表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空に近い場所  作者: 彼方
19/20

星座

その後も彼は

「あんまり可愛いと食べちゃうよ?」

とか

「叶人犬みたい〜」

とか、本気で言ってくるものだから、僕は恥ずかしさが限界まで達してしまってバっと顔を隠した。

「ごめんって」

彼は言いながら僕の頭を撫でている。

「もう、あんまりこっち見ないでください!」

僕は頑張って顔を逸らそうとするも、結局気になって彼の方を見てしまう。目が合った彼はいつものように微笑んだ。

やっと彼の視線から解放された。恥ずかしくなくなって嬉しいような、こっちを見てくれないのが少し悲しいような。当の彼はおもむろに教科書を取りだして勉強し始めた。そんな彼の姿を見るのは初めてだったから、ついじっと見ていたら彼は

「勉強したって、俺もうすぐ死ぬのにね。」

と言った。笑って言う彼を見て、心が少しキュッとなった。

「どうせ死ぬなら、意味の無いことも楽しんでおこうと思って。生きてたら、意味の無いことは意味の無いままかもしれないけど、もう少しで死ぬなら、意味の無いことも生きた証になるから。」

彼は終始笑っていた。彼は本当に自分の死を受けいれているのだろう。そんな彼が、少し寂しそうにも見えた。唐突に

「叶人は、何で教室行かないの?」

と彼は聞いてくる。

「直感、みたいな。辛かったから逃げた、みたいな。」

改めて考えてみると自分でもよく分からない。気づいたら辛くて、気づいたら逃げていた。僕は周りに合わせることが出来なくていつも浮いていて、最終的にはいじめの対象になっていた。正直、いじめられるのは母で慣れていたからどうでもよかったのだけど、人と関わるのが面倒で1人になりたかった。というのは多分言い訳で、本当は誰にも助けて貰えないのが辛かったんだと思う。いじめられようが、母に殴られようが、たった1人の味方がいてくれればそれだけで良かった。一人じゃないと分かれば、きっとそれだけでそれだけで頑張ろうと思えた。それでも戦わずに逃げた僕は卑怯者なのだ。

「そっかそっか、ちゃんと逃げれて偉いね。」

彼は言った。返ってきた言葉が予想外すぎて、思考が追いつかなかった。

「逃げるが勝ちだ。戦ったら誰かを、自分を、傷つけるかもしれないけど、逃げたって誰にも迷惑かからないからね。叶人が再起不能にならなくてよかった。」

彼はよしよしと言いながら僕の事を優しく撫でた。別に慰めて欲しかった訳じゃなかったけど、それでも彼に肯定してもらえることは嬉しかった。彼なら、僕の唯一の味方になってくれるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ