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作者: にお

*この作品は習作のために書いたものです。深い意味はないので軽い気持ちでお読みください。


 遠方の友より紅葉狩りに誘われた私は政府が発行している旅割クーポンを使い、新幹線を乗り継ぎながら長野で降り、旅行会社が企画したバスツアーに参加していた。


 バスはゆっくりと一般道を進み、団体客の騒ぎ声が車内の雰囲気を明るくしている。


 聞こえている声はどれも標準語で西日本から来た私には時折聞こえてくる違和感あるイントネーションが頭の中に残る。


 少し疎外感を覚えた私は気を紛らわせようと下ろしていたブラインドをあげると、遥か遠くに見える山々に釘付けとなった。


 どの山もまだ10月だというのに山頂から少しくだった斜面まで白く染まり、万葉集の一歌の中に綴られた一節を思い出す。


 まさしく白妙の衣と呼ぶに相応しく絶えず続く雪冠に言葉を失ってしまう。


 私の住む県には標高2000メートルを超える山は存在せず、同じく雪化粧したとしてもそれは霜によるもので降雪によって起こることは皆無である。


 たとえ積雪したとてたかだか2cmそこいらが限度で、晴れた次の日には必ず路上から姿を消してしまっている。


「何を見ていらっしゃいますか?」


 唐突なバスツアーのガイドの声に私は一瞬、体をこわばらせた。


 片手で持っていた熱い茶を一度置き、恥ずかしいわけではないが顔は窓から外さず、山達を指差す。


「山を、ちょっとね」


「山?山ですか」


「そうです。随分と高い山だなあと思って。しかも雪が積もってる」


「ああ。飛騨山脈ですか。今年も例年通り雪が降ったみたいですね」


「あっあれが飛騨山脈っていうんですか。名前は聞いたことあったけど。へぇー」


「失礼ですが、お客様はどちらからいらしたんですか?」


「ええと、西日本から来ました」


「それはまたザックリと」


 ガイドは面白がって小さく笑う。


「そうですね。でしたら、驚かれるのは無理もないですね」


「ええ全く。だってまだ10月ですよ」


「でもこの景色が私達には普通のことなんですよ。1年を巡る節目の1つと言うべきでしょうか。どこか落ち着くとでも言いましょうか」


 私と同様に感慨深そうに山々を見つめていたガイドであったが、別の乗客が手をあげたため、一礼した後すぐに離れていった。


 改めて飛騨山脈を見直すと、山肌かと思われていた部分が実際には別の山脈の稜線であることに気づいた。


 スマホのカメラを使い、ズームして拡大していくとやはりそのとおりで一回り小さいがそれでも2000メートル超えの山脈であることには違いない。


 さすがに今の時期に雪を被るほどの標高ではないのだろうが、直に冬になった時にはあの山達も雪化粧をするのだろう。


 紅葉狩りに誘われた私だったが、今からでもできるかぎり近い場所から眺めてみたい、そんな気持ちにさせてくれる自然の雄大さに目ばかりではなく心も奪われる瞬間であった。

お読みいただき、ありがとうございました。



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