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13-1・ 霧の生まれる森

今回から、少しSF風。

SFって、大風呂敷を開きすぎて、収集がつかなくなりやすい。

色々捨てては、復活し……

あぁ、でも、まだ、広げた風呂敷は広いかもしれない。

でも、拾うぞ。最終回までには、風呂敷の中身を。ちゃんと。

湖の周り、つまり島の湖岸を1周するのに必要な時間は、

充分な睡眠時間や休憩時間も含めても、徒歩で30日もかかからない。

帆船や乗用動物といった乗り物を使えば、疲れずにもっと早く移動することができる。


大抵の村人は村の近くで漁をするための小舟を持っているが、

あえて舟で湖1周する奇人は、あまりいない。

手漕ぎの小舟は、下手をすると、徒歩よりもかかってしまうのだ。

だから、1周とまでいかなくても、舟で対岸へ行くことも稀でなのである。

それに舟で渡ろうとすると、巨大な怪物の縄張りに入ってしまい、襲われてしまうことがあるのだ。

(……という、噂があるが、実際に、襲われたと言う事実は今まで一切ない)


噂によると、怪物は帆船の船長が飼っているという噂もある。

村人たちが湖を自分たちの舟で渡ると、船賃が稼げなくなるから怪物を使って、

自分の船以外、渡れなくしているのだと。


しかし、実際のところ、この怪物の正体は、現実に存在する生物ではなくて、

湖の真っ只中で力尽きて遭難しないため、無理してはいけないと、

無謀な行為を諫めるモノ(主に好奇心と探検心に満ちた子供たちに向けて)というのを、

みんな知っている。


そして、ほとんどの場合、舟で対岸まで、漕ぐのが疲れるし、帆船を使えば、

一番離れている対岸でも、1日もあれば、どんなに遅くても着いてしまう。

安全安心に、そして楽に、湖を渡るために、この世界に住んでいる人間は、

風で帆走る(はしる)帆船を使っているのだ。



今日も、湖岸に狼煙が上がっている。

狼煙は、湖に浮かぶ船を呼ぶためのものなのだ。


「船長!のろしが上がっています」

見張りの船員が、見張り台から報告する。

「分かった!今から、そこへ向かおう」

少年船長は、指示を出す。

「方角は……モイだね」


モイ地下街の船着場に長身の人が立っている。それは、復元屋のアラクだった。

「アラクさん、めずらしいですね」

「あぁ、たまには、ね」

眼の下にクマを携え、相変わらず眠そうな眼が、空を見上げている。


「まだ、ちょっと、太陽がご機嫌ななめで、寒い日が続いているな」

「そうですね、毎日こう寒いと、朝起きるのが大変で」

そう、今年の冬は例年に比べると少し長かった。

もうそろそろ、温かくなっても言い頃なのに。


「しかし、もう少しで、太陽は復活して、温かくなるだろう」

「本当に、春が待ち遠しいですよね」

まさか、アラクが、天気の話をしてくるとは思わなかった。

こういう、ありきたりな会話はしなさそうな雰囲気の持ち主だから。


「それはそうと、向こうへ」

雑談もそこそこに、アラクは、行き先を指差した。

指差された先には、確か……

「霧の森?」

「そう、そこまで、お願いできるかな」


霧の森と言ったら、テースキラの住んでいる場所だ。

「テースキラさんに、会いに行くのですか?」

アラクとテースキラは、友人だということを少年は思い出した。

「まぁ、そうだな」


「テースキラさんの所に……いや、霧の森に、僕もついて行って良いですか?」

霧の森は、何も無いといわれているが、謎多きこの世界の未開の地。

そこへ行くと言うので、好奇心が沸き起こったのだ。

「……あぁ、構わない。あんまり、他人に見せるような場所ではないけれど……」



霧の森は、いつも白い霧に包まれている。

夏は緑の草原の中に、冬は茶色の大地の中に、いつ、どこから見ても、

白い靄がかかっているのが分かるくらいに。



「来る頃だと思ったよ。そろそろ、」

森の手前の湖岸で、テースキラは、立っていた。

テースキラは、アラクがくることを分かっていたようだ。


「テースキラさん、おひさしぶりです」

森の近くの岸に船を着ける。

「迷惑をかけたね。この前は、」

子供特有の高い声が、唇から漏れる。


「こけー、こけー、くるっぽー、」とテースキラの頭の上の雛子(ひよこ)も、挨拶代わりに歌う。

だいぶ成長したようだが、相変わらずどこか違和感のある雛である。


「さぁ、そろそろ行こうか、ボクから、あまり離れないで。霧に惑わされるから、」

テースキラは、先頭に立ち、森へ向かう。


本来ならば、森の霧は深く、手を伸ばしたくらいの狭い範囲しか見えない。

だから、方向を見失い、ひどく迷う森なのだ。

しかし、テースキラの進む道は、霧が周りを避けていくかのように、先が見える。

「この森は、ボクが認めたものしか、真実の姿を見せない偽りの森、」



数刻ほど歩いただろうか、少し開けた場所に来た。そこに、数本の1本の大木がある。

そのうちのひとつの樹の根元に、分かりにくいが、扉のようなものがある。

「樹に擬態させた建物なんだよ、仮に人がこの近くを通っても、気がつかないような、」

テースキラは言う。

「霧にここから遠ざけるような幻も含ませているから、この近くに来ることは、ほぼ不可能なのだが、

念には念を、と言うわけだ」

アラクが付け加える。


テースキラは、樹の幹に作られた扉に手をかける。

「この中は……危険と判断したら、戻ってもらうよ。けっこう、命がけ、」


開かれた扉の向こうは、暗く、階段が地下深く続いている。

薄暗く、なんか出そうな雰囲気。

壁から白いもや、有り得ない声、蒟蒻(!)のぶら下がる。

そう、まるで、そう化け物屋敷の入り口のようである。

ここでは、何が出てもおかしくないような気がした。

そんなことはないと思いながらも中へ入る。


少し長い階段の最終地点は扉であった。

テースキラは、扉の右側にあるボタンを押した。

すると、扉は自動的に開く。

扉の先は、拍子抜けするくらい、少し小さめな行き止まりの部屋。


「中へどうぞ、」

アラクは、何も言わず、当たり前のように中へ入った。

「何でも屋さんもどうぞ。さぁ、」

テースキラは、さらに促した。


「……この小さな部屋で何をするのだろう……」

戸惑いながらも、湖族の少年は、その部屋に入った。


この部屋の床はやたらと音が響いた。

「不思議な部屋だなぁ……」

まるで、床の下に何も無い空間があるかのように靴が床に当たるたびに、

奇妙な響きを奏でるのだ。


二人が中にはいるのを確認すると、最後にテースキラが中へ入る。

「準備は良い?閉めるよ、」

壁に設置されたボタンを押すと、扉が閉まった。



これから何が起こるというのだろう。



扉が完全に閉まると、箱が、揺れた。

「わわ」

なんか揺れている。

いや、揺れるとは違う奇妙な感覚。

「なんだ?なんだ?」

うまく表現はできないが、何か、体の中が「ぬわん」とする、そんな不思議な感覚。

何が起きているのか、さっぱり分からない。


「実は、この部屋ごと別のところへ移動している。これは、古代の遺産、古代の技術」

アラクは、突然語りだす。

「古代の?」

「そう、君が生まれるずっと、ずっと、前。火と雷の魔法を使えた時代の事」

世界にまだ海があり、ほぼひとつの文明で統一されていた……

今はもう伝説となってしまった時代の。


「魔法を利用して、光の中を情報が飛び交い、ただの金属が人を乗せて空を飛び……」

「金属が?空を飛ぶ?」

木でできたしゃもじが飛ぶんだから、金属が飛ぶこともありえなくもないのかなと、

思いつつも、やはり信じられなかった。


「金属は硬く重いモノ……だが、しかし、昔は、その金属に頼っていたのです」

「でも、空を飛ぶ道具を作ったのはすごい」

丈夫な布でできた強大な風船を使えば、空の散歩を楽しむことはできなくはないが、

金属で、しかも魔法を使って、空を飛ぶことができるのならば、それはすごいことである。


「……しかし、滅びてしまいました。その技術は、刻とともに消え、刻とともに絶え、

知るものは、人の中にはもういない」

そう、もう、誰も、知らないのだ。知っているのは、それこそ「神のみ」ぞ。


「……本来、世界は、自らの力で常に復元されていました。しかし、度を越えた破壊は、

どんなにがんばっても、元のようには復元できないのです。

気の遠くなるほど長い時間がかかります。そして、どんなに時間をかけても、

昔のように、再び実用に耐えうるものになるのかどうかも分からない……」

アラクは、そのまま黙ってしまった。


箱の奇妙な揺れは、まだ止まらなかった。




★魚の日記「みずうみのかいぶつ」★

みずうみのかいぶつは こわいよーん


でも おいら みずうみで およいでいても 

おおきなかいぶつ みたことないよーん


おいらが いったことのない

ずっと ずっと ふかいところに いるのかよーん?


おいらが しっている みずうみの ふかいところは

みずが うまれてくる おおきないわが たくさん あるよーん

ひかりも とどかない やみのなかでも きらきらしていて きれいだよーん


それが おそろしい かいぶつのしょうたい?

あれって じつは うごいたりするのかよーん

だとしたら おいら こわいよーん


挿絵(By みてみん)

光学迷彩(霧の)、エレベーター、飛行機、光通信……

なんだか、SF色の13-1話。


……このぷかぷか編の世界で、もし飛行機飛ばしたら……

というのか、飛行機を飛ばせるほど広くない!と思う!

せいぜい、気球!

「でも おいらは しゃもじで そらを とびたいよーん」



ちなみに、現実世界で研究されている光学迷彩は、特殊な加工をした物を使って、

物体の背後の映像を外部から投影させたり、光を反射せず後方へ迂回させたりして、

実現すれば、あたかも物体が透明になったかのように見えるらしい。

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