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8・世界の隅を求めて

自分は、すみっこと、はしっこでは、すみっこのほうが、だんぜんすきです。

一つの島、ひとつの湖しかない世界には、どうでもいい悩みがある。


湖の中心に島があるのか、島の中心に湖があるのか。

それは、学者の間では、永遠のテーマであり、長い間論争になっている。


使用している地図に関して言えば、多くの人は島の形が分かる『湖の中心に島がある地図』を主に使っている。

船乗りは、一生のほとんどを湖の上で過ごしているだから、彼らからすれば、湖が中心なので、

湖を航海する人は湖の形が分かる『島の中心に湖がある地図』を主に使っている。


実際のところ、湖と陸どちらが地図の『地の部分』になるのか論争は、

学者くらいしか気にしていない、そういった感じではある。


「地図では、どこが世界の隅か分からないね」

船の客室で、3人の兄弟が、2枚の世界地図を広げて、議論している。

今朝、船に乗ってきた兄弟たちだ。


本当は、4人兄弟なのだが、四男だけは村に残り、船には乗らなかった。いわゆる、留守番らしい。

この兄弟は、決して仲が悪いとか、四男にだけ意地悪でとか、四男が難しい年頃と言うことではなく、

本当に、仲がとても良い兄弟で、船着場で、四男と別れるときも、

「お前も、来れば良いのに」と、兄である3人は、最後まで、一緒の船旅を勧めていた。


長男、次男、三男が旅立ち、四男が残った理由は、兄弟のある共通の価値観、そして今回の旅の目的に由来する。

この兄弟は、それぞれ、理想の『すみっこ』と言うものを持っていて、

各自の理想の隅を求めて旅に出かけるらしいのだ。

「すばらしいすみっこが見つかると良いね。家の事は心配ないから。いってらっしゃい、兄さんたち」

四男は、そう言って、笑顔で、兄たちを見送っていた。



「……落ち着いて、静かで……誰にも気にされない……なにもないすみっこ……すみっこ……」

そんな理想を持つ長男は、モイで降りた。

あまり、人付き合いが得意ではない長男は、にぎやかな商店街には、見向きもしない。

商店街の外れ、人のあまりこない静かな倉庫の空間。

ひとつの空き倉庫の隅に、長男は惹かれた。

長男は、数個のタルと寝床となる絨毯を一枚だけ購入し、倉庫の隅に敷く。

「……ここは、いい……」

タルと絨毯と自分以外何もない倉庫、自分の世界。

長男の隅は、こうして無事に見つかったのだ。



「大自然の中のすみっこぉぉぉお」

そう叫び次男は、湖に飛び込んだ。どうやら、岸に丁度良い洞窟を見つけたらしい。

「何も飛び込まなくても……」

湖賊の少年はつぶやいたが、それだけ、隅に対して、情熱を持っているのだろう。

次男はその洞窟の隅を拠点に、大自然の中のちょっとした隅を見つけてはその隅に座っているらしい。

……という、風の噂を聞いた。



「すみっこにいながら、移動できる方法。それは船の中にある!」

そう言って、三男は船の隅っこに居座った。

日よって、時間によって、いる場所は変わるのだが、いつも隅にいる。

いつの間に移動しているのか、誰にも分からない。

誰の迷惑になるわけではないので、放置気味だ。



隅を愛する兄弟たち。彼らの旅は、隅を見つけることだけで終わらなかった。

兄弟の絆を利用した、新たな産業、流通ができたのだ。



次男は洞窟の片隅で、様々なきのこを栽培しているらしい。時々、立派に育ったきのこが、船にいる三男宛に届く。

そして、三男は届くきのこを長男のもとに運んでいる。

長男は、三男が運んだきのこを乾燥させたり、煮込んだり、そうしたモノを、モイの片隅で作っている。

長男が加工したものを、やはり船にいる三男に届け、加工品は四男のもとへ。

長男の加工するきのこは、すばらしくおいしいので、四男はヤチボカ村の自宅に小さな店を開き、

珍味『隅のきのこ』として、売っているのだ。

今ではちょっとした名物になっている。


みんな、それぞれ、理想の隅と言うヤツを満喫しているようだった。


時々届く兄たちの愛情がこもったきのこの加工品を見ながら、村の家にひとり残った四男はつぶやいた。

「四角い部屋には、4つしか隅はない。ぼくら4人兄弟、丁度四隅に納まる。ぼくは、みんなが元気でいれば、それでいい」


部屋の四隅のうちひとつに立ち、恍惚と他のすみっこを見る。

「やっぱり、我が家のすみっこが、一番……」


世界の隅っこは、自分の家。


ここが全て。はじまりとおわり。それがすみっこ。



★魚の日記「すみっこちゃん」★

すみのひとたちは すみっこにいるよーん

すばらしい すみっこをもとめているよーん

すたこらさっさと すみかをでて

すみをさがして すきなようにたびだったよーん

すみっこって すてきなものなのかよーん?


この世界の形は、球体なのか、平面なのか、ドーナッツ型なのか、

それとも、なにか不思議な次元に浮かんでいるのか。


この世界の、ありえる形は、球体の中にあること。

それは、球体の外側にあるのではなく、球体の内側に湖と島がある形。

そうすれば、どこにいても、湖が見え、船も見えます。

球体の中心に、何か明るいものがあります。それがきっとこの世界の太陽なのでしょう。


これなら、酒場が地下街にある理由もなんとなく分かります。

きっと夜がないのでしょう、この世界には。

……海だけではなく、夜や月もない世界になってしまった。


なんか、色々中心にたまりそう。地面の土を掘っていったら、外(宇宙?)に出てしまうのか。

中心の太陽はどうやって浮いているのか、まだ謎の残る世界。

そう考えると、世界の形って、不思議です。

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