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6・巨大なしゃもじは空をとぶ

意味不明の極み(?)の話。

しゃもじが空を飛ぶこと。誰にも理解されなくても良い。自分はそう云うのが好きなんから!

……でも、半年位したら、自分も、理解できなくなるかも。

一時の、ハイテンションのなせる恐怖…

農村ヤチボカには、温泉がある。

夜の街モイで酒を飲むのもいいが、疲れを取るのは、広く温かいお風呂が一番。


村に湧く温泉は、温度が高く、入るには熱すぎるが、水では薄めない。

適温にするために温泉を湯棒でかきまわす湯もみをしている。


湯もみは、重労働なのだが、村の娘たちが主に携わっている仕事だ。

これが名物の一つで、これのために、毎日温泉に来ている人もいるくらいなのだ。



村の広場で、その湯もみの娘が困っていた。

お節介の少年は、見てみぬ振りができない。彼女に近づき、話しかける。


「あ、何でも屋さん?大きな木の棒を持った子供たち見ませんでした?」


どうやら、仕事で使う大切な湯もみのための道具『湯棒』を、いたずらっ子が持っていってしまったらしい。

モップのときと言い、今回の湯棒と言い、子供たちは棒が好きらしい。


冗談はさておき、少年は一緒に探すことした。



結局、いたずらっ子は、捕まえられなかったのだが、湯棒の所在は分かった。

村の外れにある樹の下に、それはあった。


「それにしても、なんでこんなことに?」


二人は、今、そのご神木の前にいる。この大木は、神の宿るご神木として、親しまれている。

木の棒らしいものが、その樹の根元の地面に刺さっていたのだ……


「ああ……」

無残な姿の湯棒を、一刻も早く救い出さなくては!


しかし、抜こうとしたのだが、どうも、不思議な力が働いていて、無理そうだ。

「なんでぬけないの!」

二人がかりで、がんばっても、巨大なしゃも……いや、湯棒は動こうとしない。

湖賊の少年は、前から思っていたのだが、湯棒とは言うものの巨大なしゃもじにしか見えなかった。

巨大な樹の下の巨大な……


「……そのしゃもじのような物は、大地に根付き、力を得ている。人の手で、抜くことは、もう、できないよ」

背後から声がする。

いつの間にか、白い服を着た人物が立っていた。しゅりるり、だ。

しゅりるりは、村に住んでいない種類の人間で、たまに村にいるのを見かける程度。

どこら辺に住んでいたのか尋ねても、要領を得ないし、謎が多い人なのである。

しかも、神出鬼没。船で会うことはあまりないので、きっと陸地を移動しているのだろう。


「しゅりさん?いつの間に」


もはや、いやな予感しかしない。

しゅりるりが現れること、それは、何かが起こる前触れ。

それ自身が天災、いや、人災のようなもの。

いつも、何か変な、不可解でおかしな雰囲気を引き連れてくるのだ。


「ここに奉られている大木は、大地を支える封印木(シギラリア)。この土地は、神聖な力に満ちている。今はこのしゃもじにも、その力の一部が流れているんだよ……」


突然、しゅりるりは、大地にひざをつき、称える祈りをささげる。


「月の引力(グラビテーション)が弱まる時、上弦の月に封印木は芽生える。次の満月には月の魔力を蓄え、下弦の月に記憶を残し、新月の夜に息絶える」

なにやら、呪術のような呪文のような文言を唱え、即興で、簡潔な儀式をはじめている。


「あぁ、なにをしているんですか?」

湯もみの娘は、急なしゅりるりの行動に戸惑う。

無理もない。

しゅりるりに会う人は、全て等しく、みんながみんな、奇人変人な行動に振り回される。

この、しゅりるり、と言う人に、会った人は、大抵、永遠に忘れられないかなり常識逸脱な印象が記憶に残るのだ。


「せっかくだから、崇め奉ってみようかと♪まぁ、適当に、だけれどね」

そういうと、再び、深々と、大地に跪き、同じような呪文を唱えるのでした。


特に何が起きるわけではないが、異様な雰囲気には、包まれる。


「みんなも、やろうよ?」

しゅりるりは、誘うが、やはり、誰も加わろうとはしなかった。




しかし、

そのとき、奇跡は起きたのです……




カミナリの煌きの様な、辺り全てを照らし出す光の強さが、一瞬。


「なんだ、なんだ?」


しゃもじが、ゆっくり回転し、あれほど固くしっかりと埋まっていた地面から、いとも簡単に脱出し始める。

地面から、完全に出たところで、回転が止まる。

ぐらぐら揺れて、このまま、重力に任せて、地面に倒れこむのかと思いきや、ゆっくりと浮かび始める。


目の高さ、身長よりも高く、徐々に、そして、やがて、樹と同じ高さに。強大なしゃもじは、浮かんでいる。


しばらくその空中に停滞する。

見上げる3人。今起きている現象に対し、どうすることもできない。


3人を見下ろすしゃもじは、見送りに感謝するかのように一回、ゆらりと大きく揺れると、淡い光に包まれ、螺旋の残像を残し消え去った。

そう、しゃもじは、遠いところへ、飛び立ったのだ。



「あぁ、びっくりしたねぇ♪」

まるで、予想外のことが起きたかのように、しゅりるりは言う。

それは、こちらの台詞である。


「それにしても、すばらしい。大地の力を借りて、進化したしゃもじ。……もう戻ってはこないだろう。あのしゃもじはもう、自由なのだから」

しゅりるりは、一人感嘆としている。


湖賊の少年と湯もみの娘は、今起きた出来事についていけない。


「そうだ、しゃもじがないと、困るよね?『こんなこともあろうかと』準備していたものがあったんだ」

どこからともなく現れた、巨大なしゃもじが、何の前触れも無く、しゅりるりの手の中にある。


「これはご神木に似た樹『封印木もどき』で作ったしゃもじ♪湯もみの娘さんにはこれをあげよう」


何はともあれ、湯もみの娘は、巨大しゃもじを手に入れた!


湯もみの娘は、何を、どう突っ込んだらいいのか分からなかった。

「……だから……あれは、しゃもじではなくて……」



★魚の日記「でも、やっぱり、しゃもじ?」★

じゅうたん ほうき ふうせん ききゅう

そらをとぶものは ゆめいっぱいだよーん

そらをとぶのは ゆめだけど

でも やっぱり

しゃもじは そらを とばないと おもうよーん


挿絵(By みてみん)

封印木シギラリア

高さは40メートル近くにもなる大変巨大な樹なのです。

実は、石炭紀後期に栄えたシダ植物で、世界の主要な石炭の根源植物のひとつ。

そう、今使われている石炭は、封印木なのかもしれないのです!

ちなみに、封印木は、名前の響きが好きなので、そういう意味でも、使いました。

どうでもいいことですが。


しゅりるりは、「くるくる編」の主人公です。

出すか出さないか迷い、結局出すことに。だって、使いやすいんだもの。

どこにいてもおかしくないし。いや、どこにいても、おかしなことになるけれど。

興味があったら、「くるくる編」も読んでみてね(これは、宣伝)

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