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スライム謳歌論  作者: 武燈ラテ
第二章 森のスライム
10/13

煩悶を静観しました

 場を離れた森の奥で、わたしはキノコイムと相談をする。


「わたしはこのまま、また旅に出るよ。あの冒険者たちとまたばったり出会っちゃうかもしれない。そうでなくても、ここは人間が行ったり来たりしてて、わたしたちは見つかったら、いきなり攻撃されるかもしれない」


 キノコイムは、プルプル震えながら困惑している。


「確かに、また斬りかかられたら、今度も無事かはわからないもんね」


 顔もむにょむにょにしながら迷っている。


「のんびりしてる時にいきなり後ろから斬られたら、さすがにもう死んじゃうよね。でも、あのおっちゃんとこのままバイバイするのはヤダよ」


 ぷよんぷよんと揺れながら煩悶している。


「あ〜、どうしよう、どっちもヤダよ〜」


 さらにピョンピョンと飛び跳ね、体はゴムまりのように弾んでいる。


 悩んでいるところにアドバイスができればいいのだが、こういうのは自分で決断した方がいいだろう。


 どちらを選んだところで、必ず、『思ったようにいかないこと』が出てくる。そのときに、自分で選んでいなければ、その不都合を人のせいにしてしまう。それはお互いにとって不幸だ。


 そういうわけで、わたしはしばらく、キノコイムがバインバインと飛び跳ねるのを眺めて待っていた。


 そうしたら、だんだん様子がおかしい。


 まさかこれはアレでは。


 わたしがそう懸念しはじめたところで、すぐに現実化した。


 揺れているうちにだんだんと、丸から俵型へ変化していった。


 俵型から、さらに、ピーナツの殻のような形になっていく。


 そしてそのまま、


「わー! ふたつになっちゃった!」


 キノコイムは分裂した。


 跳ねて揺れて震えた結果、いきおい、分裂してしまったのだ。


 そんなこともあるのかと、わたしは呆気にとられる思いだ。


 ベージュのスライムはふたり、顔を見合わせている。


「悩みすぎてふたつになっちゃった」


「どっちに行こうか悩みすぎて、ふたつになっちゃった」


「あれ、じゃあ、ふたつとも行けるね?」


「ほんとだ、ふたつとも行けるね」


「じゃあ、おっちゃんのところはわたしが行くね」


「旅に出るのはわたしが行くね」


 それは解決方法になっているのだろうか?


 わたしは疑問に思ったが、当のキノコイムは納得しているのだから野暮は言うまい。


 おっちゃんのところに行くと言ったキノコイムが


「じゃーね! また会おうね!」


 と元気よく、溌剌と、山小屋のある方角へ向かう。


「冒険者のいなくなった頃に、こっそりおっちゃんのとこに戻るよ」


 軽快に、すぐに姿が見えなくなった。


 後顧の憂いなど何もないらしい。


「じゃあ、わたしはチョピと一緒に、旅に出よっと。人間のいない、スライムだけで安心して暮らせる世界を探そうね~」


 こっちのキノコイムは、キリリと決意に溢れた顔をしている。


 そこまでたいそうな目的でもないのだが、わたしは頷いておいた。


「そうだね。スライム王国を作ろう」


 適当に言ってみただけなのだけれど、


「作ろう! 作ろう!」


 とキノコイムは気合いじゅうぶんだ。


「とりあえず、この森は人間の通り道みたいだから、どこかもっと別のところへ移動しないとね」


 行くアテなんてまったくない。


 けれど、世の中には、キラキラ光る水晶がたくさんあるところや、溶岩や強い魔物がたくさんいるところや、想像もつかないようなところもあるだろう。


 スライムは戦闘もからきし、食べても栄養がない、素材にするにしても何もいいものがないと、他の生物からはあまり重宝されない。


 けれど、タフで、暑さ寒さに強く、打撃ならたいてい問題ない。


 きっとどこでだって生きていけるだろう。


 さあ、次はどこに行こうかな。


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