第4話:自動発動の防衛タイプか
武骨なホウキにまたがり、アンナが街の建築物より上空を疾走する。
エストニアは中央にある南北を突き抜ける街道以外は碁盤の目のように道が複雑に敷かれてるので、目的地へ迅速に向かうには上空を走る方が効率的だった。
国の西側にある市街地、その中央にある大広場がアンナの手前下方に見えてくる。
アンナはホウキをぎゅっと握り、さらに速度を上げた。
「アンナちゃん。遅いです」
「ごめん。トレーニングの後でシャワー浴びてた」
「だから、髪の毛がボサボサなんですね」
「しょうがないでしょ。セットする時間がなかったし、飛ばしてきたんだから」
アビーの横に着地したアンナは、手櫛で跳ね上がった髪を撫でつけた。
一通り髪を押さえつけると、改めて目の前の光景を見つめる。
「なんなのこれ?」
「召喚者されたばかりのようです。監察・情報班にも通報などはなかったそうです」
「アタシが聞きたいのはそこじゃないわ。なんなのこれ?」
アンナが指さした先には巨大な植物のツルが地面から天に向かって十数本も伸びていた。
そして、その先端には住人が絡め取られている。
「植物のツルのようですね」
「見たまんまじゃない! なんでこんなことになってるのよ!?」
「目撃者の証言によると、倒れているおばあさんに駆け寄ったら人がいきなり地面から生えてきたツルに襲われたそうです。それを助けようとした人や近くにいた人がさらに生えてきたツルに襲われたとか」
「……自動発動の防衛タイプか」
「おそらく」
「もうやっかいなスキルよね。自分で制御できるようになるまで時間がかかる場合が多いから、『保護』するのが毎回面倒なのよ」
「どうしますか? アンナちゃん」
ツルを見上げるアンナにアビーが訪ねた。
その間にも新しいツルが生え、クネクネと動いて捕獲対象を探している。
ツルが群生しているのは大広場のほぼ中央で、ふたりがいるのは大広場の端。
100メートルは離れているので、攻撃範囲外のようだ。
「うちの規則だと、召喚者に呼びかけてスキルの発動を止めさせるんだけど……」
「でも、ここからだと声がちゃんと届かないかもしれないですね。それに召喚された直後は混乱している場合が多いので、状況を説明しても理解できないことが多いですし……」
「とりあえず、近づいて声をかけてみましょ。それでダメなら実力行使よ!」
「実力行使」と言ったアンナの表情はとても楽しそうだ。
それを見たアビーは「また減額かな」と思ったが、言うのは止めておいた。
ふたりで組むようになった当初はたしなめたりもしたが、一度として聞き入れられたことがなかったので、今では思うだけになったのだ。
「近づくってどうするんです?」
「要はツルに捕まらなければいいんでしょ?」
アンナはホウキにまたがるとふわっと浮き上がり、ツルの群生地へと疾走する。
アンナの接近を察知したツルは彼女に猛スピードで襲い掛かるが、アンナは見事は鋭角なラインで瞬時にコースを変更し続けてそれを避けていく。
「おーい! 召喚者! アタシの声が聞こえる?」
アンナが呼びかけるが反応はない。
ツルを器用に避けながら、アンナは何度も「召喚者!」と叫び続ける。
しばらく繰り返したあと、さすがに疲れたのか、アンナはツルの攻撃範囲外まで高度を上げて避難した。
「アビーちゃん。召喚者って呼びかけてもダメですよ。相手はこの状況を理解していないようですから、自分が召喚者だって認識してないはずです」
「それ、いま言う? もっと早く言いなさいよ!」
バズーカの砲身に脚を揃えて横乗りしてるアビーがアンナのもとにやって来た。
『チャーミー・アーミー』
神がアビーに付与したスキルで、現実にありそうでない変わった兵器などを生み出す能力だ。
攻撃用のアイテムは『保護』された際に封印され、管理権限を持つ原住民による『限定解除』がないと使用できない。それ以外のものは自由に使うことができた。
この例外処置は『サモン・ハンターズ』に所属する召喚者のみに許されている。
アビーが乗り物として使用しているバズーカは封印の対象外だった。
「召喚者はおばあさんのようですから、ここはおばあさんって呼びかけるのが最善かと」
「わかったわ。今度はアビーも協力しなさい!」
アンナはアビーの返答を待たず、ホウキを下方へと向けて急降下を始めた。
「あ、ちょっと、アンナちゃん」
アビーはツルとの攻防を再開したアンナを見下ろした。