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空に近い場所  作者: 彼方
3/6

晴れのち曇り

彼があまりにも真っ直ぐ僕に目線を合わせてくるものだから、恥ずかしくなって視線を逸らした。そして、彼は座っていることに飽きたような表情でフェンスから降りた。今までは刺激してしまわないか不安で遠くから見ているだけだったが、これで安心して近くに行くことが出来る。もう座れないように圧をかけるためにも、少しずつ彼との距離を詰めていく。その間も彼は、ずっと笑顔でこっちを見ていた。

お互いに手を伸ばせば届きそうな距離まで詰めて、彼の斜め左前で止まった。彼はおもむろに、こちらに左手を差し出してきた。困惑している僕に

「ピュアだね」

と笑いながら言って、思ったより優しい力で僕の手を掴み歩き出した。僕はされるがまま、それについて行く。彼はすごく細かった。近くで見るとよく分かる。身長はそこそこ高いが、本当に高校生かと思うくらいには細い。ちゃんと食べていないのか、それとも体質なのか。僕の腕を掴む力が弱いのも加減してくれているからではなく、ただただ力が弱いだけなのかもしれない。

僕達は屋上を出て、1階分階段を降り、校舎の人気がなく少し暗い方を通って現在は物置にされているであろう空き教室まで来た。そこに着くまでの数分間は、どちらも何も言わなかった。歩いている間僕はずっと考えていた、彼は本当に新入生なのかと。初めて校内に入ったであろう新入生が、空き教室の場所を把握しているとは思えない。しかも彼は迷う素振りもなく真っ直ぐここまで歩いてきた。今までに何回も来ているのではないかと思うくらい、当たり前のようにここまで来て、当たり前のように鍵を開けた。彼は鍵を持っていたのだ。もしかして屋上の鍵も持っていたのだろうか。そもそもどうして鍵を持っているのか。本当に謎が多い人だ。彼は先に中に入り、

「おいで?」

と首をかたむけて手招きしながら言った。本当は屋上に戻りたいのだが、彼に聞きたいことが沢山あるのと、入学式に出席していない事が誰かにバレるのが怖かったのもあってとりあえず言われた通りに中に入る。そこは暗く太陽の光だけが頼りで、足元に資料らしきものが積まれていることに気づかず軽く転びそうになった。彼はやはり慣れているようで、物のないところを器用に通っている。よく見てみれば、人1人通ることのできそうな道が作られている。これも彼がやったのだろうか。

空き教室の奥の、窓の辺りにはどこの教室にもある椅子が3つあった。そこに座るよう促され、少し警戒しながらも座る。彼も、僕の正面に椅子を持ってきて座る。動き一つ一つが美しくて思わず見惚れてしまった。目の前のその人は

「俺は湊、君は?」

と言った。別に隠すつもりもなかったので

「叶人」

と答えた。意図としてやっている訳では無いが、僕はやはり無愛想かもしれない。彼は間を開けずに

「新入生だよね、何組?」

と質問攻めにしてくる。正直に言うと、自分が何組かは見ていないので知らない。

「知らないです。貴方は?」

思ったことをそのまま口にしたつもりだったが、何故か彼は笑っている。何かおかしいことを言っただろうか。僕が顔をしかめかけていると

「ごめん、自分のクラス知らない人って初めて出会ったから」

と笑いながら返してくる。自分のクラスを知っておくことは常識らしい。

「俺は2組!」

彼は2組らしい。とりあえず僕も気になっていたことをいくつか聞いてみようと思う。

「貴方も新入生なんですか?」

「1年だけど、新しく入ってきた訳ではないかな〜」

意味がわからない。もう少し詳しく話して欲しい。と、脳内はきつい口調になってくるが、別に怒っている訳では無い。これが素なのだ。なんせ彼はふわふわと喋るものだから。でもそのふわふわ感はイラつくようなものではなくて、穏やかで心が洗われるような、自分を包み込んでいるような優しさを感じる。彼の声は、1/fゆらぎのようと言い表せばいいのだろうか。すごく心地がいい。

ところで1年だけど新しく入ってきた訳ではない、とはどういう事なのかちゃんと説明していただきたい。とりあえず仮説を立ててみる。新しく入ってきた訳ではないということは、元々居たということ。元々居たのに1年という事は何らかの理由で留年したというのだろうか。

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