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空に近い場所  作者: 彼方
16/23

梅雨明け

僕はいつの間にか涙が止まっていた。

でもそれは悲しく無くなったからじゃなくて、怖かったから。人間は限度を超えた恐怖に出会った時、涙が出なくなるというのは本当なんだと身をもって実感した。

あの後彼はずっと僕を抱きしめてくれていた。彼の冷たい体に触れて、彼はまだそこにいるんだと少し安心した。

このまま時が止まって欲しいと強く願ったがそれでも時間は進んでいくもので、いつの間にか2時間ほど経っていた。

気づけば僕が彼を抱きしめていて、当の彼は僕の腕の中で眠っていたから、ベッドに寝かせてから病室を後にした。

帰り道も、今離れたらもう会えなくなってしまうのではないかと、それで頭がいっぱいになった。

その後もずっと彼のことが頭から離れなくて、家に帰っても、酔っ払った母に殴られても、もう全部どうでも良くなってしまった。そんなこと彼を失うより何100倍もましだと思ってしまった。

僕はこんなに彼に執着して、何がしたいのだろう。

そんな事したって彼を困らせるだけだし、自分にとってもよくないのに。



次の日から僕は、学校には行かずに直接病院へ向かうようになった。

出来るものなら一瞬たりとも彼の元を離れたくはなかった。ずっとそばに居たかった。大切な人だからこそ居なくなってしまうなんて想像もできなくて、だからこそ本当に怖かった。

まだ朝ということもあり、彼はいつも寝ている。だからいつも起こさないように気をつけて彼の横の椅子に座っていた。

彼は目を覚ますと1番に僕の名前を呼んでくれる。これが僕にとって1番幸せな時間だった。

時々、彼のお母さんに会う事もあった。

彼のお母さんも僕にたくさん優しくしてくれた。お菓子をくれたり、母にやられた所傷の手当をしてくれた時もあった。何より、会うとまずはじめに

「いつも来てくれてありがとう」

とか

「ゆっくりしてってね」

と言ってくれるのだ。

ありふれた言葉だけど、居場所がない僕にとってはここにいて良いよと言ってもらえているようで本当に嬉しかった。


彼が入院してから2週間と少しが経った。

その日は僕が来た時、めずらしく彼は既に起きていた。だから僕が病室の扉を開けた時、

「もう少しで退院できるって!」

と彼は嬉しそうに言った。何で僕が来たことが分かったのかが不思議だったけど、そんな事どうでも良くなるような事を言われて、その疑問は消えた。

彼の退院は僕にとっても本当に嬉しかった。

彼とまた学校で会えるかもしれないし、これで少しは不安も減る。

僕がそんな事を考えていた時にふと、

「やっとだ!ここだと空がよく見えないからな〜」

と言う彼を見て、本当に空が好きなんだなと、本心から笑顔になれた。

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