表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空に近い場所  作者: 彼方
3/23

晴れのち曇り

彼は話す時、僕の目を見て話した。

僕は慣れていなくて、恥ずかしくなって視線を逸らした。

そのタイミングで、彼は座っていることに飽きたような表情でフェンスから降りた。

刺激してしまわないか不安で遠くから見ているだけだったが、これで安心して近くに行くことが出来る。

もうあそこに座らないように圧をかけるためにも、少しずつ彼との距離を詰めた。

その間も彼は、ずっと笑顔で僕の目を見ていた。

お互いに手を伸ばせば届きそうな距離まで来て、僕は彼の斜め前で止まった。

彼は僕を待っていたかのように、こちらにすっと手を差し出してきた。

突然の事で困惑している僕に、

「やる事は大胆なのに、意外とピュアなんだね。」

と笑いながら言った彼は、思ったより優しい力で僕の手首を掴んだ。

僕はされるがまま、彼に身を任せた。


彼はすごく細かった。

近くで見るとそれがよく分かる。

身長はそこそこ高いため、それを支えられるのか心配になるくらいだった。

ちゃんと食べていないのか、それとも体質なのか。僕の腕を掴む力が弱いのも加減してくれているからではなく、ただ力が弱いだけなのかもしれない。

僕達は屋上を出て、1階分降り、人気の無い校舎を通って、物置のような空き教室まで来た。

そこに着くまでの数分間は、どちらも何も言わなかった。

歩いている間僕はずっと考えていた。彼は本当に新入生なのか、と。

初めて校内に入ったであろう新入生が、空き教室の場所を把握しているとは思えなかった。しかも彼は迷う素振りもなくここまで歩いてきたのだ。

そして当たり前のように鍵を開けた。

彼は鍵を持っていたのだ。もしかして屋上の鍵も開けたのは彼なのか。そもそもどうして鍵を持っているのか。次々と疑問が増えていく、本当に謎が多い人だ。

その間に彼は先に教室内に入り、手招きしながら

「おいで?」

と言った。

僕は本当は屋上に戻りたいのだが、彼に呼ばれているのに行かない訳にも行かず、仕方なく諦めた。

まぁ彼に聞きたいことが沢山あるのと、入学式に出席していない事が誰かにバレるのが怖かったのもあったのでとりあえずいいこととする。

そして僕は言われた通りに中に入った。

教室内は思ったより暗く、僅かに入ってきている太陽の光だけが頼りだった。

僕は足元に紙束が積まれていることに気づかず軽く転びそうになったが、彼はやはり慣れているようで、器用に物を避けて通っている。

よく見てみれば床に積まれた物達の間に人1人がギリギリ通れそうな道が作られていたので、彼が前からここに来ているという仮説は確定で良さそうだ。

空き教室の奥には窓があり、その周りにはどこの椅子が3つあって、彼はそこにいた。

カーテンを開けながら僕を呼ぶ彼にそこに座るよう促され、少し警戒しながら座った。彼も、僕の正面に椅子を持ってきて座った。

彼の動きは一つ一つが美しくて思わず見惚れてしまった。

そして着席した彼は

「俺は湊、君は?」

と言った。僕も別に隠すつもりもなかったので

「叶人」

と正直に答えた。意図としてやっている訳では無いが、僕はやはり無愛想かもしれない。

彼は間を開けずに

「新入生だよね、何組?」

と言う。自分が何組かなんて見ていないので知らなかったため、そのまま

「知らないです。貴方は?」

と返した。

僕はただ思ったことをそのまま口にしただけのつもりだったが、何故か彼は笑っている。

なんで笑われているのか訳も分からず、僕は顔をしかめた。彼は、

「ごめん、新入生で自分のクラス知らない人って初めて出会ったから。」

と肩を震わせて笑っている。自分のクラスを知っておくことは常識らしい。

ちゃんと自分のクラスがわかっている彼は

「俺は2組!」

と、笑いを堪えながら言った。彼は2組らしい。自分とクラスが近いかどうかは分からないが、なんとなく近いような気もした。

彼の質問ラッシュが終わったところで、僕も気になっていたことを直接聞いてみようと思い、

「貴方も新入生なんですか?」

と、そのまま聞いてみた。しかし彼の返答は予想外で

「1年だけど、新しく入ってきた訳ではないかな。」

と言われた。

正直よくわからなかった。もう少し詳しく話して欲しい。と、脳内は段々きつい口調になっていくが、別に怒っている訳では無い。

彼が、なんというかふわふわと喋るものだから、そのペースに飲まれないように自我を保とうとしているのだ。

彼のその特有のふわふわ感はイラつくようなものではなくて、自分が包み込まれているような優しさを感じる。

彼の声は、催眠術のようと言い表せばいいのだろうか。洗脳されているのかと疑うレベルに、すごく心地がいい。

彼の声にばかり注目がいっていたが、さっきの彼の返答「1年だけど新しく入ってきた訳ではない」とは一体どういう事なのか。ちゃんと説明していただきたい。

予想としては、新しく入ってきた訳ではないということは元々居たということだ。つまり元々居たのに1年生という事は、何らかの理由で留年したのだろうか。

あくまで予想なので分からないが、何か深刻な問題がありそうな気がする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ