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転生人形の世直し記  作者: 脱穀事件
魔境からの脱出編
3/13

“私”は今

「彩葉か藍口くんが転生した人を探し出す」という目標を決めた私だが、ここで重大なミスに気が付いた。

あの火の玉兄弟がそうだったらどうしよう……今更もう追いつけないだろう。まあ、ビビッと来るものは特に無かったし、とりあえずは諦めよう。


そして、巨大クマ諸々を見送ったときに分かったが、ここはだだっ広い草原のど真ん中だ。

そして気になったのが、この建物の横にあともう一つ何か建物があったということだ。この倉庫を探索し終わったら見ることにしよう。


私は、この広いであろう世界を旅して彩葉と藍口くんを探すつもりだ。幸い、このぬいぐるみの姿なら特に警戒されないだろうからある程度物を盗ってとんずらしたいところだ。


……しかし。気になることはあった。ここらへんは、生き物の気配がしないのだ。

あの巨大クマが大きな足音を立てて歩き回っても、このような建物を建てそうな、人間や、異世界の定番ならドワーフなどは全く顔を出さなかった。

何なら、野生の生物……鹿みたいなものでさえも見かけない。こんなに広く青々とした草原なのに、だ。

怪しい。いったいここでどんな現象が起こっているのだろうか。


それはさておき、まずは自分の体の現状把握だ。

まず私は、物に憑依して行動する系の何らかに転生しているようだ。できる範囲も調べておきたい。


体を操る感覚はそこまで前世と変わらない。

目線が地面に近く、手足が短いのはかなり違和感があるが、根本的な動かし方は大体は前のままだ。

筋肉や骨の代用品を私の本体の火の玉で綿と接続することで作り出しているような感覚がある。ただ、内臓は無い。本当の内臓がないぞう、になったわけだ。笑えない。


脳や五感については、核で完結しているような気がする。


核は伸ばすことが可能なようで、聴覚を担う部分はぬいぐるみの耳辺りへ、視覚を担う部分はボタンの目辺り……と、違和感がないようになっている。

同じように、嗅覚は鼻辺りだ。触覚だけは核ではなく、代替筋肉が担当している。

オンオフを切り替えられるようで、割と簡単にカチッと変えられる。視覚を高速でカチカチしてると瞬きをしているような気分になる。

とりあえず全部オンにしておく。


味覚は存在している。面白かったのが、例えば味覚を感じる部分を手に伸ばして、床を触ると木と埃の味がする。場所は変えられるということだ。

おそらく他の器官も同じように位置を変えられるのだろう。

これもオンオフは切り替えられる。

口で食べるのはちょっと……縫われた飾り物だし、食べたものを入れ、噛み砕き、飲み込み、溶かし、排出する器官がないので厳しいだろう。核にそんな機能は無さそうだし。

しかし、逆に言えば器官があれば食べ物を食べることはできるだろう。

もっと火の玉が大きくなって、この体に慣れれば作り出すことはできると思う。ただ、綿だと水分に耐えられないから、核で代用するか、耐水の素材を体内に入れるかでなんとかしよう。

美味しいものの味は感じられるだろうから、まあそこまで困ることはないだろう。満腹感を感じられないが、そこまで欲しいものでもない。飢えることも無さそうだし。


体の原動力は、何らかの栄養分を取っている気がする。今この瞬間も、ほんの少しずつ。


あと、痛覚はある。が、五感のようにオンオフが切り替えられるので、とりあえずオフにしておく。痛覚は主に代替筋肉部分がどれだけダメージを受けたかで判断しているようで、布を針で刺しても痛みは感じず、体を殴ると痛かった。布が破れても気づかなさそう。


眠ることはできる。脳の代わりとなっている核が情報を整理する時間として必要なのかもしれない。

視覚をオンにしたままでも眠れたけど、意識を失う感じだから何か見ながら寝る、とかはできなさそう。

ただ、面白かったのは体を半分だけ眠らせる、というのができたこと。

半分だけ視覚オン、とかね。それをかわりばんこにすれば、意識を完全に失うことなく眠れる。

まあ完全に意識失った後起きたときの方が頭はすっきりしてるんだけどね。危険なところで寝ることがあれば使おうかな。

眠気とかは基本的には無い。でも、一週間ぐらい起き続けると寝ろっていう警鐘が鳴る感じかな。


話すことはできない。声帯がないから。肺もないし。

人間の口のように歯も舌もないので、というかそもそも口が存在しないので、喋るのは無理そう。

さっき「ステェータスオォーップゥンッ!」と叫ぼうとしたがだめだった。ちなみにステータスの類は念じても出なかった。

でも、本体を弄って疑似声帯と歯と舌と空洞を作ればできそうではある。

味覚と同様に、もっと火の玉が大きくなれば作りたい。


そして最後に、この憑依のできる範囲についてだ。

まず、この猫のぬいぐるみから抜けてみる。……割とスッと出られたが、本体をぬいぐるみに六割くらい置いてきたみたいな感じがする。

本体を全てこのぬいぐるみから出すことはできないのだろうか……

そのまましばらく考えていると、燃え尽きそうになったからぬいぐるみに入った。

うーむ。入るのもスッといけるし、筋肉や骨の再接続も要らないが、核を伸ばすのにほんの少しだけ時間がかかる。

これから考えるに、パッと出るときは骨や筋肉と本体を接続したままで、核と少しの火の部分が抜け出せるということだろう。

そして全速力で戻るときに気付いたが、火の玉状態だと移動がとても速い。

その代わり、燃え尽きるリスクがある。できる限りぬいぐるみ形態でいた方が良さそうだ。

ただ、本当に移動が速い。秒速50mとかそれくらいかもしれない。


………今試してみて分かったが、綿に通している本体を抜き出して、核付近に集めることができるみたいだ。腕一本接続を切るだけでかなり時間がかかったけど。

やっぱり、本体が染み込んでしまっているので、こし出すのに時間がかかるようだ。

それに、これをすると当然ながら接続を切ったところは動かないし、もう一度接続するのも面倒くさい。

器を乗り換えるときにはこうしなければならないだろうけど、緊急脱出手段にはなり得ないみたいだ。残念。


ここまでの結果を考えるに、私は前世で言う、ゴーレムとゴーストの境目にいるのでは無いだろうか?

私は自分の種族を、『人形族』と名付けた。

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