17・ウナサカ、海の果てへ。
……この湖唯一の船には、日々たくさんの人が訪れていた。
船の上で、魚を釣る人。
村と街を行き来する人。
湖賊に依頼をする人。
そして、この船が行くところ、何かがいつも起きていた。
それが、日常。
普通の日常の風景。
もうすぐ、それも、見ることができなくなる。
それが、日常ではなくなってしまう。
「そろそろ、出発の時間だ」
アラクは、そう告げる。
「その船は、一方通行。振り向いてはいけない。過去の過ちを繰り返してはいけないという、
先人からのメッセージがこめられている」
「はい」
湖族の少年は、力強く答えた。
「実は、数人しか乗れない小さな船もある。住人が望めば、数人ならば、あの星に運ぶことは可能だろう。
しかし、旅立った者、残った者、これからは別々に生きていく……その決心が大切だ」
「はい!」
さらに、強く返事をする。
「何でも屋さん♪」
そこへ、しゅりるりが近づいてくる。
「君の帆船も、積んでおいたよ。使い慣れた船だ、向こうでも役に立つでしょ♪」
そして、少年に一冊の本を手渡した。
「調べられた範囲だけれど、あの星の危険なキノコとか、恐ろしい動物とか、
なんかそんなの書いたよ。暇だったから。役に立つかは分からないけれど、餞別にね」
あえて、危険なものしか書いていないところが、しゅりるりらしい。
「それから、アラクにテースキラ。最後の大仕事、がんばってね。見ているから」
そして、それを見届けた後は、きっと別れも告げずに、『どこか』へ行くのだろう。
それを、アラクもテースキラもよく知っている。
「これだから、自由気ままな神出鬼没は……」
移り住む人々と動物たちが、船に乗り込んだのを確認するとアラクとテースキラは、
ご神木の前で儀式を始める。
それは、天と地をつなげる儀式。
聖なる書に刻まれた文字を基に構築された、魔法の原理。
閉ざされた世界を開き、新たな地に接続する呪文。
その全てを、解除する。
「瞳は、光。光の彼方は海。海の彼方は、生み。海は彼方に導き、生みは路を開く。
恵みは海の波のように、生みは砂の粒のように、」
テースキラが、開放する言霊を発言する。
「私の左手には地の恵み、地の基、地の球。私の右手には天の恵み、天の礎、天の球。
私は、消滅と復元を繰り返す光の影。求めるモノは、海。呼び出すものは、生み」
同時にアラクも、呪文を唱える。
「うみの世界は、黎明に終わり、逢魔ヶ時に再び始まる……」
二つの言葉が、文字となり、重なり逢う。
小さな世界は、震えた。
白銀の神鳴の稲妻が、龍のごとく暗黒を翔け、落ちる。
黒い雲が二つに裂け、空間は捻じ曲がる。
外と中。
空と湖。
世界の境界が揺らぐ。
海の境、ウナサカの扉が開かれる。
閉ざされた世界から、水があふれ出し、道を作る。
現れたこの水流に乗って、
あの子たちが、
あの船が、
無事にあの青い星に着水するのを見届ける。
「これからは、我々の手から、開放され自由。再びここへ戻らぬよう、繰り返す歴史にならぬよう、
願うばかりだ」
「そうだね、」
船が、あの星についてしまえば、再びココを閉じなくてはならない。
全ての水をあの星に流すには多すぎるし、まだこの場所に住む人は、いるのだ。
世界を閉じる呪文を発動させ、その全ての仕事は終える。
あとは、なるがままの空の船。
いずれ、何もしなくとも、この楽園は遠くに旅立つであろう。
それが何万年、何億年後になるのか分からない。
しかし、すでに星の重力圏から開放されつつある殻の箱なのだ。
仕事を終えて、何事もなかったかのように、自分の住処へ戻っていく。
これからもずっと、今までのように、何百年、何千年と生きていくのだ。
これからも、何一つ変わらぬ、孤独になっていく場所で、日々をずっと過ごしていく。
それを苦痛に思う感情、寂しさを感じる心は、もうすでにない。
そんなことよりも、この日のために、ずっと働いてきた身体は疲れ、休息を求めている。
癒すため、長い長い眠りを。
何も無い無機物な部屋の中、彼は寝床代わりの硬い椅子に座る。
この星は毎年数cmずつ離れていくだろう。
目で見て分からないが、今も、確実にあの星は、離れていっている。
宇宙船としての役目を終えた星の船。
あの船はあと何億年か後には、地球の元を離れ、またどこかへ旅立ってしまう。
その時、この船の中身は、どうなっているのだろう……
再び、星の宇宙船に乗って、宇宙のうみを旅し、移住先を探さなくてはいけないほど、この星が死に絶えて……
あの船の中身は、再び逃れた生命であふれているのか……
この星のうみを渡る船が再び目覚める事がないよう、祈るばかりだ……
そして、その瞳を閉じた。
それは、久しぶりの休息であった。
★魚の日記「ゆらゆら」★
きょうも ふねは ゆらゆらゆれているよーん
はぐるまは くるくるまわって めがまわるよーん
そんな すてきな はぐるまは きょうも まわるよーん
うんめいってやつに みをかませて まわっているよーん
あちらこちら せかいを かけまくるよーん
いくら おふねのなかを さがしても
あの さんにんの かみさまたち みつからなかったよーん
どこか いっちゃったよーん
かみさまは もう とおい ところに いるらしいよーん
せかいには もう かみさまは いないけれど
みんなが いるから きっと うまくやっていけるよーん
★次回予告風★
「巨大な大いなる水の源が、ことごとく張り裂け、天の水門が開いた 」
- 創世記7章11節-
1つの湖と1つの島と1つの船。
それが、この世界の全て。
この世界は「箱の中」のようだった。
いや、本当に箱の中だった。
古代の遺産「ほしのうみの船」の着いた先。
そこに何があると言うのか?
広い世界を求めて、海を求めて……
少年は、今旅立つ!!
「みずうみのうみの船-ぷかぷか編-」最終海『湖の海の舟』
「見てくれないと、いやだよーん!」
なんか、それっぽく書いてみた。
中身はイマイチでも、次回予告は面白そうだ、と思わせてナンボw
(映画と同じだネw;)