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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Refrain ~愛しい貴女と過ごす時を夢見て~

作者: 天羽 爽夏

分類をホラーにしてみたけど、ホラーかは微妙です。

あまり期待しないでください。

 コポコポコポ……

          ―――水の音が部屋の中に響き渡る。

 コポコポコポ……

          ―――静か過ぎる部屋の中に響く。

 コポコポコポ……コポ…………

          ―――暗い暗い、部屋の中に響いていた。






 その部屋の中に置かれた、水槽のようなモノ。縦長の巨大なソレに満たされた水は、タプンと揺れた。

 下から沸き起こる泡たちは、ゆらゆらと上へと昇っていった―――縦置きにされたソレは、部屋の天井まで届いていて……ゆらりと中にある水草が揺れる。

 ユラリユラリと、揺れるそれを……青年は、ただ、ぼんやりと眺める。


「ヴィレット―――」


 部屋の中央、その水槽が良く見えるその位置に設えたソファー。そのソファーに座る彼は目を細め、ぽつりと呟いた。

 一拍置いて、青年の呟きに答えるかのように部屋の扉が開かれる―――現れたのは一人の女。

「ラフェス……呼んだか?」

 柔らかな声が、ぶっきらぼうに言葉をつむぐ―――青年は、彼女の姿を視界に認めると、にこっと微笑む。

 その唇が紡ぐ声は、甘露のように魅惑的で……その唇から発せられる言葉は、心の奥の欲望に火を灯す。

「えぇ、貴女の気配を感じましてね」

 ラフェスは微笑みながらそう呟くと、すっと立ちあがると、ヴィレットを部屋の中に招くように、内側に扉を開く。

「グラス、あったよな?」

 手に持った緑色の細長い瓶をちょっと持ち上げて、彼女は、にっと笑った―――その瓶の中を満たす液体は、葡萄を醗酵させたお酒。そのお酒の色は、血の色よりも紅くて、それを持つ女の瞳の色のように深紅で美しい。

「えぇ……」

 微笑を浮かべ答える青年に、彼女は瓶に目線を合わせて満足げに笑う。

 そして、すたすたと部屋の中へと歩を進め、ぽふっとソファーに腰を下ろした。少し腕を伸ばして、ソファーの前にあるローテーブルに、緑色の瓶を置く。

「葡萄酒、ですか?」

 ラフェスは、自分のわきを通り過ぎたヴィレットに向って呟く。

 その後に、「お酒の飲み過ぎは良くないですよ」と呆れたように付け加えたのは、彼女の身体を心配した為か―――からかっただけなのか。

「るせぇな……」

 拗ねたように呟くヴィレット。

 ラフェスは、その様子にクスッと微笑むだけで、それを咎める事しないらしく、それ以上何も言わなかった。

 彼は、扉を閉めるとそのまま、入口近くにある棚からグラスを二つ取りだした。並んだグラスの中、淡く緑色に光るワイングラスを選び出す。優美な指がほっそりとしたグラスの足をつまむ。

 ついでに、引出しの中からコルク抜きを取ると、ソファーに移動する。

 ローテーブルの上にグラスを置くと、緑色の瓶を手に取る。慣れた風にその封を解き、部屋の中にポムッと乾いた音が響いた。

 瓶の中からほのかに漂う芳香―――鼻腔をくすぐる薫りに、ラフェスは目を細めた。

「イイ薫りだろう?」

 青年のその様子に、ニヤリと唇を歪ませるヴィレット―――その言葉の響きに一抹の不安を覚えながらも、トクトクとグラスに紅い液体を注ぎ込む。注ぎながら……ある出来事が頭の中に浮かびあがった。

 外気に触れた液体たちは、その身から薫らせる芳香を余すことなく部屋中に広がらせる。甘い薫りが二人の鼻腔を楽しませる。

 二つ並んだグラス―――それらは、微かな部屋の光を受けてテーブルの上に影を落とす。何も入っていない透き通った薄緑のグラスは、影の中に淡い緑を滑り込ませる。片方の紅く色づいたグラスは、微かな光を内包し……影の一部を紅く染め上げた。

 その並んだ色が、自分たちの瞳の色を彷彿させて―――ヴィレットは、口元に笑みを浮かべると、それにゆっくりと手を伸ばした。

「ダメですよ」

 グラスに指が触れるか触れないかといった微妙な位置で、伸ばされた手はパシリと叩かれる。

 ビックリして一瞬動きが止まり、グラスに向けていた視線が、己の手を叩いた手に移り……そのまま、ラフェスの顔に移る。

 その顔に張り付けられた微笑み―――光の加減でだろうか……暖かなもののはずのソレは、酷薄としたものに見える。

 にこにこと微笑を浮かべたその姿に、何やら薄ら寒いものを覚えて固まってしまったのは―――何も己のせいでは無いはずだ。

「ヴィレット? 知ってます?」

「……な、にを?」

 少しびくついた声。伸ばしている腕は、凍り付いたように動かなかった。

 ラフェスはクスリと笑って、グラスを持つ。持ったグラスを瞳より心持ち上に掲げる。

 ユラリと揺れた紅い液体に目を細め……顔をそのままに、視線だけがヴィレットの方に移動する。その視線にビクリと怯えるヴィレット。

「さっき、回廊でキュレーと会ったんですよね」

 にこにこにこ―――その微笑みに居心地が悪くなる。

「―――キュレーが? なに?」

 顔が引きつっている―――自分でも分かるくらいに、ひくひくと痙攣している顔の筋肉。


 ―――自分は、ちゃんと笑顔が作れているのだろうか?


 ラフェスは、微笑みを浮かべたまま、グラスを持つ腕を動かす。

 口元に当てたグラス。ふわりと包み込むような薫りを楽しみつつ、グラスを傾け―――一口含む。まろやかな薫りが口の中に広がった。

「イイお酒ですね」

「あ……あぁ……だ、だろう?」

「―――流石、キュレーの『とっておき』だけありますよねぇ」

「……知ってたのか?」

 さらりと呟かれる言葉に、ばつの悪い顔をするヴィレット。がっくりと肩を落とすヴィレットを見て、ラフェスの顔に笑みが広がる。

「キュレー、かなりの御立腹でしたよ?」

 くすくすと笑いながら、グラスを口元に近づけ、また一口飲む。コクリと喉が上下する。

 それをうらやましそうに見ていたヴィレットは、そぉっと瓶に手を伸ばしたが、すっと瓶が遠ざかった。腕を伸ばした姿勢のまま、ラフェスの顔を仰ぎ見ると、その顔には微笑が浮かんでいて……背筋をツーッと汗が流れ落ちる。

「ダメって、言ったでしょう?」

 分からない子ですねとでも言いたげな微笑。

「―――なぁ……それ、持ってきたのは、私だよな?」

「えぇ。そうですよ―――当然でしょう? 僕が、キュレーの所から盗み出すなんて……そんな泥棒みたいな真似、出来るわけが無いじゃないですか」

 何をわかりきった事をとばかりに答えるラフェス。

「じゃぁさ……ナンで、私が飲めないんだ?」

 そんなのおかしいんじゃないのかと言外に呟くヴィレットに、くすっと笑ったラフェスは、「当たり前じゃないですか」と笑う。

「日頃、まったく役に立たない上司の代わりに、上役たちからお小言をもらうのは、僕なんですから……」

 告げるラフェスのセリフに、ヴィレットは思う。

(そのお小言以上に、私に嫌味の連発するのは、どこにいる副官だろうか? あれは、絶対、オマエの鬱憤晴らしだろう?)

「それに……頼りない上司の代わりに、部下たちを教育するのも、僕なんですよねぇ」

(おかげで、私の部下だった者たちは、誰かの恐ろしさが身に染みて、オマエに絶対服従状態じゃないだろうか……私の部下って言うより、オマエの部下だろう。アレ―――)

「―――そんな……苦労ばかりしている僕が、このくらい得したって……」

(いつも割を食うのは、私じゃないのか……)

「イイと思いませんか? ねぇ? ヴィレット」

 にこにこと微笑まれて、言いたくても言えないセリフ―――喉まで来た言葉をごくっと飲み込むヴィレット。自分が、あまりにも哀れで涙が出てくる。

 ヴィレットの様子に、クスリと笑うラフェス―――ぷぃっと視線をそらして拗ねるヴィレットに、苦笑しつつ尋ねた。

「そんなに欲しいんですか?」

「あたりまえだろ……」

 嫌な予感を抱きつつも、頷くヴィレット。

「仕方がありませんね――― 一口だけですよ」

 そう言うと、グラスに残った葡萄酒を全て口に含むと、ヴィレットの腕を掴み引っ張る。バランスを崩したヴィレットが己の胸の中に倒れこむと同時に、グラスを掴んでいた指の力を緩め……落ちていくグラス。

 抗議の声を上げようと上向いたヴィレットの顔。その顎をクイッと掴むと、互いの唇を合わせた。

「―――っ!」

 驚きのあまり目を開くヴィレット。ゆっくりと口の中に、苦い液体が流れ込む。ゴクッとそれを嚥下するヴィレットの口の中に、ラフェスの舌が忍び込んだ。

 ヴィレットの中に侵入したそれは、歯をなぞり、口の中を舐め尽くす。

 そして、絡まる舌と舌―――飲み込まれず溢れ出した赤い液体が、唇の端から零れ落ち、ソファーに鮮やかな色を描き出す。

「っん……」

 ヤメロと言おうと首を振るが、執拗な舌の動きに翻弄されてしまう―――言葉を発する前に絡め取られた舌。逃げる様に動かすと、追いかけて絡められ……その繰り返し。

 歯をなぞる様に動かされた舌。その動きにゾクリとする。

「んっ……」

 ヴィレットの腕を掴んでいたラフェスの冷たい手は、力を緩められ、そのまま、すぅっと腕をなぞる。凍えた様に冷えた指先に、皮膚をなぞられ……あまりの冷たさにビクリと身体が震える ―――そう、それは寒さに震えた、ハズ。

「っめ……ろ……」

 唇が開放されると酸素不足の身体は、空気を求めて呼吸を繰り返す。言いたい言葉は、荒い息の間に隠された。

 クスクスと笑うラフェス。

 確実に衣服を剥いでいく形良い指が、露になった肌をなぞる―――ゆっくりと動かされるその感触が、ヴィレットの体温を上げる。

「ヤメロ―――」

 ずりっと後ろに下がりつつ呟く……ヴィレットの言葉を耳にしていないのか、聞えていないのか。ラフェスは、その指の動きを止めようとはしなかった。

 女性にしては、筋肉質の張りのある褐色の肌。微かに汗ばむ肌は、熱く火照り―――冷たい指が、その肌を滑るように動く。

「何故?」

 クスリと笑う―――やっと手に入れた貴女……僕が手放すはずは無いのに。

「……いだから―――」

「―――?」

 首を傾げる僕。


 ねぇ、この指に伝わる振動は、ナニ?

 震えだす身体―――そんな貴女は、知らない。

 ねぇ、この指に伝わる雫は、ナニ?

 零れだす涙―――そんな貴女は、知らない。


 ―――僕の知らない貴女なんて、僕の望む貴方じゃない……


「止めてくれっ……お願いだから―――」

「哀願なんて―――貴女らしくない」

 冷たい光がラフェスの瞳の中に宿る。

 酷薄な笑みが、その顔に浮かぶ―――少しも笑っていない瞳は、冴え冴えとすらしていて……

「らしく、ないですよ? ヴィレット」

 感情の色の見えぬ声。無機質な響きすらするその声に、ゾクリと悪寒が背筋を走る。

「ラ……フェ、ス―――」

 伝い落ちる雫。

「彼女と同じ姿で……彼女と同じ声で……彼女と―――違う行動……」

 硬質な声は、コツンと床に落ちて転がる。

「ナニ、考えてるんだ……オマエ」

「ねぇ……あの人を汚す行為なんて、許してませんよ?」

 にこりと微笑むと、その首に指を廻す。絡まる指は、鋼の様に固くて―――

「止めっ」

「だから……処分しちゃいましょう」

 呟く声が消える前に、力の込められた指。あがらう女を力いっぱい絞め付けて―――そして、指の中の存在から鼓動が消えた。

 己の下にいる、今まで動いていたものは、ただのガラクタとなりはてて……疲れたように、ラフェスはため息をついた。

(いくら器を用意しようと……貴女と同じ魂は宿る事は無くて―――)

「ヴィレット……」

 そっと呟く。大切な、大切な愛しい人……その自由な魂は、留まる事を知らなくて―――僕は、貴女の魂を捜しもとめる。

「―――こんなことなら……その肉体とともに……」

 ポツリと呟く。

 のろのろと動き出したラフェスは、水槽に近付き、硝子のそれに腕を廻し―――抱きしめるようにして、顔を近づける。

 水槽の中では、コポリと泡が上へと上がって行き……赤い水草に絡まって、それを揺らす。細い水草の隙間にその身を通し、上へと昇る泡。


「ヴィレット―――」

 愛おしそうに呟く。

 ―――硝子に阻まれて、抱く事はできないけれど……

 静かに扉が開く。


「ヴィレット―――」

 愛おしそうに囁く。

 ―――貴女と繋ぐ糸は、まだ切れないから……

 静かに開いた扉から現れる影。


「ヴィレット―――」

「ラフェス……呼んだか?」

 振り返ると、呆れたように笑う貴女がいた―――


 貴女は、また……ここに来てくれる。

 そう、その魂が宿るべき器がここにあるかぎり……。


 貴女の肉体なら幾らでも造って差し上げますよ―――ねぇ、ヴィレット。

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