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高家の晒首  作者: 西季幽司
第一章「高家の一族」
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あのギターは私のもの③

 品川正憲(しながわまさのり)は二代目社長、高憲の実弟であり、自称、芸能人を称している。そのため、マスコミ関係者に正憲のことを良く知っている人間が多い。正憲のことを、ギタリストとして、「まあまあの腕前だ」と宮崎は評した。

 正憲のことを良く知る人物から、宮崎は「二代目の社長は、ジョン・ハリーのギターを持っていたそうなのです」という情報を受けたらしい。

「ジョン・ハリー? あの世界的に有名なロック・バンド、ビートフライのギタリストの?」

 ザ・ビートフライは六年代から七十年代初頭に活躍した英国出身のロック・バンドだ。ジョン・ハリーはザ・ビートフライのリーダーであり、そしてギタリスト兼フロントマンでもあった。八十年代中盤、人気絶頂の頃、謎の猟銃自殺を遂げ、伝説となった。

 高憲は、そのジョン・ハリーがコンサートで使用したギターを何処からか手に入れて所有していたと言うのだ。

「高憲社長は昔からザ・ビートフライの大ファンだったみたいですね。ジョン・ハリーのギターを持っていることが自慢で、わざわざ会社の社長室に飾って、訪れる人にギターを見せびらかしていたそうです」

 兄の影響から、正憲もザ・ビートフライのファンとなり、やがて、それが嵩じて音楽の世界に足を踏み入れた。正憲にとってもジョン・ハリーのギターは憧れの品で、「何時か一曲、当ててメジャーデビューしたら、ジョン・ハリーのギターを譲ってくれ」と言う約束を高憲と交わしていた。

 ところがジョン・ハリーのギターは飯尾の手に渡ってしまう。

「飯尾は、ザ・ビートフライのファンだった訳ではないようです。恐らく、ジョン・ハリーが誰なのか、知らなかったかもしれません。ところが、このギターがオークションで数千万円、ひょっとしたら億単位の値が付く逸品だと言うことを聞いて、ジョン・ハリーのギターが欲しくなった」

 高憲の死後、正憲がジョン・ハリーのギターを手に入れようとしたところ、社長室にギターは無かった。

 飯尾はギターを自宅に持ち帰っており、「ジョン・ハリーのギターは、生前、高憲より譲渡された」と主張した。

 高憲死去のどさくさに紛れて飯尾がギターを持ち去った可能性が高かった。だが、実際にギターを所持している飯尾に占有権が発生していた。

 もともと正憲にはジョン・ハリーのギターを相続できる理由が無かった。「兄とメジャーデビューをしたらギターを譲ると約束した」と主張しても、それは単なる口約束であって、証明することが出来なかった。

 しかも、正憲は約束のメジャーデビューを果たしていない。

 ジョン・ハリーのギターは飯尾の手に渡った。正憲はそれを不服として、周囲の人間に飯尾の悪口を言って回っていた。このギターの一件は、ジョン・ハリーの知名度もあって、業界内部では有名な話だそうだ。

「ふ~ん。面白いですね」と西脇は生返事をしながら、別のことを考えていた。

 夢だ。あの夢だ。夢の中の男は言っていた。


――あのギターは私のものだ。誰にも渡さない。あのギターは私のものだ、と。


 圭亮の言う通り、あの夢は死者からのお告げだったのだろうか。

 だとすると、高憲がギターを所有していた。それを飯尾が奪ったのだとすると、夢の中の男は高憲だったことになる。いや、飯尾と正憲がギターを巡って争っていたのだとすると、夢の中の男は飯尾だったのかもしれない。

「正憲がギターを巡って飯尾社長とトラブルになり、殺してしまった、とは考えられませんか?」

「・・・」途中から宮崎の話を聞いていなかった。

 呆然とする西脇に宮崎が言った。「西脇さん、どうかしました? 取り敢えず、鬼牟田先生に今の情報を伝えてみては如何ですか? 事件の謎を解くヒントになるかもしれませんよ」

 宮崎の言葉で我に返った。そうだ。事件に関する情報は、圭亮に与えて意見を聞いてみた方が良い。夢のことも。


 宮崎との打ち合わせを終え、席に戻って十分もしない内に、圭亮から電話があった。丁度良い。圭亮と話がしたかったところだ。

 電話を取ると、いきなり、泣きそうな声で、「西脇さん! 助けてください」と言われた。

「先生、落ち着いて。何かあったのですか?」

「今、須磨さんから電話があって、今から刑事が事情聴取に向かうので、家にいてくれということでした」

「刑事が事情聴取に来る?」

「詳しいことは分かりませんが、僕、どうやら容疑者になってしまったようです」

「先生が容疑者⁉ どういうことです?」と聞いても、圭亮にも分からない。「先生、深呼吸をしてください。鼻から息を吸って、止めて、ゆっくり息を吐く。それを繰り返して。少し落ち着いてください。それから、須磨さんから、何をどう言われたのか、具体的に教えて下さい」とパニックを起こす圭亮を落ち着かせた。

「須磨さんから電話があって――」と圭亮は電話の内容を思い出しながら話し始めた。

「鬼牟田さん、お久しぶりです。今日はお伝えしたいことがあって、電話をしました」と挨拶もそこそこに須磨は用件を切り出した。

 もともと須磨は無駄話と言うものを、ほとんどしない。

「何でしょうか?」と圭亮が答える。

 人一倍気を遣う性格の圭亮は、感情が表情や言葉に出ない須磨と話をするのが苦手なのだ。須磨と話をしていると、(ひょっとして気を悪くしているのでは?)、(言い過ぎてしまったかもしれない)と一人、気を回して想像を膨らませてしまい、精神的に疲れ切ってしまうからだ。

「刑事が二人、今から鬼牟田さんを尋ねて行きます。彼らの質問に正直に答えて頂きたいのです」と須磨は言ったらしい。

「刑事さんが、僕を尋ねてやって来るのですか? 一体、何のご用でしょうか?」と圭亮が聞くと、「実は――」先週末の「サタデー・ホットライン」の放送で圭亮が言った一言が捜査本部で問題になっていると答えた。

「僕が言った一言?」

「鬼牟田さん、あなた、最後に、この事件はまだ終わっていない。続きがあると発言しましたね。品川邸で新たな事件が発生しました。あなたが何故、そのことを知っていたのか? どうやって知ったのか? 捜査本部では興味があるようです」そう須磨は言った。

「品川邸でまた何か起きたのですか⁉」

「そうです。だから、あなたから話を聞きたいのです」

「そんな。僕はただ単に、テレビで推理を述べただけです」と言い訳したのだが、「テレビでの発言は、影響力が大きいので、何か発言される前に、一度、私にご相談下さいと申し上げたはずです」と返されてしまった。須磨の一言に、圭亮は縮み上がった。

「大丈夫です。本当に事件に無関係であるなら、こちらの捜査で直ぐに分かります。とにかく、刑事からの事情聴取に応じて下さい」

「も、勿論です。僕は事件には何の関係もありません」

「そう願っています」冷たい一言を残して、須磨は電話を切ったと言う。

「品川邸で新たな事件が発生した・・・」

 圭亮の話を聞いて、今度は西脇が驚く番だった。圭亮の予言が、いや、推理が当たったようだ。途方に暮れる圭亮に、「先生。今からお伺いします。僕も事情聴取に同席します。間に合うと良いのですが」と言うと電話を切った。

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