降水確率
彼はめずらしく黙り込んでしまった。
僕が答えにくい質問をしてしまったのが悪いのだが、でもなんとなく聞かない訳にもいかない気がした。
数秒黙り込んでいた彼は、ふと何かを決意したような顔で
「……気分かな」
と答えた。
彼の表情を見れば何かを隠しているということはすぐに分かった。
答えたくないなら無理に聞く必要もないと、僕は別の話題を振る。
「湊さんは、いつ帰るんですか?」
彼は目を泳がせながら
「叶人が帰る時かな。あとさ、湊でいいよ」
と言った。
一向にこっちを向いてくれない彼を前に、まだ気まずいのだろうか、よほど話したくないことを聞いてしまったのだろうかと、僕は後悔した。
彼は家に帰りたくないのだろうか。それとも学校に何か用があるのだろうか。
どちらにせよ彼がどうしようと彼の勝手なので、これ以上は深堀りしないこととする。
でもこれだけは言わせて欲しい。いきなり呼び捨てでいいと言われても困る。
僕には呼び捨てにできるほど仲がいい友達などいた事がないので、どういうテンション感で呼べばいいのか、どんな気持ちで呼んだらいいのかが分からない。
そもそも彼は僕より年上だ。尚更呼び捨てにするのは気が引ける。
でも僕が今考えていることも、結局彼にはお見通しなわけであって、
「あ、年上だからとか思ってるでしょ?全然気にしないでいいからね?」
と言われてしまう。
ここまで言われて呼び捨てにしないのも逆に失礼な気がして、
「みな……みなと…」
この呼び方に慣れようと思って呼んでみた。
彼はやっと僕の事を真っ直ぐ見てくれるようになった。笑顔を取り戻した彼は
「はーい」
と手を挙げて返事をしてくれる。
幸せな時間だった。
彼に手当をしてもらった後、ふと時計を見れば9時前を回っていて、さすがの僕も帰ることにした。
僕と同じタイミングで帰ると言っていた彼も、言っていた通り一緒に校門に向かって一緒に学校を出た。
外はもう暗かったので、彼を家まで送っていこうかと思ったが、彼に
「こう見えて一応君よりお兄さんなんですよ。」
と、一言で言いくるめられた。
帰り際、彼は僕の頭を撫でながら
「またね。」
と優しく言ってくれた。
僕達は家の方向が逆だったので、僕は彼の背中を見送ってから帰路に着いた。
僕がどんどん小さくなっていく彼の後ろ姿を眺めていたら、彼は1度こちらをふり返って手を振っていた。
僕は手を振り返しながら、そういえば今日の彼は私服だったなぁと思っていた。
僕が家についてもまだ母は帰っていなくて、今のうちだと思ってささっと寝る支度をした。
まだ体が所々痛いが、寝れば治ると信じて目を閉じた。
そして気づけば朝になっていて、まだ6時前と起きるには早かったがもう学校へ向かうことにする。
母はまだ帰っていなかった。父は今日も帰ってこなかった。
静かな家の中で支度をして、行ってきますを言わずに家を出る。
今はどうしても早く彼に会いたかった。ありがとうと伝えたかった。




