星座
その後も彼は
「あんまり可愛いと食べちゃうよ?」
とか
「叶人犬みたい〜」
とか、本気で言ってくるものだから、僕は恥ずかしさが限界まで達してしまってバっと顔を隠した。
「ごめんって」
彼は言いながら僕の頭を撫でている。
「もう、あんまりこっち見ないでください!」
僕は頑張って顔を逸らそうとするも、結局気になって彼の方を見てしまう。目が合った彼はいつものように微笑んだ。
やっと彼の視線から解放された。恥ずかしくなくなって嬉しいような、こっちを見てくれないのが少し悲しいような。当の彼はおもむろに教科書を取りだして勉強し始めた。そんな彼の姿を見るのは初めてだったから、ついじっと見ていたら彼は
「勉強したって、俺もうすぐ死ぬのにね。」
と言った。笑って言う彼を見て、心が少しキュッとなった。
「どうせ死ぬなら、意味の無いことも楽しんでおこうと思って。生きてたら、意味の無いことは意味の無いままかもしれないけど、もう少しで死ぬなら、意味の無いことも生きた証になるから。」
彼は終始笑っていた。彼は本当に自分の死を受けいれているのだろう。そんな彼が、少し寂しそうにも見えた。唐突に
「叶人は、何で教室行かないの?」
と彼は聞いてくる。
「直感、みたいな。辛かったから逃げた、みたいな。」
改めて考えてみると自分でもよく分からない。気づいたら辛くて、気づいたら逃げていた。僕は周りに合わせることが出来なくていつも浮いていて、最終的にはいじめの対象になっていた。正直、いじめられるのは母で慣れていたからどうでもよかったのだけど、人と関わるのが面倒で1人になりたかった。というのは多分言い訳で、本当は誰にも助けて貰えないのが辛かったんだと思う。いじめられようが、母に殴られようが、たった1人の味方がいてくれればそれだけで良かった。一人じゃないと分かれば、きっとそれだけでそれだけで頑張ろうと思えた。それでも戦わずに逃げた僕は卑怯者なのだ。
「そっかそっか、ちゃんと逃げれて偉いね。」
彼は言った。返ってきた言葉が予想外すぎて、思考が追いつかなかった。
「逃げるが勝ちだ。戦ったら誰かを、自分を、傷つけるかもしれないけど、逃げたって誰にも迷惑かからないからね。叶人が再起不能にならなくてよかった。」
彼はよしよしと言いながら僕の事を優しく撫でた。別に慰めて欲しかった訳じゃなかったけど、それでも彼に肯定してもらえることは嬉しかった。彼なら、僕の唯一の味方になってくれるかもしれない。