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スライム謳歌論  作者: 武燈ラテ
第一章 村のスライム
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子どもに襲撃されました

 日がな一日、わたしはカーラの背中で日向ぼっこだ。腹が空けば自分でその辺りの草を食いにいく。あまり離れては人間に危害を加えられるかもしれないから、行動範囲は狭い。


 セイラは朝早くから起きて、まずは馬小屋の掃除をする。寝藁を取り替えて、汚物は堆肥にするために運び出す。外に集める場所があるのだと言う。


 それからカーラの体にブラシをかけてやり、エサ箱にカーラの飯を補給する。


「チョピちゃん、行ってくるね」


 その後は村に出かけて、そのまま夜まで帰ってこない。


「カーラの仕事はないのか?」


 わたしが訊ねると、カーラはニンマリ笑った。


「こんな老骨にそうそう仕事はないよ。昔はまあ色々とやったもんだけどね。今じゃどうも、たまにだよ。たまーに、村の外へ買い出しへ荷馬車を引くだとか。旅人や冒険者が来たときにお金を取って貸すだとか。それくらいだね」


「そんなんで、よくエサがもらえるね」


「そのうち潰されて食われるかもしれないけどね。ここ以外で今更こんな年を取ってから、一頭だけで、どこ行こうってのさ。アタシはここで死ぬんだよ」


 わたしは、そうかと頷いた。


「まあアタシはともかく、セイラは早くこんな村を出てっちまったほうがいいと思うけどね」


「そうなのか?」


「あの子は働き者で器量も良いからね。こんな村でケチな男に貰われるより、街に出りゃいくらでも生きていく道があるだろうよ。そのほうがよっぽどいい暮らしができるってもんだ」


「ふーん。まあ、セイラがどう思ってるかだよね」


 正直、わたしには想像が及ばない。何せ人間の暮らしなんて、この村どころか、この馬小屋の周りくらいしか知らないのだ。


「いい暮らしってどんなもんなの?」


 聞いてみれば、カーラは、それ来たとばかりに都会の話をしはじめた。


 カーラが荷馬車を引いて何日もかけて行くその街は、驚くほどたくさんの人間がいるらしい。


 道は広くて石で舗装され、雨の日でも泥だらけになったりもしない。


 市場には色とりどりの天幕を張った店が所狭しと並ぶ。肉の塊が吊るされ、鮮やかな野菜や果物などの食い物が山と積まれる。凝った模様の入った布や服飾品、木や土で作った食器などの日用品、それに剣やナイフといった武器類、なんでもある。


 そこにいる人間は、泥をつけたまま歩いている者は一人として見ない。みな新しそうな、きれいな服を着ているらしい。それも濃い色に染めてあったり、刺繍がされていたりと、美しいものばかりだ。


 子どもは片手は親に引かれ、もう片手は菓子を持っている。


 誰も彼も楽しそうに笑い、腹も空かせておらず、健康そうにぽっちゃりしている。


 夜になれば道やら家やらとあちこちで火が灯り、まるで昼間のように明るいままで外を歩けるらしい。


「セイラには、ああいうところで暮らしてもらいたいね」


 カーラはふんと鼻息を荒くする。


「カーラはセイラが好きなんだな」


「そりゃそうさ」


 わたしは都会がそんなにもいいとは思えない。きっとカーラは街のいいところばかり見ているのだ。そんな気がした。けれど実際に街を見たことがないわたしには、ただの否定的な推測に過ぎない。


 それに、カーラがセイラを大事に思っているのは、街がどうだろうと、確かなことなのだ。


「あ、スライムだ!」


 そんなのんびりした昼間に、子どもの声だ。あの時のオスの子どもだ。二人ともいる。


「まだいたのか!」


「魔物のくせに!」


 子どもはわいわいと騒ぎ始める。


 わたしはその姿を、馬小屋の中から眺める。


 カーラはわたしを背に乗せたまま、耳をピンと立てた。どうやら警戒体制だ。


「こいつ、このままにしたらセイラに襲いかかるかもしれないぞ」


「大人しくしていても魔物だもんな!」


「セイラがいないうちに追い出しちゃおうぜ」


「セイラにバレたら怒られるぞ」


「バレないって、勝手に逃げたって言えばいいし」


 子どもらは、そんないい加減なことを言って、わたしに向かって石つぶてを投げはじめたのだ。


 途端にカーラが、ヒヒーンと高く嘶いた。


 後ろ足で立ち上がる。


 前足の蹄を、子どもらに向かって掲げた。


「うわ、逃げろ!」


 子どもらはあっさりと逃げていった。


 カーラは

「気にすんじゃないよ」 

 と言ってくれたが、わたしは、ああそうかと色々と納得した。


 あのオスの子どもらは、セイラが好きだ。


 セイラに飼われているわたしのことが気に食わない。


 セイラがあの二人をどう思っているのかはわからないが、家に呼んだりはしていないところから見ると、それほど親しく付き合っているわけではないようだ。


 わたしがここにいることで、セイラの村での立場は、少し居心地悪くなるのかもしれない。


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