭亮が合鍵を安井に返した。

「ドアを開けます」安井が合鍵でドアの鍵を開けた。カチリと鍵のはずれた音がした。竹村がゆっくりとドアを開いた。

「うへっ!」圭亮が呻き声を上げた。

 一見して、部屋が犯行現場であることは明白だった。部屋の中央、床の上に血溜まりが広がっていた。

 部屋には入らず、廊下から部屋を観察した。

「飯尾さんはベッドに寄りかかかる形で足を投げ出して座っていました。犯人は頭部を切断した後、胴体をベッドに寄り掛けて座らせたようです」

 部屋に入って来た人間に、不快な衝撃を与える為に、ドアから見やすい位置に遺体を座らせたようだ。

「部屋の鍵は? 鍵はありましたか?」と圭亮が尋ねる。

「遺体が羽織っていたガウンのポケットに部屋の鍵がありました」

「他に合鍵は? 合鍵を持っている方はいませんか?」と圭亮が安井に尋ねる。

「ございません。合鍵は保管庫で保管されている、この鍵だけです」と安井が鍵束を振る。じゃらじゃらと音がした。

 遺体が鍵を持っていた。密室殺人だ。犯人は飯尾を殺害後、頭部を切断し、生首を槍門に突き刺しているが、一体、どうやって部屋に鍵を掛けたのだろうか。

 検死の結果、飯尾連傑の死亡推定時刻は夜十時から十二時の間と推定された。死因は、頭部を殴打されたことによる脳挫傷だった。頭部は死後に切断されている。凶器は未定だが、頭部に残された裂傷の形状から、固い金属状であり、工具のスパナのようなものと言うのが鑑識の鑑定結果だった。犯行現場である飯尾の部屋から、凶器と思われる工具らしきものは発見されていない。

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