倉庫探索と発見
しようしようと言いつつも後回しにしていた倉庫探索をしたいと思う。
全体を見回した感じでは、異彩を放っているものは特に無かったが、細かく探せば面白いものも見つかるかもしれない。入り口から見て右側から調べていこうと思う。
まずあるのは……擦り切れた縄と錆びついたナイフ。それと……干した……なんだろうこれは?
少なくとも前世で見かけたものにはどれとも似ていない。
色も紫で、食欲は湧きそうにない。そもそも今は湧かない体質だけど。匂いを嗅ぐと、ほんのりと甘酸っぱい匂いがした。
次に見つけたのは紙だ。日本のものとは違い、分厚くて端の方が直線ではない。羊皮紙のようなものだろうか。まあ前世で羊皮紙なんて触ったことも無いから、ただのイメージだけど。
右側一帯はそのようなもので溢れていた。
途中、字が書かれた紙も見かけたが、転生者特典で自動翻訳……なんてこともなく、当然のように読めなかった。ただ、書き方的に右から左へと書く文化ということは分かった。
右側で見つけたもので、特にテンションが上がったのは魔法陣だ。この世界には魔法があるのかもしれない。ただ、中二病というものがこの世界にも存在して、同じように魔法という発想を持った人が書いた可能性も無いわけではないから、確実とは言えない。
ふと気になったけど、この世界に人という種類は存在するのだろうか?
このように魔法陣や建物がある以上、知的生命体がいる、もしくはいたということは分かる。けど、人の形をとっているのかな?かなり不安だけど、杞憂に終わることを願う。
気を取り直して、左半分の探索だ。こっちには何があるのかな?
手始めに、輸血パック?ストローに似た形のものが付いている。吸血鬼のようなものが存在するのかもしれない。
次に、瓶に入った緑色の液体。これは王道ファンタジーで行くならばポーションというか薬だろう。野菜ジュースの可能性がないわけではないけど。
隣に薬草らしきものもあったが、どれも見たことのない形をしていた。インドア派だったし、そんなに植物については知らないから前世にもあったのかもしれない。まあ、同じものがあるというのは考えにくいが。
そして、干し肉がたくさん。一部の干し肉からは饐えた匂いがしてくる。腐ってしまっているのだろう。
これは……岩?岩をどうするのだろうか。投げる用とか?
最後に見つけたのは、キラキラしたモヤが中で渦巻いている玉だ。仮の名前を輝玉としよう。
輝玉はピンク色になったり、薄紫色になったり、水色になったりとソシャゲのガチャの最高レアの確定演出のような色の変化をしている。ソシャゲをしている人には伝わると思う。
玉はガラスのようなものでできていて、モヤを閉じ込めているようだった。大きさはスイカぐらい。
試しに投げてみた。割れた。血の気が引くような錯覚を起こした。
モヤが飛び出し、私の方へ飛んできた。目を瞑りたい所だが、瞬きすらもしない今の体ではそれができない。視覚をオフにするのはできるけど。
モヤが体と触れ合ったらどうなるのかな。ジュワッと溶けるのかな。私の体の方が。
そんな私の想像とは反して、モヤは私の体……ぬいぐるみではなく、本体の火の玉の方に吸い込まれていき、火の玉としての火が大きくなり、核が少し大きくなって視力とか聴力が良くなった……気がする。
つまり、このモヤ……というか玉は、経験値玉ってことかな?
見つけ次第投げる方針で行こう。
これで倉庫は大体見終わったかな。
次は隣の建物を見て行こう。
◆
倉庫は平屋だったが、隣の建物は結構高い。五階以上はありそうだ。
この体はあまりにも目線が低いので、隣の建物の正確な階数は外からは数えられそうにない。
だが、高いのは間違いない。この世界は普通の異世界転生ものよりも文明のレベルが高いのかもしれない。
建物の入り口の上部には、見たことのない字で何かが書かれている。看板だろうか。
入り口は立派な木製で、精緻な細工が彫られているが、少し傷がついている。扉のノブが飴色に輝き、多くの人……なのかとりあえず生物に長い間使われてきたことが伺える。
「この世界には現在も人間が存在するのか」という疑問がこの建物の中に入ることによってわかるかもしれないという事実が私の胸を躍らせる。
……ただ、この異常な光景を見たことでその期待はほぼ消え失せたけど。
『異常な光景』とは、この外を見渡したときの、青々とした一面に広がる草原と建物の間にある球状の薄い膜のようなもののこと。
そしてその薄い膜の内側だけに残った、建物の左側にくっついている家だったであろうものの右半分と、倉庫の右側にくっついている何らかの建物だったであろうものの左半分のこと。
これを見て予想できるのは……この建物の周りにはバリアが貼られていて、それに入らなかったものは何らかによって消えるということだ。
つまり、このバリアを越えると命が危ない。
さらに言えば、ここから見回しても民家のような文化的なものが何一つ見当たらない。
仮に私が時間をかけてこの身体から完全に抜けた火の玉になって、飛んでいったとしても次の身体を燃え尽きる前に見つけるのは厳しいだろう。
心の中でため息をつきながら、私は建物に入った。
ドアノブにぎりぎりジャンプで届いたので、なんとか入れた。
建物の中に入ると、埃の匂いが嗅覚を刺激した。
まだ、まだ人がいる希望はある……!掃除嫌いな人かもしれないし…!
パッと見た感じだと、ここは少なくとも住居ではないみたいだ。
受付とかソファとか掲示板とかがあるしね。
病院……とか、ホテルとか?サービスをする系の施設な気がする。
入口の右の壁には館内案内図みたいなものがあった。
文字が全くわからないけど、ん〜〜この簡単そうな記号が数字の可能性が高いかな、とか推測しながら考えたところ、この建物は8階建てっぽかった。
日本ならそこまで珍しくないけど、コンクリートって感じでもないし……ここは結構重要な施設なのかな?
ここまで探索を進めたのは良いけど、ちょっと眠くなってきた……。
受付のカウンターが気になるけど、一旦寝て探索はまた明日にしようかな。
私は一旦倉庫に戻り、簡易的なベッドを作って寝た。