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スライム謳歌論  作者: 武燈ラテ
第二章 森のスライム
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山小屋を発見しました

 わたしは、わたしから生まれた子を、キノコイムと呼ぶことにした。


 ネーミングセンスどころかただの分類名になってしまっているけれど、わかりやすいからそれでいい。


 キノコイムは、わたしと違って、キノコばかり食べる。


 わたしと言えば、あれ以来なんだかキノコを食べる気になれなくて、蔦の葉や、柔らかそうな木の新芽を食べている。


「キノコ、おいしいよ?」


 素朴な顔で不思議そうに尋ねられたけど、


「確かに、そうだね、おいしいよね。……でもまた分裂しちゃうかもしれないから」


「なんで? 仲間はたくさんのほうが嬉しくない?」


「そうだね。まあ、そのうち、気が向いたら」


 なぜか、キノコイムはキノコを食べても、分裂しない。


 わたしもあれから試していないので、キノコを食べるだけでまた分裂をするのかわからない。


 ただ、一度は「死ぬかも?」とまで具合が悪くなったのに、また食べる気には、そうそうならないものだと思う。


 キノコイムと共に、のんびり森の中を移動している。


 枝で羽休めをしている鳥や、枝から枝へ飛び移るリスたちを見れば


「あれはなに?」


 と尋ねられる。どうやら、わたしの知識はキノコイムに受け継がれていないらしい。


 一度など、夜にのしのしと地面を歩く熊を見て、


「あれはなに?」


 と追いかけ飛びつこうとしたので、肝を冷やした。


 捕食目的で襲われたりはされなくても、こちらから飛び掛かったら、熊だって振り払おうとする。あたりまえだ。攻撃される前に止めることができて、本当に良かった。


 そんなキノコイムが、


「あれはなに?」


 と言い出したので、わたしは慌てて、その方角を見た。


 わたしは、はっとした。


「……あれは、山小屋」


 木の丸太を組み合わせて作った、どこからどう見ても人間が作った建物だ。


 森の中に小さく開けた場所に、一軒だけ建っている。


 人間の姿は見えないけれど、壁際にはうず高く薪が積まれている。屋根からは、山で取れた木の実を紐で繋げて干している。何より煙突からは、小さく煙が上がっている。


 近くに人間がいる。


 わたしは周囲を窺った。


「あれなに? すごいね!」


 ところが、わたしの警戒をよそに、キノコイムは飛び出していってしまった。ぴょんぴょんと軽快に跳ねて、山小屋へ向かってしまう。


「待って! 止まって!」


 わたしは声を張り上げたけれど、キノコイムは止まらない。連れ戻そうと追いかけて、わたしも飛び出したところで


「……おお」


 山小屋の扉が開いて、人間が出てきたのだ。


 わたしはその人間が、武器を持っていないかを見る。両手にはなにも持っていないようだ。


 襲いかかってこないかを見る。足を踏ん張ったり、腕を振り上げたりはしていない。


「なんだ、スライムか。こんなところで珍しいな。色も変だし。まあ、他の獣に襲われないようにしろよ」


 それだけを言って、また扉を閉めてしまった。


 わたしは、心底ほっとした。


「今のが、人間? 人間なのね?」


 キノコイムは大興奮だ。閉まった扉の前で、ずっと飛び跳ね続けている。


「人間って、思ったより大きいのね! それから、頭のてっぺんと、口の周りだけ、毛皮があるのね! 服っていうのも、初めて見たわ! それに、あの手! 指があんなに長くて、五本もあるのに、ぜんぶ別々に動くのね! すごいわ!」


 大はしゃぎのキノコイムに、わたしは少しばかり説教をしなくてはならない。


「今の人間は好戦的じゃなかったけどね、いきなり襲いかかってくる人間のほうが多いから、もっと気をつけなくちゃだめ」


「はーい。でも、聞いているよりぜんぜん、怖くなさそうだったよ」


 これはきっと、次に人間を見かけても、飛び出していくに違いない。わたしは先が思いやられた。

「早めにここから離れたほうがいいかな」


「えー、やだ、もう一回くらい見てからにしよ。ね?」


 キノコイムはプルプル震えて全力で抗議してくる。


 わたしは少しためらったけれど、もう一回くらいならと譲歩した。


 あの人間は襲いかかってきたりすることはなさそうだ。それに、キノコイムの好奇心をもう少し満足させておいたほうが、次に人間を見かけたときに考えなしに駆け寄ったりする可能性が減るので、かえって安全かもしれない。そう考えたからだ。


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