アルバートの過去
鞠花は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の合法ショタを除かなければならぬと決意した。
……そう、もちろん激怒はしている。彩葉とは大親友、のつもりだし人は信じられないとか言ってるのもなんか苛つくんだけど。
その前に、アルバートを連れて行った場合のメリットが大きいのだ。
アルバートは膨大な魔素を扱えるし、この世界で生きたことがある以上外に出て他の人に会うまでは案内人として側に置いておきたい。という打算的思考もあったりして。
私の目的はあくまでも彩葉と再会すること。それさえできれば良い。
うん。とりあえずアルバートの過去を聞き出そうか。
[あなたは今まで何があったのか]
「なんで死んでほしい相手にそんなこと言わなきゃなんないんだ……冥土の土産ってこと?」
冥土の土産に……とかいう敵大体すぐ死ぬよね。まあそれは置いといてやっぱりなんとなくイラッとくるな。
[なんでもいいから聞かせてほしい]
「……まあ、いいよ」
◆
僕は生まれた瞬間からきっと世界から嫌われていた。
人間にしては珍しい魔肺の異常なほどの能力の高さ。これによって血が青かった。でも、それは魔力が多いという印だから、皆に好かれてもおかしくないことのはずだった。
母や父は、僕のことを可愛がってくれた。しがない農家だったのに、成長の遅さや血の色、魔素過多の症状も支えてくれた。
この、忌々しい白い髪も、青い目も、全て受け入れてくれた。
でも、世界はそれを許してくれなかった。
白髪と青目は、かつてこの世界を襲った神、ルーレロットの髪や目と同じ色であることから、共通の認識として忌避されている。
だから、村にミラルダ様が来られたときも、ルーレロットと死戦を繰り広げたミラルダ様には見るにたえないだろうということで窓から眺めることしかできなかった。
第一の不幸は、この容姿を気に入った物好きの貴族がいたことだ。
貧しい農家だった両親は、いやいやなのか喜んでなのかはわからないけど僕を貴族に売り渡した。村で過ごした時間は8年ほどだったけど、いじめてきた子の名前や顔はよく覚えている。
貴族は僕のことを散々辱めた。痛い目にもたくさんあったし、貴族の機嫌を常に伺わなければならない環境は辛かった。
同じように買い取られた子たちでさえも、僕のことは遠巻きに見るだけだった。味方が誰もいない、四方八方敵だらけだった。
転機が訪れたのは、貴族が僕に飽きたときのことだ。
貴族は僕を外に着の身着のままで放り出した。その後は、色々な物を盗んだり殺したりして飢えをしのいだ。
僕の魔素に寄せられた魔物が多かったせいで、戦闘技術は随分と板についたと思う。
ある日いきなり、森のはずれで寝ていたところをさらわれた。僕はそのとき、まだ5歳程度の容姿だったから軽かったというのもあるだろう。
森で寝たはずなのに、目を覚ましたら脂ぎったおじさんと生真面目そうな青年の間にいた。
二人は僕が起きたことに気付くと、気持ち悪い猫なで声で奴隷がなんだの待遇がなんだのの話をし始めた。
ああ、また僕は売られたんだ、と思った。
意外なことに、売った側がおじさんで、買い取った側が青年だった。
僕を買い取るなんて物好きだなと思った。同時に、こんな顔して幼児趣味か、とも思った。
そうして連れられて買い取られた先は、この研究室だった。
何でも魔素過多の症状を治すための新薬開発に僕のような人が必要だったらしい。
研究されたがるような物好きもおらず、人身売買にも魔素過多なんて貴重な人材は滅多に身を表さない。
僕はこの髪が原因で値段も低く、研究に遠慮も要らないから買い取ったんだとか。
正直、拍子抜けした。
研究では危険な行為をするようなものは時々しかしないと聞いて、どっと安堵した。
今までずっと張っていた気持ちをやっと緩められた。
研究員の人の中にはあからさまに嫌悪感を顔に出す人もいたし、どちらかといえばそういう人が大半だったけど、安定してご飯を食べられて、性的にも精神的にも嫌なことがないだけで十分僕は幸せだった。
ギルド内を自由に歩き回れたのも良かった。まあ、冒険者には殴られたり蹴られたりするからひっそり見ているだけだったけど。……ああ、でもあの冒険者だけは僕にすごく優しくしてくれたな。
研究の中で変な薬を飲むこともあったけど、生きられるってだけで嬉しかった。
それなりに大切にされてるんじゃないかと思っていた。
そんな日々が終わったのは、ミラルダ様がいなくなったときのことだ。
曰く、ミラルダ様がいることを示す石盤が割れた。
曰く、ミラルダ様が作ってくださったからくりが急に動かなくなった。
曰く、ミラルダ様に頂いたペンダントが急に光を失った。
世界中は大混乱に包まれた。ミラルダ様なしにはやっていけないこともたくさんあった。
一番最初に問題になったのは、ミラルダ様が作られたからくりの数々だ。人知の及ばないような仕掛けが施されており、文明レベルが一気に落ちた。
次に問題になったのは、ミラルダ様が食い止めていた魔物の数々だ。
大規模な魔物の群れや規格外魔物などに人々は抵抗できず、いくつもの集落が消えた。
全て冒険者たちの会話を盗み聞いただけだったけど、恐ろしさを感じた。
それでもどこか他人事だったミラルダ様の失踪が身近に迫ってきたのは、外にある建物が地面に食われ始めたときのことだ。
研究員たちの話を盗み聞きした感じだと、隣国のモーマリット国で暴れていた大規模モンスターが、カシェロン国に入ってきたらしい。
なぜこちらに来たのか?答えは簡単。僕だ。
魔物は身体に蓄積した魔素量が多ければ多いほど強い者となる。そして、僕は魔素過多症者の中でも異常と言われるほどの魔素量を誇る。
僕を捕食すれば、魔物としての格は数段上がるだろう。
研究員は、僕を貴重に思っていた研究員でさえも、満場一致で僕を置いていくことを決断した。
今張られている結界も元はと言えば僕が張ったものだ。最初はもっと広く、魔物がいるところからいないところの境目まで結界があった。
それを使って人々は避難したらしい。
僕は生きたかった。いや、生きたかったというより死にたくなかったというべきか。
でも、研究員達は僕を縄で巻いて国境に近い方角の結界ぎりぎりに放置した。国としては早く魔物に僕を食べさせて他の国に行ってほしかったんだろう。
そこで助けてくれたのが、例の僕に優しかった冒険者だ。彼は魔力があまり強くなく、冒険者としてはかなり弱い部類だった。
「おい、お前。今これ解いてやるからさっさと逃げろよ。これお前が張ったんだろ?んじゃ、あそこのギルドで粘って粘って、もう一回結界張ったりしてろ。食料も街全部のかき集めりゃ余裕なはずだ」
「……でも、待ったところであいつ消えないし」
「俺があいつのこと倒せるくらいになってくるからよ、お前はただ粘ってろ……ほら、これ保存の魔法の呪文。俺はあんま使いこなせなかったけど、お前ならいけるだろ?これで飯食えるようにしとけよ」
「ありがと……じゃなくて、あいつを、倒す?無理だよそんなの」
「確かに今は無理だ。だから鍛えて戻ってくるんだよ。とにかくお前は……」
「粘ってろ、ってこと?……まあ、検討くらいはしてみる……あ、お仲間が呼んでるみたいだよ」
「おう!じゃあお前よろしくなー!」
そうして彼と別れ、僕はここに引きこもり始めた。
でも、彼は20年経ってもここに来る気配がない。
……死んだのだろうか。別に、期待なんかしてなかったけど。
ただ、保存の呪文は役に立ってるし、少なくともそれが尽きるまでは嫌なものがたくさんある外には出たくない。
頑張れば自分の周りだけに結界を出現させられるけど、それをしてないのはこれが一つの理由。
……これで満足した?
ストック尽きました




