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空に近い場所  作者: 彼方
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天気雨

というか、よく考えてみれば彼は年上ということだ。そう思うとどこかさっきより大人っぽくも見える。

そして彼はそんなことを考えていた僕の心を読んだように

「俺今16だよ。留年しちゃったんだよね。」

と、彼は相変わらず微笑みながら言う。

思考を読まれた今、その笑顔でそれを言われると怖い。そもそも笑って言うことでもない。

彼はおもむろに立ち上がって窓を開ける。そして窓枠に座って上を向いていたからきっと空を眺めているのだろう。さっきと同じように。

彼はどこか空に執着している気がする。

「空が、好きなんですか?さっきも、屋上にいたし、僕にも聞いてきてたから」

やはり人と話すのは得意ではないため、途切れ途切れになってしまうが何とか最後まで言うことが出来た。彼は僕の言い方なんて気にしてないように

「好きだよ。だから見られるときに沢山見ておくの」

と言った。毎回どこか意味深な言い方をするから、解読するのが難しい。見られるときに、というのはどう言うことだろうか。曇っていても晴れていても雨が降っていても、空は空だから見られない時はないと思うのだが。まあ、彼なりの解釈があるのかもしれないから深く考えるのはやめておく。

それから5分ほど経っても彼は空を眺めているものだから、少し気になって僕も窓の方へ行ってみる。見上げたそこはただただ青かった。本当によく晴れていて雲がほとんどない。僕が近寄ってきたのが嬉しかったのか、彼はいつにも増してにこにこしながら僕の肩に手を乗せてくる。本当は人に触れられるのは苦手なのだが、さっき腕を掴まれたこともありだんだん慣れてきてしまった。肩から彼の温もりを感じる。と言っても彼の手は冷たい。さっき腕を掴まれた時にも思ったのだが、人間なのか怪しいくらいに冷たい。つまり温もりと言うより冷たさを感じている。彼は冷え性なのだろうか。だとしても快晴で気温の高い今日、さっきまで屋上に居て日光に当たっていたというのに、ここまで体温が下がるものだろうか。当の本人は呑気に

「叶人はあったかいね〜」

などと言っているが、

「俺があったかいんじゃなくて、湊さんが、冷たいんだと思います。」

と思ったことをそのまま返す。彼はすぐに

「やっぱり?ごめん冷たかった?」

と言ってきた訳だが、やっぱりとはどういうことだろうか。

「やっぱりって、どういうことですか?」

脳内での疑問をそのまま声に出す。

「んー?そういう体質だからさ、自分で自分が冷たいかは分かんないけどやっぱり俺冷たいんだ?」

彼も疑問のようだった。体温が低くなる体質とは何なのだろうか。僕は

「冷え性みたいな、感じですか?」

と、続けて聞く。

「ずっと冷えてるから冷え性というよりは、冷蔵庫の中にいるみたいな感覚かな。」

彼はまたよく分からないことを言う。冷え性特有の足先や指先が冷える、ということはなく体全体が冷えているということだろうか。

もちろん冷蔵庫に入ったことは無いのでただの想像なのだが。

そんなことを考えていると彼は唐突に

「叶人の体温であったまらせて」

と言ってこちらに向き直ったかと思えば、間髪入れずに抱きしめてくる。

突然すぎてビックリしたが、彼の腕の中は意外と居心地がよくてここから離れたいとは思わない。

でもどうしていいか分からず、結局直立不動でぼーっとしていた。

彼と僕は、体の一部がくっついているためお互いの鼓動が聞こえる。

彼のその音はとても弱々しく、少し心配になって彼の顔を見てみるも、直視できず結局すぐに元の方に向きなおってしまう。

一瞬だけ見えた彼は、少しだけ寂しそうに笑っていた。

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