最終海・湖の海の舟
「変わった匂いのするところだね」
ここは、ほんのり潮の香りがした。
1つの湖と1つの島と1つの船。
それが、この世界の全て。
あの世界は「箱の中」のようだった。
いや、本当に箱の中だった。
今まで、どれくらい水の中をさまよっただろう。
古代の遺産「ほしのうみの船」の着いた先。
そこに何があると言うのか?
船の中は、守られているとはいえ、きしみ続ける船内の生活は、不安だらけであった。
7日ほど、経ったころだろうか、何かが去ったような気配を感じた。
外は静かになり、空にかかっていた雲も散っていた。
そう、風がやみ、雨が上がったのだ。
そして、巨大な船の甲板に出てみて、感動するのである。
久々の外の空気に、そして、広い空に、広い大地に。
太陽の沈みかけた空は、ほんやりと赤くにじみ始めている。
昼と夜の狭間に渦巻く風は、草原を流れ、海原を駆ける。
樹々のざわめきと、草木の包み込むような香りが、髪を撫でていく。
それは、光と闇が交替する時間の訪れ。
本来あるべき姿。
毎日のように繰り返されていた。
これからも、ずっと、繰り返すだろう。
閉ざされた箱の蓋は、開かれたのだ。
管理された小さな湖、一つの島は、もうない。
人ならざる者の管理する小さな楽園を離れ、
これからは、自分たちで生きていかなくてはならない。
手に入れたのだから、本物の空を、
手に入れたのだから、本物の闇を、
手に入れたのだから、本物の海を、
そして、
本物の海の果て、海の境界、『海界』を。
広い自由に満ちたこの星で。
もう、湖賊では無い少年の冒険は、はじまったばかり。
空には、大きくて綺麗な『光』が浮かび、その旅路をいつまでも見守っている。
この広い空の下、宙に浮かぶあの星が見守る中、海の上を旅した話をしよう。
そして……
小さな帆船に乗り、
世界に広がる、
母なる海、
ハルカナル ウナサカに
旅立った……
★魚の日記「おおうなばら」★
日記は、白紙だ。
これから、書き加えられていくのだろう。
この広い空の下、
宙に浮かぶあの星が見守る中、
海の上を旅した話で……