序章
初投稿です。
読んでいただけたら嬉しいです。
目覚めたのは、知らない場所だった。
春のような冷たくも暑くもない風が頬を撫でて、それで茅乃の目は覚めた。
東屋とでもいうのだろうか、白い石造りの床と、石材を編んだような透かし模様の入った天蓋がある。それを支える支柱はあるが、この建物に壁はない。
床の上に起き上がって、天蓋から射し込む陽射しを見て、茅乃は首を傾げた。
どうしてこんな所にいるんだっけ?
いつもの見慣れた制服を着て、通学用の革靴を履いている。鞄は見当たらなかった。
広くもない空間の床の端の向こう、そこにはなにも見当たらなかったので立ち上がってそこまで行ってみる。
「・・・・・・・・」
東屋の外側には床や地面が見当たらなかった。少し覗き込んでみると、下方に地表が見える。さらに下を覗き込むと、地表から反り立つような崖の上にこの東屋があることがわかった。
不思議な建物だなぁ。
なんのための建物なんだろうか。こんな崖の上にあっては不便ではないのか。
そんなことを考えながらその場の空間を見渡す。
ほぼなにもない白い石造りの空間には、これもまた石造りの台がポツンとあった。
この空間にあるのはたったそれくらいで、よくよく見てみれば茅乃の腰くらいの高さの台の上にはあまりにも不自然なものが置かれている。
それは、一本の釣竿、だった。
余分な枝を落としたかのような木そのものの素材で、先端にはテグスのような透明の糸が巻き付けられている。さらにその糸の先を辿っていくと、重りのようなものが付けられてはいるが肝心の釣り針が見当たらない。
原始的で、はっきり言ってショボいというのが正直なところだ。
誰かの忘れ物かな。
何気なく手を伸ばして持ち上げたとき、石造りの台が低い音を立てた。
「えっ?」
足元から響く音に驚いて、茅乃は思わず台を見つめる。よく見ると台の上部は丸い凹みがあって、その中央には洗面台のような排水口があった。その部分からチャプチャプと水が迫る音が聞こえる。
「なっ、なにこれ?」
どこから水? と考えている瞬間に、その排水口だと思った部分から水がせりあがってあっという間に洗面台を満たし、果てには台から溢れた。
バシャリと靴はおろか床の上にまで広がっても水の勢いは衰えず、次から次へと水が溢れ出す。
小さな排水口のはずが大量の水を吐き出し、床に落ちた水は見た目よりも強い力で茅乃の足元を浚う。
音を立てて水の中に転び、慌てて起き上がろうとした体ごと水に圧された。
待って待って、このまま端に行っちゃうと・・・・!
どうにか起き上がろうとした茅乃の手は水を掻いただけで、その体はいとも容易く東屋の床から勢いのまま圧し出されていった。




