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第36話:苦難

 転移する時、実は魔力というのは転移先と現在地、互いの空間を行き来している。それを探知すれば転移で逃げても追いかけることが出来るのだ。

 まぁ、そもそも転移など使える人間はほとんどおらず、「魔物の魔術」という認識が強いのでそれを知る者もいないわけだが。


「――よし。転移先はそこか。安全も確保できた。転移(テレポート)


 一瞬で景色は移り変わり、黒を基調とした――家具も壁も何もかも黒で、縁が金色で装飾されているくらいだ――部屋へと転移した。

 少し右側を見れば窓が開いており、光源はそこだけのようだ。白いレースのカーテンが風に吹かれて揺れている。


「ややや! まさかここに来ちゃうナンテ! すごい!」


 このゴシック調の部屋には似つかわしくない、奇妙なピエロのような人物がそこにはいた。明らかに人のようには見えない。魔物だろう。


「魔物だな。彼女たちの居場所を吐けば殺さないでやる」

「ややっ!? それは言うわけないジャン! ばーか!」


 くっそ、腹立つな。小馬鹿にしたような態度に飛び跳ねるような動き。真面目に会話してるのに……彼我の力量すらも分からないのか?


「ということはお前が主犯なわけだ。他に仲間もいるのかも知れないけどさ」

「ななな! バレてしまうトハ! 失敗!」


 失敗なんて言ってはいるものの、反応から考えれば痛手に感じていないように見える。どうせ露見するから、ということなのか、それとも俺に勝てると踏んでいるのか。

 いずれにせよ舐められたものだ。

 俺はため息をついて続ける。


「言わないならば無理やり言わせるまで。さぁ、どんな死に方がお望みだ――」

「ネェ、今キミ即死(デス)使おうとシタデしょ」


 いきなり口調が変わり、俺と同じように真面目な雰囲気を醸し始めた。しかしそこから放たれたのはもっと奇妙な言葉だった。


「……ほぉ。わかるんだな」

「見てたからね。ちゃーんト」


 魔力探知にいくら優れていようと、発動する魔術を予知することは出来ないはずだ。あくまでも俺の使う方法は、だが。

 未来を予知するキャラはゲームには登場していなかったので、こいつは本当に俺を監視していたのだろう。気持ちの悪いことだ。


「で? 俺がそれを使ったら何か起こるのか? ただの逃げでしかないと思うんだが」

「モシ、キミが即死(デス)を使えば彼女たちの命はナイ。同時に死ぬ。この身体の死と直結する事項だ」

「なるほどね。……それで俺に勝てるとでも?}

「もちろん。君は弱いから」


 大言壮語だな。こいつはよっぽど実力を過信しているらしい。俺は世界で最も強力な存在である悪魔から力を得たのだ。訓練も怠ってはいない。冒険者は焦らずやっているのでまだBランクだが――そろそろAになれる頃ではある――人類の中では上位に入るはずだ。

 

「よく言ったね。小手調べと行こうか。炎槍(フレイムランス)


 右手の上に燃える槍が現れた。それは目の前のピエロにぶつかると――そのまま槍がかき消えた。


「そもそもこの程度じゃ効かないってか」

「やりすぎるとこの身体は壊れチャウからね! ははは!」


 先程からこいつ、「この身体」と自分を表現している。つまりそれは本体が別にあるという証左だ。

 今は使えないが、もし俺が天空虚無(ダインスレイヴ)を使ったとしたら間違いなく消滅してしまうだろう。魂や、「死によって起こされる~」というプログラム自体を消してしまえれば良いが、そう上手く行く気もしないしそもそも取らぬ狸の皮算用。……本当にやりづらい。


「う~む。封鎖結界(ロックダウン)

「ありゃりゃ。閉じ込められちゃったよ~」


 その声は、俺の背後から聞こえた。


身体強化(エンハンス)ッ!」

「さすがに反応が遅れたねぇ~」


 気づいたまでは良かった。しかしこいつが手に持っているナイフで背中を切り裂かれてしまった。避けていなかったらもっと深く傷が出来ていただろうし、不幸中の幸いって感じだ。


回復(リカバリヒール)っ」

「ま、そうするるるよねぇ~!」


 あぁもう。思い通りいかない事がこんなにもストレスになってしまうとは。何かいいアイデアが……あっ。良いものを思い出した。

 これがあれば俺の勝利は間違いない。きっとこいつは知らないだろう。なにせ俺はこの世界を知り尽くした男だからな。

 それの名は――。


四重詠唱(クアドラキャスト)水柱(ウォーターピラー)

「当たらないヨ!? はっは!」


 地面から湧き上がる水の柱を軽々と避けるピエロ。まぁいいさ。別にそれでの攻撃が目的なわけじゃない。


催眠空気(ヒプノシスエア)

「おお! いいネ!」


 そう言って嬉しそうな様子を見せているが実際はその空気を吸わないようにしている。それになぜか風がピエロの方から吹いている。

 

 さっきからこいつ、魔術を使っていないようだがそんな事はない。現に魔力の流れが確認出来る。詠唱がないということは……俺とは違う、かつ「俺の知らない方法」での術式行使か?


 しかし俺にとってはありがたい。特に風で対処してくれたことが。


凍結(フリーズ)

「凍るなんて御免だネ!」

 

 この部屋はある程度の広さがあるため、走り回って魔術の範囲から逃げることは理論上可能だろう。……けどそれをやるやつはいないんだよ! よくもまぁ家具にぶつからず回避できるもんだな。


「……ン? なんだそのキレ―(綺麗)なもの!」

「これか? 幻影結晶(ファントムクリスタル)って言うのさ」


 魔術というのは、時として組み合わせることが可能だ。例えば竜巻を起こしたとして、そこに火を混ぜれば火炎の竜巻に、水を混ぜれば水流の竜巻に変化する。それくらいは簡単に想像できるはずだ。


 それと同じように、様々な物質や薬剤なども生成可能だ。もちろん限度はあるが、魔力が大いに関係するものであれば作れたりする。


 今回必要なのは、空気中に一定の度合い以上の水分と、何らかの毒、そしてそれらが混ざったものを凍らせること。

 

 その全てはピエロが気づかない間に完了していた。


「その効果は――魂を物質世界に顕現させることだ」


 俺は手に持っていた幻影結晶(ファントムクリスタル)を握り潰し、ピエロに思いっきり投げつける。

 想定外のことだったのか。それともあっけにとられていたのかは分からないが見事に命中。


 すると、ピエロに異変が起き始めた。


「ナ、なナ何こレ!」


 姿が二重、三重とブレたのだ。まるで三人重なっているように見える。その真中の個体――本体だ――の胸の辺りに、光り輝く丸いオーブが浮いていた。


「や、やめロ!」


 気づいてしまったようだ。それが魂だと。


「もう遅い。窃盗(スティール)


 意外にもこれは中級風魔術。こんなのを犯罪に使うやつは盗人より魔術師した方が楽に稼げそうだけどね。


 ともかく、そんなこんなで俺の手の中にはその(オーブ)が握りしめられていた。


「じゃあな、道化師(ピエロ)さんよ」


 俺は勝ち誇ったように笑みを浮かべ、握りしめて壊す。


「ウワアアアアアアアアアア!?」


 苦しんでいるのが一目瞭然だ。魂とはそれほどまでに敏感なものなのだろう。


「俺が弱いなんて言ったな。お前はどうやら頭が弱かったらしい」

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