気象衛星ひまわりは、ただ黙々と仕事をこなす
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品。
チョイステーマ「ひまわり」
気象衛星ひまわり。
世界気象監視計画の一環として宇宙からの気象観測を目的に東経140度の静止軌道上に配置された日本の人工衛星。この衛星から送られる地球雲画像の観測データは、テレビ、新聞等の天気予報を始め、さまざまな分野で利用され、日常生活にもなじみ深いものとなっている。
現在の運用はひまわり8号。待機している9号もじきに運用開始するはず。
昼間、地上にいる人間の目には見えない人工衛星。
けれど人工衛星からは地上が見える。
空の高いところから、地上にいる我々のため雲の行方を追っている。人知れず、ただ黙々と仕事をこなす。
葵は空を見上げ溜息をついた。肉眼では見えないけれど、気象衛星がいるはずの空。
「もう疲れちゃったな」
同期入社で婚約者の衛が、インターンのバイトちゃんと浮気をしている。ホテルから出てくる二人の姿を偶然見たし、多数人に目撃されてもいる。
部署の全員が葵の顔色を窺った。当然だ。葵と衛の仲は周知だったのだから。
そして衛は自分の浮気が気付かれているとは思っていないらしい。夕飯メニューの催促LINEがくる。バカだ。
婚約者だから、彼のために便宜を図ってきた。
そっと彼のミスをフォローしてきた。
好きだったから、尽くすのは当然だと思っていた。
どうやら甘やかし過ぎたらしい。
葵は婚約指輪を返し、婚約解消を言い渡した。衛もこんな小賢しい女なんて捨て時だと思ったのかもしれない。
ほんのちょっとゴネられただけで、和解金という名目の手切れ金で手を打った。
葵は婚約解消後、本社へ人事異動を願い出た。気象衛星のようにじっとその場に留まり、彼の面倒を見続けるのはもう御免だと思ったから。
葵の申請は受理された。だが最果て支社へ異動になったのは衛だった。
本社の人事部長は葵の突然の申し出に驚いたようで、どうしてこうなったのかを密かに調べたらしい。そして葵と衛の日頃の勤務状況と業務成績を比べた結果、プロジェクトリーダーである葵を残すメリットを取ったらしい。
日頃たいした結果も出さず部署内の風紀を乱した衛を異動させたのだ。
日々黙々と仕事を熟していただけなのに、自分の不在を惜しんでくれる人がいるのかと、嬉しくなった。
遠い処からでもちゃんと自分を評価してくれた目に感謝した。
気象衛星ひまわり(初代)は後続機へ業務を引き継いだあと、墓場軌道へ離脱し停波しました。
本社の人事部長がヤングエグゼクティブで葵にちょっかいかけに来たら、レディコミ展開になるのかしら。