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空に近い場所  作者: 彼方
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晴れのち曇り

彼は話す時、僕の目を見て話した。

僕はそれに慣れなくて、恥ずかしくなって視線を逸らした。

そのタイミングで、彼は座っていたところから降りてこちらに来た。

その間も彼は、ずっと笑顔だった。

彼が人の体温を感じられる距離まで来た時、唐突にこちらに手を差し出してきた。

突然の事で困惑していたら、彼は思ったより優しい力で僕の手首を掴んだ。

「意外とピュアなんだね。」

僕はもう何も考えられなくて、されるがまま彼に身を任せた。


彼は実在した。

何を言っているのかと思うかもしれないが、さっきまで外にいた彼が光の加減で透けているように見えたから、もしかしたらこの人は幽霊なのではないかとか色々考えていたのだが、ちゃんと腕を掴まれている感覚があるから安心した。

そして彼はすごく細かった。

近くで見るとそれがよく分かる。

彼は身長はそこそこ高いため、それを支えられるのか心配になるくらいには細かった。

ちゃんと食べていないのか、それとも体質なのか。僕の腕を掴む力が弱いのも加減してくれているからではなく、ただ力が弱いだけなのかもしれない。

僕達は屋上を出て1階分階段を降り、人気の無い廊下を通って物置にされていそうな空き教室まで来た。

そこに着くまでの数分間は、どちらも何も言わなかった。

歩いている間ずっと疑問だった事がある。彼は本当に新入生なのか。初めて校内に入ったであろう新入生が、空き教室の場所を把握しているとは思えなかった。しかも彼は迷う素振りもなくここまで僕を連れて歩いてきたのだ。

そして当たり前のように教室の鍵を開けた。

彼は鍵を持っていたのだ。もしかしたら屋上の鍵を開けたのも彼なのもしれない。そもそもどうして鍵なんて持っているのか。次々と疑問が増えていく、本当に謎が多い人だ。

ついつい考えこんでいたら、

「おいで。」

と声をかけられて、顔を上げたら彼は教室内からこっちに手招きしていた。

本当は屋上に居たかったのだが、彼に聞きたいことが沢山あるのと、入学式に出席していない事が誰かにバレるのが怖かったのもあってとりあえず中に入った。

教室内は思ったより暗く、僅かに入ってきている太陽の光だけが頼りだった。

僕は足元に紙束が積まれていることに気づかず軽く転びそうになったが、彼はやはり慣れているようで、器用に物を避けて通っている。

よく見てみれば床に積まれた物の間には人1人がギリギリ通れそうな道が作られていたので、これも彼がやったのだろう。

空き教室の奥には窓があり、その付近に椅子が3つあって、僕は彼にそこに座るように促された。

彼はカーテンを開けて、窓も開けて、その後に僕の正面に椅子を持ってきて座った。

そして着席した彼は言う。

「俺は湊、君は?」

僕も別に隠すつもりもなかったので正直に答える。

「叶人。」

意図としてやっている訳では無いが、僕はやはり無愛想かもしれない。

「新入生だよね、何組?」

「知らないです。貴方は?」

彼は笑っていた。僕は昇降口に貼られていたクラス分け表をちゃんと見ていなくて本当に知らなかっただけなのだが、それがそんなにおかしいだろうか。

なんで笑われているのか訳も分からず、僕は顔をしかめた。

「ごめん、新入生で自分のクラス知らない人って初めて出会ったから。」

自分のクラスを知っておくことは常識らしい。

ちゃんと自分のクラスがわかっている彼は

「俺は2組!」

と堂々と言った。

彼にはそれ以上何も聞かれなかった。

だから僕もこの際に気になっていた事を聞いてしまおうと思う。

「貴方も新入生なんですか?」

この質問への彼の返答は予想外なものだった。

「1年だけど、新入生って訳ではないかな。」

「それは、えっと…?」

彼がなんというか、ふわふわと喋るものだから、僕はそのペースに飲まれそうで上手く話せない。

でも彼のその特有のふわふわ感はイラつくようなものではなくて、催眠術とでも言い表せばいいのだろうか。洗脳されているのかと疑うレベルに、すごく心地がいい。

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