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空に近い場所  作者: 彼方
11/23

降水確率

彼はめずらしく黙り込んでしまった。

僕が答えにくい質問をしてしまったのが悪いのだが、でもなんとなく聞かない訳にもいかない気がした。

数秒黙り込んでいた彼は、ふと何かを決意したような顔で

「……気分かな」

と答えた。

彼の表情を見れば何かを隠しているということはすぐに分かった。

答えたくないなら無理に聞く必要もないと、僕は別の話題を振る。

「湊さんは、いつ帰るんですか?」

彼は目を泳がせながら

「叶人が帰る時かな。あとさ、湊でいいよ」

と言った。

一向にこっちを向いてくれない彼を前に、まだ気まずいのだろうか、よほど話したくないことを聞いてしまったのだろうかと、僕は後悔した。

彼は家に帰りたくないのだろうか。それとも学校に何か用があるのだろうか。

どちらにせよ彼がどうしようと彼の勝手なので、これ以上は深堀りしないこととする。

でもこれだけは言わせて欲しい。いきなり呼び捨てでいいと言われても困る。

僕には呼び捨てにできるほど仲がいい友達などいた事がないので、どういうテンション感で呼べばいいのか、どんな気持ちで呼んだらいいのかが分からない。

そもそも彼は僕より年上だ。尚更呼び捨てにするのは気が引ける。

でも僕が今考えていることも、結局彼にはお見通しなわけであって、

「あ、年上だからとか思ってるでしょ?全然気にしないでいいからね?」

と言われてしまう。

ここまで言われて呼び捨てにしないのも逆に失礼な気がして、

「みな……みなと…」

この呼び方に慣れようと思って呼んでみた。

彼はやっと僕の事を真っ直ぐ見てくれるようになった。笑顔を取り戻した彼は

「はーい」

と手を挙げて返事をしてくれる。

幸せな時間だった。



彼に手当をしてもらった後、ふと時計を見れば9時前を回っていて、さすがの僕も帰ることにした。

僕と同じタイミングで帰ると言っていた彼も、言っていた通り一緒に校門に向かって一緒に学校を出た。

外はもう暗かったので、彼を家まで送っていこうかと思ったが、彼に

「こう見えて一応君よりお兄さんなんですよ。」

と、一言で言いくるめられた。

帰り際、彼は僕の頭を撫でながら

「またね。」

と優しく言ってくれた。

僕達は家の方向が逆だったので、僕は彼の背中を見送ってから帰路に着いた。

僕がどんどん小さくなっていく彼の後ろ姿を眺めていたら、彼は1度こちらをふり返って手を振っていた。

僕は手を振り返しながら、そういえば今日の彼は私服だったなぁと思っていた。



僕が家についてもまだ母は帰っていなくて、今のうちだと思ってささっと寝る支度をした。

まだ体が所々痛いが、寝れば治ると信じて目を閉じた。

そして気づけば朝になっていて、まだ6時前と起きるには早かったがもう学校へ向かうことにする。

母はまだ帰っていなかった。父は今日も帰ってこなかった。

静かな家の中で支度をして、行ってきますを言わずに家を出る。

今はどうしても早く彼に会いたかった。ありがとうと伝えたかった。

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