鏡よ鏡。かっこいい私はどっち?
「あははは〜、マジうける〜」
女友達と教室で車座になって話し合う。美優と彩と咲は私の架け替えのない友達だ。帰りに流行が過ぎたタピオカを飲んで、家へ帰宅。
自分の部屋に慌てて走って、鏡を見る。
「女を演じる私じゃなくて、貴方がいい」
鏡に映っているのはセーラー服を着ている私じゃなくて、化粧をしている私じゃなくて、長髪の私じゃなくて、学ランで短髪で凛々しい顔の私が立っている。
「貴方になりたい。貴方のようにカッコイイ男になりたい」
私の心はいつまでも男に憧れている。親に相談したら病気だと精神科に連れていかれた。誰も私を分かってくれない。
私は右手を鏡に近づけた。
爪は長くなくて、手の甲は荒れている。男らしい。
顔を近づけた。眉は濃くて、太くて、頬にニキビ。なんて男らしい。
髪を触ってみた。私の髪のようにサラサラしてなくて、つんつんしてゴワゴワしている。男らしい。
腰を触ってみた。私の腰は肉付きはなく、クビレができているのに鏡の私にはクビレなんかなさそうだ。
——男になりたい。貴方のような男らしい
「ぁぁぁああああ!」
高い声じゃなくて、低い声にしたい叫び。焼かれる喉をもっと強くしたい。
床に蹲ると邪魔をするこの乳を剥ぎ取りたい。
「私は何者にもなれないんだ」
私は鏡の私になりたい。鏡の私はどんなに自由なんだろう。私の足枷を全て壊し尽くした私はどんな顔をしてるんだろう。
「俺は俺だろ」
男らしい声が耳を掠める。家には誰もいない、男の人なんていないはず。
「貴方……なの?」
上半身を手を使って起こして、鏡を見る。女座りをしている私じゃない、胡座をかいてはにかんでいる私が口を動かす。
「俺は自由だろ。誰に縛り付けられた? 誰に首を絞められている? お前のここはもう声に出てるだろ」
私は胸を右拳で叩き、拳を私に向ける。
「誰かは分かってくれる。人を信じろ。俺を俺で苦しめるな」
私は「分かってくれないよ」と吐息のように言葉を吐き出すと、私は「なーに馬鹿なことを言っているんだよ」と優しい笑みで応える。
「お前の友達は? 相談所は? 同類は? 沢山、お前の声が届く奴はいる」
——だって俺に届いたんだ。お前の声が
ゴツゴツな手で私の心を撫でてくれた気がした。再び鏡を見ると、私が写っていた。女の子の私が。
「声は届く……か……」
誰かに言ってみよう。届かなかったら違う人を探そう。
私が届いたと言ってくれたんだから。私に恥じぬような、かっこいい人になるんだ。
この話は中々、大変な事だと思います。世間が否定することを打ち明けるなんて苦しいですよ。
でも、自分にだけは嘘をついたら終わりですよ。誰もが味方じゃなくなる。そんなの苦しいだけですよ。苦しくてもそれを隠している人は沢山いる。まずは苦しい理由を自分に打ち明けて、他の人に打ち明けましょう。
世の中は本当にオワッテルので、共に頑張りましょう