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空に近い場所  作者: 彼方
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彼は覚悟を決めたようで、真っ直ぐこっちに向きなおる。

だから僕も覚悟を決めた。なんとなく彼が言いたいことは分かるけれど、それでも何を言われても受け止めようと決めた。

でも彼は、やはり話しずらいらしく、さっきから全く目が合わない。

それでも頑張って話してくれようとしている彼が辛そうで、耐えられなかったので僕は言った。

「無理して言わなくてもいいですよ、僕いくらでも待ちますから。」

それを聞いた彼は、それでも、と首を横に振って続けた。

「ちょっとずつ話せないけど、今言わせて欲しい。いつまで時間があるか分からないから。」

この言葉で、僕はもう完全に彼が言いたいことが分かってしまった。薄々気づいていた事だが、それを実際に彼の口から聞いたら耐えられない気がする。

それでも、彼が頑張って言おうとしてくれているのだから聞かない訳にはいかない。彼のことならば全力で受け止めたい。

彼が僕にそうしてくれたように。

僕たちはお互いに覚悟を決めてもう一度向き合った。

「まず俺は持病があって、その病気は結構重くて治らなくて、それで…」

彼はずっと笑っていたが、それは多分偽物の笑顔で、どこか恐怖に脅えているようだった。

だから今度は僕から彼を安心させる番だと思って彼を抱きしめた。

それで少し安心したのか、彼は少し震えながら続きを話してくれた。

「それで、余命宣告されてる。」

僕はその言葉に驚いたりはしなかった。ただ、やっぱりそうなんだな、と思った。

でも、出来れば当たって欲しくないと願っていた予想が的中してしまった事が辛くて、僕のあらゆる思考が恐怖で埋め尽くされていった。

「俺は、あと1年しか生きられないんだ。」

と、そこまで言ってから、彼は僕を抱きしめ返した。

「せっかく会えたのに、叶人と出会ってからはすごく楽しかったのに、もうちょっとで終わりなんだなって思ったら寂しいよ。」

そんなことを笑いながら言っている彼にいつか会えなくなる思うと怖くて、絶対離さないように強く優しく抱きしめた。

でも当の本人は落ち着いていて、自分の死を受け入れているようで、だからこそ怖かった。

「本当はあの時、叶人に出会った時、もう死んでも良いと思ってた。別にわざわざ死のうとは思わないけど、でももう心残りがないから、余命が尽きるまで辛い思いして生きてる意味は無いかなって。」

僕達が出会った時。今思えばもう懐かしいあの時。

僕が彼だったらあの時既に自分から死んでいただろう。でも、彼は耐えたんだ。

「でもさ、叶人に会ってから生きる意味ができたんだ。」

そんなことを言われると泣いてしまいそうになる。

「俺段々病気が悪化していって、去年には長時間授業受けてるのが辛くなって、先生はやさしく対応してくれたんだけどクラスのみんなには変な目で見られるようになって。それが嫌で、気づけば教室に行けなくなってさ。」

何気に彼の話を聞くのは初めてだった。

「その後は入院しちゃって、単位落として留年して、やっと復帰できたけどもう元には戻れなくて、それからずっと屋上とか空き教室を行き来するようになった。」

「…。」

「だから叶人があの時話しかけてくれた事が本当に嬉しかった。というか、俺は多分こうやって誰かに見つけてもらえるのをずっと待ってたんだと思う。俺、わがままだよね。」

一気に喋ったからなのか、彼は少し息切れしていた。

「叶人が、こんな命も大事にできない人間失格の俺を受け入れてくれて、本当に嬉しかった。だからありがとうね。」

彼が話している間、僕はそれをちゃんと聞けなかった。

だって、嬉しかったのは僕で、救われたのも僕の方で。命を大切にできないのも僕だ。人間失格なのも僕なんだ。

僕はお礼を言われるほどちゃんとした人間ではない。

「僕も、僕もあの時死のうとしてた。死んでもいいと思ってた。」

彼は少し驚いたような顔をした、ような気がした。

「だから僕も同じなんだ、いや同じではないけど、でも」

僕は、彼が自分の事を悪く言うのが嫌だった。

たとえお互いに命を大切にできないとしても、彼には他に沢山取り柄があって、僕にはない。

「だから、そんな事言わないで、人間失格なんて。少なくとも僕は湊にたくさん救われたから。」

気がついたら泣いていた僕を優しく撫でながら、彼は

「やっと湊って呼んでくれた。」

と、悲しそうに言った。

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