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10・海を求めて、見る夢に。

今回から、なんと、本格的に、世界の謎に迫ってしまう流れ?

いつもとは、ちょっと違う雰囲気?


今回は、ありがちな神話伝説的なものを延々と語っています。

神話伝説という名の『設定』語りです。

 ここはヤチボカ村の図書館。

 世界ができた時からあるという非常に古い図書館である。

『海』について知りたいのなら、ここで調べるというのが定番である。

図書館には『海』について書かれている文献がたくさんあるからだ。


 この図書館のおかげで、一つの湖と、一つの島しかない世界に住む多くの人々でも、『海』という単語だけは知っている。

 しかし、本当の『海』を見たことがない人しかいないので、実際のところ『湖』との違いは、漠然としか分からず、詳しくは分からないのだった。


 文献には、『海』とは満ち引きがあり、水に味があり、渡るのに何十日もかかるほど、とてつもなく広いと書かれている。


 大きさの事はとにかく、湖の浜に行けば波はあるし、水の味に関しても、山を流れている水と、湖と、雨とでは水の味が違うことを知っている。

 ……普段はあまり気には止めていないが。


 それでも、『海』のそれは、想像以上のものらしく、時として波は全てを飲み込み破壊するモノに豹変することもあったという。

 そして、味に関しては、なめてみれば、はっきりとしょっぱい味と感じるのだという。

 汗と同じような味らしいと言われているが、湖よりも大きく広い場所に溜まっているというのも、なんだか想像できない。

 文字の上では、そういうものだと理解できても、想像の上では、なんとも理解できない代物なのだ。


 そんな、『海』についての文献が豊富な図書館に湖族の少年はいた。

例によって、何でも屋さんの仕事を……今日は、文献探しのお手伝いをこなしているのだ。


 湖魚のヨンヨンを連れて、

(例によって、ヨンヨンは図書館に行きたいと言い出したので)

 図書館に行くと、シルルとオルドビスがいた。

 二人とは、モイの酒場で会って以来だ。

 あの時は、オルドビスがヨンヨンのコップを割ってしまって、ちょっとした冒険と言うのか、探検をした。

 今となっては、いい思い出の一つである。


「あ、ヨンヨ~ン♪」

 オルドビスは、ヨンヨンを見つけるなり、近寄ってくる。

 彼は、可愛いものには、目がないのだ。

 さっそく、なでなでしはじめる。

「でも、今日は、遊んであげられないんだ」

「わかってるよーん、がんばってよーん」

「うん、がんばってくるよ」


 最初の方は、オルドビスも本探しを手伝っていた。

 だが、いつの間にか、手伝いもせず、図書館の片隅でヨンヨンと遊び始めた。

「オルドビスは、最初からあてにしてないわ」

 そんな様子を見て、シルルは言う。

 ……酷い言われようである。


「ところで……海と湖について、思うことがあるの」

 シルルは、湖賊の少年に語りかける。

 少年は、軽い気持ちで、その話を聞くことにした。


「なぜ、ひとつの島、ひとつの湖というこんな形になったのか、それは、古い文献、伝承という形でしか残っていなくて、謎が多いの」

 シルルは、海について語りだした。


「水は「身(生命)を繋げる」もの、海は命を『産み』だす場所。

 そんな「海」と言う言葉は、大きな水『大水(おほみ)』からきているとされているの。

 でも、そもそも、湖も、たくさんの水をたたえているから……」


 海も、湖も、実は、同じなのではないかと言うことを、なんだか難しく回りくどく言っている。

 それにしても、まさか、文献探しのお手伝いをしに来ただけなのに、こんな意外な事が待っていたとは思いもしなかった。


(あぁ、そうか、だから……)

 シルルと長く付き合っているオルドビスの事だ、こうなる事は分かっていたはずだ。

 さっさと、逃げ出した気持ちが、今、分かった。

 だから、彼は、ヨンヨンのところに遊びに行ってしまったのだろう……


「もう一つ、『海』を語るうえで忘れてはいけないのは、ウナサカ(海境)という地のこと。それは、海の果てと言う意味らしいのだけれど、『禁断の地』として伝わっています。この世界には、海が存在しないのに、『海の果て』の名称が伝わっているのも、おかしな話ね。ウナサカ……幻の地、神聖な失われた地。禁断であり、伝説であり、幻の地。今は無き『ウナサカ』にあるものとは……勇者とか、選ばれし者ならば、嫌でもそのような場所に行くことになるのでしょうけれど、現実と、夢物語は違うのは、分かっています。しかし、ウナサカは、ロマンあふれます」


 シルルは、湖にはない『ウナサカ』の地に思いをはせている。

 もはや、ひとり別の世界にいるようだ。


 ふと、少年は、辺りを見渡す。


 少し離れた所にいたはずのオルドビスとヨンヨンが、先ほどから静かなのだ。

いるはずの方を見てみると、オルドビスは、机に伏せていた。

 ヨンヨンもその傍らで、寝息をたてている。

 いつの間にか、二人とも眠っていたのだ。


 シルルの言葉には、眠気の魔法がかかっているのだろうか。


(何か、対策を練らないと、いよいよやばいな……)

 湖賊の少年にも、例外ではなく、睡魔は襲い掛かっているのだ。


「ところで、神話や伝説をただの作り話だと思っていません? これらの話は、代々残せるように、工夫されたものなの。神話や伝説が似ているのは、太古の昔に「何か」が起きたことを暗示していて……」


 適当に相槌をうっている少年を気にもとめず、シルルは話し続けている。


「これは確かなんだけれど、昔、海があったという痕跡はあるのです。ただ忽然と消えたとしか思えないの。伝説として、分かっていることは、かつて、一度世界が死んだということだけ。破壊神クロロフルオロカーボンの手によって、天に穴が開き、世界に破滅の光が降り注いで……」


 あまりに話が長いので、湖賊の少年は、ついに、うとうとしはじめる……




「その時に、神が、隔離された世界を新たに創作し、少しの人々と少しの動物たちがこの地へ移り住んだの。新しく作った世界は小さいので、海が作れず、そのため、この小さな世界で生きることを決めたとき、海を失ってしまい……」


 もはや誰も聞いている者はいないのであった。

 しかし、延々、シルルの講義は、まだ続いている。


うとうとと、まどろむ、昼下がり。

湖賊の少年は……夢を見た。


それは、悪夢。

「歴史の見る悪夢。……永遠に繰り返す夢」

それは、歴史の記憶、大地の歴史……


海の伝説、ウナサカの謎の話。

あんな神話のような話を聞きながら、うとうとと、夢うつつになれば、

それに引きずられた夢にならない方がおかしい。


「記憶の見る悪夢。……永遠に失う夢」

もう意識は、もうすっかり夢の中だ。

もう誰の声も、聞こえないはずの、夢の中。


しかし、やはり、声が聞こえてくる。


「大地の見る悪夢。……永遠に滅びの夢」

聞こえてくる言葉は、何か呪文のように、いちいち悪夢を伝えてくる。


もやもやした、夢の空気。夢の重さ。夢の中の重力。


それは、まどろみの束縛の中にある。


「……悪夢の傷跡は、母なるウナサカに消えた」

目の前に、誰かいる。


「しかし、ウナサカの記憶は、いまだ深く見えない……」

自分に向かって、語りかける、誰かがいる。


「閉ざされた宇宙は、開かれた夢を見る。夢は変化を求め、旅路の行きつく先を知る……」

それは、見覚えのある……人物。のはずだ。


「求めるんだ、外の世界を、海を、ウナサカを」

ぼんやりする意識を、どこかで、これは夢の中であると感じている、

そう分かっている意識の中、その人物を、認識しようとする。


確か、どこかで、会っている。


そうだ、あれは、間違いない。しゅりるりだ。

見間違いようがない。


しかし、なぜか逆さまだ。逆さまに浮いている。

浮いていると言うよりも天に足をつけ、逆さまに、立っている。

……重力に逆らっていると言う感じではなく、違和感がない。

もしかしたら、自分がさかさまなのかもしれない。


「気がついたかい……何でも屋さん?」逆さまのまま、言った。

「それにしても、なんで、さかさま?ふふふ♪」

しゅりるりは、空中で、くるくる回って微笑んでいる。

「おっとと、気を抜くと、すぐ回っちゃう♪」

回転していても、目だけは、合っている。

目はにやけている。

……絶対にわざと回っているに違いない。


「そっちが、逆さまなんだよ!」

ついついつっこんでしまう。

自分は、地面に足をちゃんとつけている。自分は、さかさまではない。あっちがさかさまだ。


「自分から見れば、君は、逆さま。君から見れば、自分が逆さま。お互い、逆になるのは、真実だね」

しゅりるりは言う。

もう、どうでもいいよ、この「逆さか」、「逆さではないか」の、やりとり。


「だいたい、何、勝手に、人の夢の中に入ってきているんだよ」

「そうか、ここは、君の夢か……」

しゅりるりは、くるりと、地に足をつける。


「なんで、ここにいるんだよ?」

「なぜ、ここにいるかって?ん~、『ここ』は、どこにでも干渉して、どこにも干渉しないから、

……あぁ、過ごしやすいからかな。うん、これだ!暇つぶし♪暇つぶし♪ふふふ」

「暇つぶしって……」

相変わらず、謎しか残さない要領を得ない発言。


「まぁ、どうでも良いでしょう、そんなことは♪それよりも、君の夢は、ずいぶんと、

世界の見る悪夢まで、近づいてしまったね」

「世界の見る悪夢?」

「世界と言っても、そんな大それたものではなくて、なんというのか、過去の残骸だね。

この『星』に移ろう者たちのユメ、キオク、ヤボウ。時々、現実の世界にちょっかい出すんだよ。

とにかくね、この夢から覚めるには、この助けを求めている夢を救うことをしなくてはいけない。

つまり、この夢に巣食う悪夢の大元、破壊神『クロロフルオロカーボン』を倒さないといけないんだよ」

なんだか、変な夢になりつつある。


(まぁ、夢だから、付き合ってもいいか)

「はいはい、わかりました」


「ノリ悪いなぁ、なんだか、つれないななぁ……この、無味無臭人間め!」

「?」

「味気のない人間ってことだよ♪」

「……はぁ」

このしゅりるりの変なテンションには、正直ついていけない少年なのでした。


「と、に、か、く……はじめようか。それじゃあ、まずは、これ!」

しゅりるりが、指を鳴らし合図すると、全ての色が、失われた。

正確には、失われたわけではない。

古い写真のように、古い記憶のように、色が色あせていく。

薄い褐色の色に置き換わっていく背景。


「な、なんだ、この色は!」

「雰囲気つくり、そういう風に見える魔法、だよ」

さすが、夢。何でもありだな。


「向こうから、文字がやってくるよ」

しゅりるりが指を指す。

あぁ、さっそく、何か、文字がやってきたよ。



”時と共に消え、刻と共に絶え、今はもう無い海”


”海と湖”

”似て非なるもの”


”海、この世界に存在しない水の集合体”

”湖、水でできた海”


”この世界に、なぜ海は存在しないのか”

”存在しなくなったのか”

”太古、何があったのかを知ること”

”引き継がれることなく失われたこと”


”約束の地『ウナサカ』”

”海の『ウナサカ』”



「……」

(あぁ、これが、噂のオープニングのスクロールメッセージと言うヤツなのか……)


いやいやいや、それは、ないだろう、さすがに。


納得しかけたが、少年は我にかえる。


「いくら、何でもありだからって、これはないと思うよ」

しかし、文字は、お構い無しに、次から次にやってくる。


(最後まで、待つしかないのかな……)

多少、あきらめた。



”伝説の悪魔『クロロフルオロカーボン』が、大気に穴を開け”


”悪魔の発する光『菫外線(きんがいせん)』が降り注ぐ……”


”そして、世界は滅んだ……”


”融ける大地に、あふれる海”

”死んだ土、死んだ空”

”外世界からの破壊の光に滅ぶ世界……”


”ひとつの尊い文明が消滅した”

”逃れた人々は、作り出した小さな世界へ移る”


”少しの生物達は、小さな箱の中”

”母なる海を失い、父なる大地を失い、人は、箱の中で、ウナサカを夢見る……”


”しかし、世界の再生のときは、近い……”


そして、文字は、どこか上の方へ消えていった。



「いわゆる、時は満ちたから、どうのこうのってやつだよ」

文字を見送りながら、しゅりるりは、見も蓋もないことを言う。


そして、突然、くるりと方向転換。湖賊の少年の方を見る。

「さぁ、今こそ、旅立つのだ、若者よ♪」

おおげさに、両手を挙げた。


「……しゅりさんは、手伝ってくれないの?」


しゅりるりは、片目をつぶり、人差し指を左右に振った。

「『君が』選ばれたんだ。神の気まぐれ、神の手のひら、暇つぶしに。

自分は、ただ、それを見ている傍観者。それしか許されていない存在♪」

しゅりるりは、ただ、神の手のひらに転がされる人々を見て、楽しむつもりなのでした。


「まぁ、でも、こっそり、手伝うくらいは大丈夫かな。ただ観察して(みて)いるだけは、暇だし……

ばれなきゃ、いいんだよ。こういうのは」


しゅりるりは、1歩、歩き出す。

「そうだ……」と言い、「うふふ」と笑う。

「勇者よ!これを与えよう!受け取るが良い!」

しゅりるりが、再び合図すると、銅の金具が美しい宝箱がふたつ足元に現れた。

片手で持てるくらいの小さなサイズである。


「片方が、ほんの少しのお金。もう片方が、木の棒だよ」

箱を開ける前に、中身をばらしてしまう。


「……それは、役に立つの?」「さぁ?」



とにかく……

こうして、二人は旅立つことにしたのです。



「……どこへ?」「さぁ?」


ふたりに、最初の試練、最初の難関が立ちはだかるのでした。


「勇者が現れる前に、散々破壊と殺戮を続けてきた魔王が、死ぬんだ。

それを、まだ、人間たちも、魔王の手下たちも知らない」

しゅりるりは、突然言い出した。

「それは、ゲームとしては成り立たないよ……」



それにしても、どこへ向かえばいいのか、さっぱりわからない。


「しゅりさんは、よくここにいるんでしょ?本当に知らないの?」

「はっはっは。自慢じゃないけれど、なぁんにも知らないよ♪自分は基本的に見ているだけで、

干渉しないからね。……多少、ちょっかいは出すけれど♪」

ちょっと、どころか、かなり出しているような気がするが。


「ほったらかしも、かわいそうだから、ヒントあげようか?

これは一応、君の夢なんだから、君が念じれば、行けると思う。破壊神ところへも、どこへでも」

何も知らないんじゃなかったのか……と言う突っ込みは、心の片隅に置いておく。

「……そういうものなの?簡単にいくの?」


「だって、これは夢だもの♪何でもありなの」

「そう言われてもなぁ……」

夢とは分かっていても、常識と言う壁が、突拍子もないこの現実に対応できず、想像を阻む。


「そうだ、この木の棒で、進むほうを決めよう」

宝箱に入っていた棒を、地面に立て、倒す。

棒は、森の方を指している。

「あの森の向こうにきっと、破壊神の家があるよ。絶対に」

「いい加減だなぁ……」

しかし、言われるまま、森の方角へ進むしかない。



森の木々は空を完全に覆い隠すことは無く、それほど広くもないようだ。

いたって普通で、土の道もなんとなく整備されている。

散歩するにならば、良い森かもしれない。


「空箱って、使い道ないよねぇ……」

道中、しゅりるりは、開いたままの2個の箱を、宙に投げては、受け取っている。

箱の動きは不規則で、よくもまぁ、不安定な形のものを、器用に操れるものだと湖族の少年は思う。


「おっ、いいところに……」

突然しゅりるりは、空箱を、勢いよく草むらに投げつける。

何か、鈍い音がして、そして、空箱がなぜか、爆発する。

煙の合間から、魔物が、吹っ飛んでいくのが見えた。


「君も、気をつけるんだよ。物陰に隠れて、襲う機会を狙っている魔物が、いるから」

しゅりるりがいる限り、魔物に気がつかないことはないように思えるのだが……


「さて……もう片方は、どうやって、使おうかな……」

しゅりるりは、残った空箱を、片手でくるくる回している。いたづらっこのような笑みを浮かべて。


「……あれ?殺気までたくさんいた魔物、いなくなっちゃったなぁ。つまんないなぁ」

待ち伏せが効かず、そして爆発する箱の恐怖に、魔物は逃げ出してしまったのだろうか。

その箱がある限り、魔物は襲ってこない……そう思えてしまう。


「多分、もう、役に立ってるじゃん、その空箱……」

もはや、何を突っ込んだら良いのか分からなくなっていた。

「あはは♪こうしている間に、もうすぐ、森を抜けるね」



きっと、頭のどこかで、そう、思い浮かべてしまったのかもしれない。

イメージどおりの神殿が、木々の合間から見えてきた。

(あぁ、これは、やっぱり、本当に僕の夢なんだなぁ)少年は思う。


「道を示されれば、道は現れる♪さすが、夢だね。さ、入ろう。きっと、破壊神さまがお待ちかねだ」


神殿の中はいたって簡素で、5本の白亜色に輝く柱が円形に並んでいた。

その中央に巨大な硝子の結晶が浮かんでおり、その中で黒い物が眠っていた。


「あれの黒いもやもやが破壊神クロロフルオロカーボンだよ。さ、行こう」

しゅりるりは、言う。


二人が硝子の結晶の前に立つと、影は、朱色の眼を開いた。

「ここは、過去の遺産、過去の記憶、過去の過ちの収集所……囚われることの無い異邦者よ去れ」

硝子の向こうで、ふたつの瞳が見つめている。


「……返事は?」しゅりるりは、小声で促す。

「……え……」

本音は立ち去りたいのだが、多分、それはしゅりるりが許さないだろう。

「……た、立ち去りません……」

仕方なくそう返事する。


「悪夢を目の前にして、それでも、進むというのか……」

破壊神は、硝子の中で、笑んだように見えた。


「巡る廻る長い記憶……過去を紡ぐ夢、現在を創る者、未来を行く望……長い長い数多の悪夢……

切れない思惑、切ない思い。しかし、終焉の民は未だ箱の中……」

そう、破壊神はつぶやくと、硝子が震える。黒い靄が立ち上る。

それは、容れているモノの中から、自らを脱する言葉。


天を蝕む破壊神クロロフルオロカーボン。

大地を侵す悪魔が人々の悪夢の力を得て、実体を持ち、具現化していく、だんだん形を創る。

「我が名は、破壊神クロロフルオロカーボン。異邦者よ、覚悟するが良い」

破壊神がそう名乗ったのが合図だった。

空気に緊張が走る。今ここに、戦いが始まったのだ。


「海に映る羊を数え、世界は、黎明の見る夢。それは逢魔が時の幻……それは狂々回る歯車の終焉歌」

破壊神は、呪文を唱え、片手を挙げる。


湿気を含んだ生暖かく重たい風が吹きつけてきた。澱んだ黒い空は、獣の嗤の嗤い声をあげる。

何が起こるのか、脳に写る暇もなく、漆黒の塊が、全てを覆った。飲み込まれる世界。


全てを奪う悪夢。それは全てを飲み込む。

そこは、もう、破壊神の得意とする空間、歪んだ世界。


闇の光でできた神の手から、いくつかの闇が放たれる。

湖族の少年は、それをなんとか避ける。

触れていないはずなのに、皮膚がひりひりと、焼けるような軽い感覚を感じた。


闇の着弾したその場所。

そこには、何も残らない空間。変色している何もない混沌。


破壊神の攻撃は、途絶えない。

雷光が、空を駆け抜ける。

時を刻む振動が重々しく、鋭く胸に響き突き刺さるよう。


湖族の少年は、その重苦しさに耐え切れず、地面に伏せる。


しゅりるりは、破壊神の繰り出す魔法を受けても、平然としている。

それどころか、傷一つついていない。

「どうして、しゅりさんは、平気なの?」


「……干渉しないから、干渉されないんだよ」

そう言っている間にも、破壊神の繰り出す魔法が直撃している。

あたった時の爆発や爆風がその魔法の強力さを表している……はずなのだが。

しかし、何の反動もしゅりるりは感じていないようで、本当に、何も感じていないのだろうか、

当たった瞬間には、瞬きさえもしていない。

風になびきやすそうなマントでさえも、ピクリとも反応しないのだ。


しゅりるりは、湖族の少年の耳元でささやく。

「それに……(これは、夢だから)」……そっと、ささやく。

「(夢は幻影。幻の魔法……)これは、単なる独り言♪」


そうだ、これは、夢だった。すっかり忘れていた。

そう知ってしまうと、全くではないが、ほとんど痛さも恐怖も感じないような気がする。


アヤカシが飛び交う濁った川、枯れた花畑、現れる赤い炎。

溶ける大地、動かない生物、揺れて澱む大気。

これらは、幻。単なる恐ろしい夢。


「思い込みって、こわいよね♪」


しかし、そうと分かったところで、どうしたらよいのか分からない。

そういえば、対抗できそうな道具を何一つ持っていなかったのだ。


「困っているようだね♪これを使うんだ!」

少年の心を察したのか、しゅりるりは、何かを投げる。少年の前に、キラリと転がった。

それは、硬貨。あの宝箱に入っていたものだ。

「……何に使うんだよ……」

少年は、ため息混じりにつぶやいた。


「ふっふふ、何を隠そうその硬貨は、神殺しの英雄の血と骨から造られているから、

神という属性を持つモノには、『効果』抜群なんだよ。『高価』な『硬貨』だけにね♪」

……なんて都合が良い設定。取って付けたようなご都合主義的な……寒いギャグの……。


「さっきから、この硬貨の使い道ずっと考えていたんだけれど、これで無事に解決♪」

しゅりるりは、とても満足しているようだった。


「でも、考えてみれば、夢の世界で、お金なんて必要なかったよね♪」

「ならなんで、硬貨を宝箱に入れたんだよ……」

「宝箱の中身には、少しのお金と、木の棒を入れておけば間違いないと、大昔の王様が言っていたの♪」

どこの王様だよ、それ。


よくわからないが、少年は散らばる硬貨を拾い握り締めた。しかし、少年の動きがそこで止まる。

「……どうやって、使うんだよ……」

普通硬貨は、戦闘の武器としては使わない。


「ん~♪掲げてみたり、投げてみたり……あとは、口にくわえてみたり?」

まぁ、それくらいしか、使い道ないよね……


「どうにでもなれ!」

少年は、小さな硬貨を破壊神に力いっぱい投げた。弧を描き硬貨は、破壊神の元へ煌く。

硬貨が、いくつもの眩い光の矢となり、破壊神に突き刺さる。


光の矢が刺さった破壊神は、もう攻撃する気はないようだ、動こうとしない。

穢れたモノを浄化するように、矢が刺さったところから、白い煙を上げ、破壊神は小さくなっていく。

「……悪夢の中のひとつの希望……」

最期の言葉を発し、破壊神は安らかに消えていく。


それと同時に、世界が揺らぎ始めた。

目が覚めていく、夢が終わるような、そんな白くとけゆく世界。


「もうそろそろ、お別れだね」

しゅりるりは、言った。

「悪夢は倒しても、完全には消えない。これは、何回も攻略されるゲームのようなもの。

再び、はじめに戻って、悪夢は復活してしまう。でも……」


しゅりるりの姿もついに風景に溶けはじめる。


「……でも、君は、一時の安息をこの夢に与えてくれた」

しかし、微かに残る感謝の気持ち、救われた夢の記憶だけが、確かにそこにはあった。



「ありがとう……」


 ……少年は目を覚ました。


 図書館の薄暗く変化のない空間、静寂の反響する閉ざされた気配、古い本の匂いで満たされる空気。

 ここは、小さな管理された記憶が集まる世界……

 妙な気分が、感覚が、完全な覚醒を妨げている。

「変な夢を見てしまった……」


 視界の端では、シルルの演説が、まだ続いていた。



★魚の日記「ほろぼすの? ゆめみてゆらゆら」★

むかし うみがあったらしいよーん

もし それがほんとうなら うみ みたいよーん


みずうみと うみは やっぱり ちがうものらしいよーん

おとがして しおとか ミネラルのあじがして

ああ むかしのひとはずるいよーん


むかしに 「なにか」があって 

うみが なくなったらしいけれど

ながいはなしに ねむくなりましたよーん 



ゆらゆらゆれて さまよう かいそうに なったゆめ みたよーん

うみのうえには すばらしい なみがあって もっとゆらゆら ゆられていたいよーん


いっしょにいた にんげんのおかたは なみのうえで ゆらゆらしすぎて くらくらしていたよーん

おいら くらくらするのは いやだよーん


おいらは もともと さかなだから みずが ゆらゆらしても へいきだよーん

おいら さかなに うまれて よかったよーん


うみ うみ うみ うみ

あこがれだよーん

クロロフルオロカーボンは、フロンガスのこと。

オゾン層に穴を開けます。

オゾンがなくなると、大半の生物にとって、有害な光、紫外線(UV-C)が地上に降り注ぎます。


封印された「クロロフルオロカーボン(フロンガス)」が、

星を覆う聖なる守り「オゾン」の層に穴を開け、

破壊の光「菫外線(紫外線)」が地に降り注ぎ……

世界がー!!!


という、ゲームを作ったら、きっとこんな話になるに違いありません。

……と言う話?


呪文のような名前と、天に穴を開ける能力と、なんて恐ろしい魔物、魔王、破壊神なのでしょう!


文学作品で、紫外線を菫外線と書くことがあることを知りました。

確かにVioletは、スミレ色のことですからね……

で、使いたくなったのです。無駄に。


クロロフルオロカーボン(フロンガス)はオゾン層を破壊します。

オゾンは、酸素分子3つでできています。

オゾンは、酸素原子でできているし、紫外線を吸収するという、良いイメージがありますが、一定以上吸ってはいけないのです。肺を悪くしますよ。

(ちなみに、オゾンは活性酸素の仲間。酸素よりも酸化作用が強いから、危険。注意!)


普通の酸素でも、高濃度の中に長時間いると、死ねます。

本来酸素は、生物にとって、毒なのです。

しかし、酸化のストレスにさらされると言う代償を払ってでも、生物の多くは、酸素と言う毒を使って、エネルギーを創ることを選びました。

酸素によって得るエネルギー生産は、すばらしかったのです。


酸素……短時間、低濃度なら、良い効果もあると思うんだけれど、最近流行りのオゾン空気清浄機とか、どうなんだろう?


オゾンには、たしかに、殺菌・殺ウィルス・脱臭効果があり、新型インフルエンザウィルスに効果があるかもしれないと、広告などでは、そううたっています。

しかし空気清浄機だからといって、近くで深呼吸を「たくさん」してはいけません。

先ほども行ったとおり、オゾンは結構、毒なのです。


あとがきでも、雑学でもなくなってしまったような気もしますが、ここまで、読んでくださって、ありがとうございます。


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