一筋の光
※自サツ匂わせ等の命に関わる表現あり
学校に着いたのは7時30分頃だった。思ったとおり校門の鍵はしめられていて、校舎内全ての灯りが消えていた。屋上に向かいたかった僕は、何事も無かったかのように校門を飛び越えて中に入った。だが、もちろん昇降口の鍵は全て閉まっていて中には入れなかった。ダメ元で裏口に回ってみると、なんとそこのドアはすんなり開いた。すかさず中に入り、ひたすらに屋上を目指した。もしかしたら屋上の鍵も開いていないのではないかと思ったが、ここまで来ておいて引き返すわけには行かないので気づかなかったことにして歩き続ける。校内は灯りが付いていないが、外がまだ少し明るく、その光だけを頼りに歩いている。一応不法侵入なので少し罪悪感はあるが、それよりも自分の感情を優先してしまった僕はやっぱりこの世に存在してはいけない人間なのだろう。消えたい、居なくなりたい、死にたい。と、頭の中が段々ネガティブになってきた所で屋上の扉の前に着いた。実際は5分ほどしか経っていないが、体感は何日も孤独で彷徨っていたようだった。開くはずのない扉のドアノブを、それでも開いて欲しいと少し期待しながら回す。願った通り、扉はガチャッと軽く音を立てながら開いた。それだけでもビックリするのだが、ドアの向こうの景色の方が信じられなくてドアが開いた事なんてどうでも良くなってしまった。そこにはなんと、彼がいたのだ。彼は、僕がドアを開けた音に気づいたようでこっちを見ていた。フェンスに座りながら。彼に会えて嬉しいという感情と、何でここにいるんだろうという疑問と、そこから降りて欲しいという恐怖が混ざって頭が真っ白になる。彼は驚いたような顔をしている。そして、
「どうしたの?大丈夫?」
と、いつもの優しい声が聞こえる。でも彼が何を心配しているのかが、僕には分からなかった。
「なん…で…?」
頭がパンクしていて思っていた事を上手く言葉に出来ず、幽霊みたいな言い方になってしまったが彼は言いたいことを察してくれたようで
「君が、泣きそうな顔してたから!」
と、言ってフェンスから降りてこっちまで来て、僕を抱きしめてくれた。彼がこんなに強い口調で話すのは初めてだったから、怒ってるんじゃないか、迷惑をかけてしまったんじゃないかと少し怖くなった。でも彼が穏やかな顔で優しく抱きしめてくれるものだから、我慢していた涙が零れてしまった。彼は、安心して膝から崩れ落ちてしまった僕を支えながら
「これ、誰にやられたの?」
と僕のシャツの袖をめくりながら言う。どうやら僕に怒っている訳ではないようだった。長袖のシャツだからアザは見えないと思ったのに、本当に鋭い人だ。もちろん母親にやられたと言える訳もなく黙っていたら、彼はそれも察したようで
「叶人の家の事情は俺にはわかんないけど…とりあえず保健室行こう…?」
と僕の背中をさすりながら言った。でも僕は傷の手当をして欲しくてここまで来た訳じゃなくて、
「一人でいるのが辛かったから、怖かったから、今までそんなこと無かったのに、怖くなって、だからここまできて、だから今は、今だけは……」
何処にも行きたくない、一緒にいて。最後まで言えなかったが、さすが彼だ。これももはや当たり前のように察してくれた。そして僕を抱きしめ直し、その後もずっと背中をさすり続けてくれた。彼の体は冷たいが、それでもとても暖かかった。