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高家の晒首  作者: 西季幽司
第二章「みっつの密室」
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会社乗っ取り計画③

 毎朝、七時に朝食を取るのが翔子の日課となっている。それが七時を過ぎても食堂に顔を出さなかった。時刻は既に八時になろうとしていた。

「片付かなくて大変だろう」と正憲が翔子を起こしに行ったが、血相を変えて戻って来た。

「安井さん! 鍵、お嬢ちゃんの部屋の鍵。合鍵。ドアを幾らノックしても、反応が無い。廊下から名前を呼んでも返事がない。おかしい。何かあったのかもしれない!」

 そう安井に言って食堂から連れ出した。安井は階段下にある事務室に向かい、鍵の保管庫から翔子の部屋の合鍵を取り出した。

 正憲と安井は翔子の部屋へと駆けた。翔子の部屋は階段下の事務室を出て、直ぐ目の前にある。

 正憲は安井から合鍵を奪い取ると、鍵穴に差し込んでがちゃがちゃと回した。慌てていたせいか、なかなか開かない。

「安井さんは女性が寝ている部屋のドアを勝手に開けることに抵抗があったが、飯尾社長が部屋で殺害されたばかりなので、仕方ないと思ったと証言しています」

 竹村の話を正憲は黙って聞いていた。

「開いた!」正憲がドアを全開にした。

「うわっ!」、「ひっ!」二人が口々に悲鳴を漏らした。

 正面の部屋の中央、天井から異様な物体が吊り下がっていた。

――お嬢ちゃん!

 品川翔子だった。

「だから何?」と正憲が言う。

「あなた、第一発見者だし、この屋敷にも詳しい。ドアの鍵に仕掛けをすることくらい出来たのではありませんか?」

「まあ、頑張って、それを証明してくれよ。大体、あんな女、殺して俺に何の徳があるって言うんだ?」

「だから、ギターを相続できる可能性が出て来る。そう言ったのは、あなたですよ」

「ギターはね。飯尾が持ち帰ったんだ。ここにはない。だから――」と正憲は何かを言いかけて、はたと口を噤んだ。

「だから?」

「だから、飯尾の女なんぞ殺してギターを手に入れて牢屋にぶち込まれたら、何にもならないだろう」

「飯尾の女? ですか」

「もう誰かから聞いているんだろう? 知っているくせに」

「飯尾さんが、よくこちらにお泊りになっていたとお聞きしました」

 正憲はにやりと卑下た笑顔を浮かべると、「ああ、確かに、飯尾は高房の眼を盗んで、よくこの屋敷に泊まりに来ていたね」と答えた。

「高房さんの眼を盗んでとは、どういう意味でしょうか?」

「高房の妻、翔子と飯尾は、良い仲だったと言う意味ですよ。高房が死んでからのことじゃない。高房が仕事で家を空けることが多かったものだから、その隙に飯尾が付け入ったんだろう。大胆にも、高房の留守中に、この品川邸で逢引をしていた。あいつらの神経を疑うね」

「亡くなった先代社長の生前から関係があったと」

「あのお嬢さんは、もともと飯尾が連れて来た女だからね」と正憲は言う。

 高房に翔子を紹介したのが飯尾だった。飯尾と翔子は高房との結婚前から関係があったのではないかと正憲は疑っていた。

「それは・・・何とも・・・」流石に竹村も言葉を失った。絶句した後、やっと「先代の社長は、そのことに気が付いていなかったのでしょうか?」と絞り出すように尋ねた。

「さあね。高房が飯尾とお嬢さんの関係を知っていたかどうかまで知らないよ。でもね、高房とお嬢さんの関係は冷め切っていた。例え知っていたとしても、どうでも良かったのだと思う」

「はあ、そんなものでしょうか・・・」

「それに飯尾は、不倫もちゃんと計算に入れていた」

「計算? 何の計算ですか?」

 竹村の質問に、正憲は(そんな簡単なことも分からないのか?)と言いた気な表情で、「品川ケミカルを乗っ取る計画だ」と答えた。

「会社を乗っ取る計画!?」

「そうだ。高房が死ねば、あいつが所有していた会社の株式は、全てお嬢さんの物になる。飯尾が所有している分と合わせれば、会社の最大株主となる。飯尾の社長就任は、お嬢さんの後ろ盾が無ければ実現しなかった」

 品川ケミカルは品川家の同族会社であり、代々、社長を品川家の人間が勤めて来た。ところが先代の社長の高房が後継者を得ぬままに、若くして亡くなると、重役であった飯尾が先代社長の未亡人と組んで、社長の座を奪い取ったと言うのだ。

「そういうあなたは社長になろうとは思わなかったのですか?」

 正憲の口振りでは、新社長に色気があったように聞こえる。竹村が尋ねると、正憲は「ははは――」と大笑して言った。「俺はない」

「何故です?」

「俺はね。親父から放蕩息子の烙印を押された。会社で働いたことなんてないし、俺にサラリーマンは勤まらない。俺はね――」と正憲は自慢話を始めた。

 正憲は自称ミュージシャン、バイオリンからギターまで、弦楽器なら何でも演奏することが出来る。二十代の頃に組んだバンドは、今は活動停止中だそうだが、プロのギタリストとして有名ミュージシャンのレコーディングに参加したりしていると言うのだ。

 話は大きいが、その実、プータローに等しいだろう。また、口では否定しているが、品川ケミカルの社長の座に未練たらたらの様子だ。

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