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スライム謳歌論  作者: 武燈ラテ
第三章 高原のスライム
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分裂条件がわかりません

 すっかり野いちご食にハマってしまったわたしたち三にんは、その日その日に野いちごの群生を探し、好きなだけ食べてはまた眠って、起きればまた探すという、飽食の時代を謳歌していた。


「チョピ、野いちご食べてももう分裂しないんだね」


 キノコイムは不思議そうだ。


「最初の一回限定なのかな」


 わたしも不思議だ。草以外のものを食べた場合に最初の一回だけ分裂するとか、そういうルールなのだろうか。


 そんなスライム、聞いたことないけど。


「ふたりとも、ぜんぜん歌が上手くならないしね」


 イチゴイムも不思議そうだ。


 そうなのだ。あれからイチゴイムの指導のもと、歌唱練習を続けているのだが、わたしもキノコイムも、一向に上達しない。


 もちろん、イチゴイムのような魔法効果は発動しない。


「キノコイムも、イチゴイムも、わたしから分裂したのに、ぜんぜん違うね」


「スライムって、こんなに違うものなんだねえ」


 わたしは、ない首をかしげる。


 草原で暮らしていた頃は、こんな色違いだとか、変わった特技があるとか、そういうスライムは、ひとりも見なかったのだ。


 みんなわたしと同じで、中身もわたしと同じ。みんなでひとつ。だった。水色一色で、個性なんてなかった。個体としての意識が希薄だった。


「そういえばキノコイムも分裂してたけど、あれは、ふたりとも同じに見えたよ」


「うん、同じって感じがしてた。わたしも、あの子も、おなじ自分自身。だからおっちゃんのとこに行ったのも、今ここにいるのも、どっちもわたしだよ」


 キノコイムは頷く。


「でも、チョピとイチゴイムには、同じって感じはないねえ」


「だよね」


 不思議は不思議だけれども、考えていればわかるという問題じゃない。


 それに、イチゴイムの歌にはとても助かっている。高原での息苦しさが消えるだなんて、これは、バフってやつではないだろうか。


 どこまで、どんな効果があるのかわからない。一度いろいろと検証してみるのもいいかもしれない。


 そんなこんなで野いちごを辿って移動を続けるうちに、なんと、また人間の住処に出くわしてしまったのだ。


「人間って、意外と、どこにでもいるんだね」


 キノコイムが感心したように言う。


 清流から、人工的に支流を作って流し込んだ堀の先、石造りの建物があった。


 水と塀で二重にぐるりと囲んだ中に、石の塔が見える。


 塔自体の敷地面積自体はそれほど広くはないのだけれど、何せ、物々しい。


 堀の上を渡る、立体的な跳ね橋。そこを渡った先には、たくさん鋲が打ってある扉がある。見るからにとげとげとしていて、威圧的だ。


 両側には、兵士と見られる人間が、左右にひとりずつ立っている。金属の鎧を着ていて、武器を手に、そこで立ったまま動かない。


「槍、持ってるよ〜」


 キノコイムは先日剣で切られかけたからか、一際恐れて震え上がっている。


「近づかないで、さっさと離れたほうがいいよね」


 わたしはそう提案する。それにふたりは、うんと頷く。


 ところが、わたしたちは本当にうっかりしていたのだ。


 息が苦しくなるからと、イチゴイムにはいつも歌ってもらっていた。


 イチゴイムも、歌うのが好きだからと、好きなときに好きなだけ歌う日常に満足していた。


 この頃になるとそれが普通のことになってしまっていて、歌ってもらっている意識すらなかったのだ。


 聞きなれたBGMのようなものだった。


 だが、当然だけれども、兵士に気づかれてしまう。


「なんだ? スライムが、歌を歌っているだと?」


 扉の横の兵士が野太い声でツッコミを入れてきて、初めてわたしたちは、自分たちのうっかりを自覚した。


「わ、わ、わ」


 イチゴイムは慌てている。どもっているのさえ歌のように聞こえる。


「逃げよ! 逃げよ!」


 キノコイムも慌てていて、大声をあげている。


「怪しいスライムめ」


 兵士が恫喝してくる。


 そこにもう一人の兵士が提案する。


「歌うスライムなんて、珍しいじゃないか。しかも、ピンク色だ。こりゃ金持ちのご婦人なんかにゃ喜ばれそうだ。捕まえて売ったらいい金になるぞ」


 兵士がにやにやと笑っているのが、遠くからでもよくわかった。


「それはいいな! ここの安月給にはもう飽き飽きなんだよ」


「遊んで暮らせるぐらいに稼げるかもしれないぞ」


 イチゴイムは、あまりのことに目を回している。びっくりしすぎて固まってしまっているのだ。


 わたしはイチゴイムにポヨンと体当たりをした。


「逃げるよ!」


 イチゴイムは気を取り直したようで、今まで見たことがない真剣な顔で頷いだ。


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