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第8話:漫画とかでよくあることですから

「新制度っていうから、なにかと思ったら。くっだらないわね」



 いつものように班長のデスク前に立つ、アンナとアビー。

 アンナは班長の説明を受けて、ため息交じり悪態をついた。



「普段なら『規則に従え』と一喝するところだが、今回は私もアンナの意見に賛成だ」


「あら珍しい。ってことはこの新制度は無視して良いってことよね?」


「それとこれとは別だ。くだらない制度だとは思うが、上層部の決定は絶対。私たちの私見など関係ない」



 班長が椅子の背もたれに体を預けて腕組をした。

 これ以上の議論は認めないという意思表示だ。

 アンナは反論しようと口を開くが、班長の態度を見て諦めて、アビーに意見を求めるように視線を送った。



「私は良いと思いますけど。こういう設定って漫画とかでよくあることですから」


「またアビーの世界の文化の話? 召喚者の考えることはよくわからないわ」


「文化というか娯楽というか。それは置いといても、私はアンナちゃんと同じっていうのが単純に嬉しいです」


「な、なに言ってんのよ」



 アビーの言葉に頬を赤らめて「ふん!」と頭を振るアンナ。



「話はここまでだ。私はたんまり書類整理が残っている。お前たちは出動がないのだから、帰宅までに書類をシノに提出するように」



 班長の言葉に、近くのデスクで作業をしているシノが振り返ってほほ笑んだ。



「はいはい。行きましょ、アビー。ラウンジでお茶でも飲みながら考えるわよ」


 アンナは言い終えると、アビーのリアクションを待たずにドアの方へと歩き始めた。

 アビーは特に返事をすることなく、アンナの後ろをついていった。


◆◆◆◆◆◆


 新制度。

 それは『サモン・ハンターズ』に所属する実戦部隊をチームに分け、コードネームを付けて管理することだった。

 第21局第2班の実戦部隊はアンナとアビーの2名しかいないため、チーム分けもコードネームも必要性がほぼないに等しかった。

 だが、多くの人員が所属する局ではチーム制で戦力バランスをとり、管理するのが効率的だと判断したようだ。



「はい。アンナちゃんはお砂糖なしで良かったですよね?」



 アビーがラウンジの売店で買ってきた紅茶をアンナのいるテーブル前に置く。

 そして、アンナの対面の席に座った。

 テーブルの上には、班長から渡された数枚の書類が無造作に置かれている。



「パパッと終わらせちゃいましょ。アタシ、今日の夕方にシノと飲みに行く約束してるのよ」


「わかりました。で、どんなコードネームにしますか?」


「それなら良い名前を考えたわ」


「どんな名前ですか?」


「『アンナ&アビー』ってどうよ? シンプルだし、名は体を表すってことでわかりやすいでしょ」


「安直ですね。コードネームのルールを読むと、チームの構成員の名前を羅列するのは禁止だそうです。途中でチームの構成員が変更になった際に再申請の負担がかかるので」



 アビーが書類に目を通しながら、アンナの案を却下した。

 「めんどくさ」とアンナは呟き、紅茶をすすった。



「こうして話しながら考えても時間がかかるだけなので、お互いに3案くらいを書き出して、そこから名前を決めるっていうのはどうでしょう?」


「アビー、冴えてるわね。それでいきましょ」



 アビーは手元のメモ帳を1ページ破ると、万年筆と一緒にアンナに差し出した。

 アンナはそれを受け取ると、腕で紙を隠すように前のめりになった。



「なんで隠すんですか?」


「だって、アビーに真似されたら嫌じゃん」


「そうですか」



 真似するくらい良い名前なら、もうその名前でいいのではないか?

 アビーはそう思ったが、面倒と言いながらも結構楽しそうに名前を考えているアンナの姿を見て、口をつぐんだ。

 アビーもメモ帳に万年筆の先を付ける。


 アビーは『ガルド』に召喚されたときにエストニアがある大陸の公用語で会話と読み書きができるようになっていた。

 全ての召喚者はスキル付与と同時に、神によって言語能力や身体能力などが『ガルド』の基準に調整されるらしい。ただ、元の世界の言語も忘れているわけではなく、意識的に使用することができた。ただ、神の力のせいか、長時間使用するとひどい吐き気と頭痛が起こる。

 アビーはその症状を「召喚者たちが結託して行動することを避けたいのではないか」とぼんやりと推測していた。


 ふたりがそれぞれに名前の案を書き始めて10分が経過した。

 最初はスラスラとペンを走らせていたアンナだったが、途中からピタッと動きを止める。

 煮詰まったようで、ペン回しをしたり、鼻と唇の間にペンを器用に挟んだり、紅茶を飲んだりし始めた。



「アンナちゃん、もういいですか? 私は書き終わりました」


「え、もう3つもできたの?」


「はい。アンナちゃんは?」


「ちょっと待って、あとひとつだから」



 アンナが急いでペンを走らせる。

 それを見たアビーは「最後のひとつは絶対に適当に考えた名前だろうな」と思った。



「じゃあ、せーので出しましょ!」


「別にカードゲームじゃないんですから」


「私は形にこだわる主義なの! 異論は認めないわ」


「はいはい。じゃあいきますよ」


「せーの!」



 アンナの掛け声でふたりはテーブルの中央にそれぞれのメモを勢いよく置いた。

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