丹波の日記 忍者はつらいよ。
わが名は丹波 影丸
われは由緒ある忍びの末裔、丹波家の子孫、16代目の影丸の名を引き継ぐものである。
忍び故、幼き頃より、厳しき鍛錬を重ねに重ね、感情を表に出さぬように訓練をうけている……。
ゆえに、感情を表に出すことは掟に反する事。
――が、今拙者は泣いている。
目の前に広がる、不条理、そして理不尽な光景に。
あの者は……母である。
されど、名を名乗ることは許されていない。
その娘に、ただ「赤の他人」として手を差し伸べるしかない存在。
それでも、彼女は出来る限りの愛を与え、
たとえ娘が目を覚ましても、夢幻の事するしかない理不尽。
拙者は、忍びの道を選んだがゆえに──家族として情をみせることは赦されぬ。
それでも、娘が寒くないようにそっと毛布をかける姿に、拙者は……拙者は……
拙者に気が付いた彼女は、拙者に口止めを願い出た。
……任務に情は見せぬ。それが忍の掟。
……余計な情けは命取り。それもまた、忍の常。
されど、この涙だけは――誰にも見せることができぬ。
(影丸、そっと手で頬を拭いながら)
「……心得た」
わが胸にこの情を封じよう。
されど、今日この時だけは、
この涙だけは――流しても良かろう。
……解せぬ。
これほど、心が熱くなるとはな。