そうなる運命は決まっていた
そうなる運命は決まっていた。
絹のように艶めく栗色の髪、色素の薄い肌に、桜色の唇をもつ少女。リリー、14歳。
守らなければ、と本能が働くような容姿を持ち合わせた彼女は、簡単に王子のハートを射止めた。
出会いはバーニア国、王都の外れにある野原。
リリーはその場所が大好きだった。
お昼ご飯を食べながら、野原でのんびりするのがお気に入りだった。
そこにある日突然現れたのが、バーニアの王子、バルトロメオ・デッセ・オーガス。
歳はリリーより2つ上の16だ。
彼は、王族として縛られることの苦しさから、城を抜け出していた。
そこで見つけるのだ、まるで妖精かと思うほど、可愛らしく、心優しい少女に。
「リリー。何かいいことがあった?」
「えっ!」
姉のフィーネに問われ、リリーは思わず声を上げる。
「な、何もないよ。それよりお姉ちゃん。お仕事の時間だよね? これ、お弁当」
実は今日、また想い人と会えるのだとは口が裂けても言えない。
ロメオと名乗った金色の髪をした彼が、身分ある人だとはわかっているので、釣り合わない恋は自分の中に閉まっておこうと決めているのだ。
「ありがとう、リリー。留守番、よろしくね? 何かあったら御守りを握って私を呼ぶのよ?」
「もう。お姉ちゃんは心配性だなー! 大丈夫だよ。お姉ちゃんこそ、夜遅くまで働いて、身体を壊さないか心配だよ。やっぱりわたしも働こうかな……」
血の繋がりのない姉は、たったひとりで自分を育ててくれている母とも言える大事な存在だ。
「ダメです。お願いだから、私の目を盗んで、勝手にそういう事はしないで」
「はーい。でも、お姉ちゃんも気をつけてね?」
「うん。行ってきます」
フィーネは支度を終えると、行ってきますの挨拶と共に、リリーを抱きしめ額にキスを落とす。
どれだけ忙しくても、これをやってからしか家を出ない姉は、誰がなんと言おうと自慢の姉だ。
リリーが物心ついた時には、フィーネがいた。
父と母については、未だに言葉を濁されるが、彼女と自分に血の繋がりがないと話してくれた。ショックだったが、感謝を覚えた。
6歳しか離れていないのに、両親がいない中、繋がりもないのにフィーネがリリーを育てたことに変わりはないのだ。
「もう少しでお姉ちゃんの誕生日なんだよなぁ……。何かプレゼントをしたいんだけど。今年も料理くらいしかできないかな」
頭のいい姉は、役所の試験に一回で合格し、夜まで働いている。
リリーが一人で家にいる時に何かあってはいけないと、騎士団や医療機関が揃っている王城の近くの建物に住んでいるので、家賃が高いのだ。
「あっ、もうこんな時間! スープを煮込もうと思ってたんだ」
金髪の彼に、美味しいスープを飲ませたくて、リリーは朝から準備を始めた。
*
お昼の準備をし、リリーは身支度を整えて野原に向かう。
籠の中に入ったスープが冷めないうちに、彼が来て欲しいな、と考えながら道を進めばあっという間に緑が広がる。
「リリー。こっち」
「ロメオさん!」
想定外にも、彼の方が先に野原に来ており、リリーの胸は高鳴る。
陽に照らされた金色の髪が眩しくて、クラクラしそうだ。
それからは他愛もない話をし、ふたりで仲良く昼食を済ませる。
「へぇ。お姉さんの誕生日?」
「はい。お姉ちゃん、来月誕生日だからお祝いをしたいんですけど……」
毎月もらえる姉からのお小遣いは貯めてあるが、何をすればいいかわからなかったのでロメオに尋ねる。
「……今度、西地区でお祭りがあるんだ。マーケットもあるし、何かいいプレゼントが見つかるかもしれない」
「そうなんですか!」
目を輝かせ、リリーはロメオの話に食いつく。
「ああ。……その、もしよかったら、俺が案内しようか?」
「ぇ、いいんですか?」
「もちろん」
待ち合わせの時間と場所を決めてその日は別れる。
言うまでもなく、リリーとロメオは祭りの日を待ち望んだ。
*
「お祭り?」
「うん。行ってもいい? お友達に誘われて……」
リリーが顔を赤らめる様子を見て、フィーネは直感した。
相手は、ただの友達などではないと。
「…………そっか。じゃあ、飛びっきりお洒落しよう。お祭りだもの」
少しの沈黙のあと、フィーネは笑みを浮かべた。
「いいの?!」
「うん。今日は仕事、早く上がるから。出かける準備をして待っていて。行ってくる」
いつもの挨拶をして、フィーネは家を出る。
職場に向かうフィーネの表情は暗かった。
「そうか。そろそろお別れか……」
フィーネは知っていた。
リリーとこの国の王子が結ばれることを。
それは何故か。
リリーが彼と結ばれ世界を救うと予言された、今は他国の支配下に置かれたカッサル王国の姫——リリアーナ・デュオ・ストレインジ——だからだ。
リリアーナが1歳の時。
カッサルが信頼を寄せている占い師が、そう予言した。
占い師の大婆様は同時に、リリアーナが2歳になるとカッサル国に危機が訪れ、このままでは死んでしまうとも進言した。
カッサルの王と王妃は苦渋の決断を迫られることになる。
そうして、リリアーナを守り育てるのに抜擢されたのが、当時7歳の天才、フィーネであった。
そんな子供をリリアーナの従者にしたのも、大婆様の言伝だ。
星の加護を受けているフィーネが、14になるまでリリアーナを守れれば、安泰、と。
予定では、フィーネ以外にもリリアーナを街で育てるのに大人が付くことになっていたが、リリアーナが2歳の時、他国からの侵攻で急遽フィーネがひとりでリリアーナの面倒をみることになった。
フィーネは、優秀な宰相と騎士の間に生まれた子だった。
まだ子供にも関わらず、大人顔負けの頭脳を持ち、幼いなりに戦い方も理解していた。
リリアーナの予言を受け、フィーネもその運命の渦に巻き込まれる訳だが、文句は言わなかった。
リリアーナを守れと、初めて両親が自分に下した任務だったからだ。
1年間、リリアーナの為に寝る暇を惜しんで学び、12年後、ちゃんと姫としての振る舞いができるような教育の方法も頭に叩き込んだ。
「12年、か……」
安否のわからない両親が気にかかる事もあったが、リリアーナを育てる事でいっぱいいっぱい。
辛いときもあったが、腕の中でスヤスヤ眠る可愛い姫様を見れば、何だって頑張れると思った。
しかし、それももう終わりだ。
リリアーナがバルトロメオ王子と結ばれることが確定したら、フィーネの12年に及ぶ任務が終了する。
フィーネは職場に着くと、黙々と仕事をこなし、早々に切り上げてリリーの待つ家に帰るのだった。
*
祭りの当日。
フィーネも休みを貰い、こっそりリリーの護衛に付く。
変装してはいるが、案の定リリーの隣にいるのはバルトロメオ王子だ。
(まぁ、そうでなくては困るけど……)
着飾ったリリーは人目をひく。
フィーネが彼女に合うように手配したので、当然と言えば当然だ。
仲睦まじく、祭りを回るリリーと王子に複雑な気持ちになるが、見失わないようにしっかり見張る。
気配を探れば、王子側の護衛もひとりだけだが付いているようだし、もし何かあれば配置についている警備隊がリリーを守ってくれるだろう。
「そこのお姉さん。ひとり?」
後ろから声をかけられ、フィーネは心の中でウンザリする。
リリーのために生きてきた彼女に、恋人などいたことはないが、こうして寄ってくる者は少なからずいた。
「間に合っているので、他の人を当たってください」
こちらはリリーの護衛中。
バッサリ断って、フィーネは尾行を続けた。
家族連れ、元気に駆け回る子供達、腕を組んで歩く男女。参加している人々は様々だが、皆、祭りを楽しみにやってきている。
かくいう自分は、普段と何も変わらない。舐められないようにと、大人びて落ち着いた服装を身に纏い、最低限の化粧をし、髪は下の方にひとつにまとめるだけ。
祭りから浮かないように、もう少し洒落た格好をするべきかとも考えたが、あいにくそんな服は持ち合わせていなかった。
「お嬢さん。おひとりですか?」
そんな自分に話しかけてくる奴など、高が知れている。フィーネは呆れながら、声をかけてきた男性を振り返って固まった。
(……この人。王子に付いてる騎士だ)
王子の周辺にいる人物は既に把握している。彼は、王も重用している第1騎士団に所属する、バルトロメオの騎士だ。
尾行していたのがバレたと考えるのが妥当だろう。
でなければ、こんなに顔が整っていて、身体つきもしっかりした男性が話しかけてくるはずがない。
チラリと視線を落とすと、彼の腰に下げた剣には、国の紋章が刻まれている。
「……騎士様ですか。ひとりですが、どうかされましたか?」
平静を装ってフィーネは応えた。
「今は勤務中ではありませんよ。……よろしければ、一緒に祭りを楽しみませんか?」
爽やかな笑みを貼り付けているこの男は、確実に自分を疑っている。
フィーネは腹をくくった。
別に悪い事をしているつもりではないので、今後を考えるとここは身の潔白を証明した方が良さそうだ。
「お誘いは嬉しいのですが……今、妹が心配で見張っている最中なんです。こんな女と回っても楽しくないと思いますよ?」
「妹さんですか?」
表情には出さないが、彼の目はフィーネを探る。
「はい。血は繋がっていないのですが、とっても可愛い子で、つい心配で付いてきてしまったんです。あ、ほら、あそこにいる栗色の髪をした女の子」
フィーネの本心からの言葉だったので、ニコリと笑って騎士を見る。
「……そうでしたか。妹想いの良いお姉さんなんですね。是非、一緒に回りましょう」
彼がどう判断したかは、まだわからないが、腕を引かれては仕方ない。
騎士様もお仕事だろうから、フィーネも諦めて彼と行動することにした。
「お嬢さんのお名前を聞いていませんでしたね? わたしはセオ・エレンツォ。御察しの通り、騎士をしています」
「私はフィーネ・レイリー。城下町の役所で働いています」
「それは凄い。役所に勤めるには、試験を突破しないといけませんよね?」
「ふふ、頑張って勉強しましたから」
世辞に決まっているが、フィーネもなるべく愛想よく返事を返す。
「騎士様も、お若いのに騎士団に所属されるなど、素晴らしいですね」
食えない会話の攻防が続くが、少ししてセオとフィーネは同時に怪しい気配を察知した。
服に仕込んでいる鋭くて強い糸がいつでも出せるように、フィーネは確認する。
お腹が空いたのだろう、リリーとバルトロメオは屋台で軽食を買うとベンチに座る。
バルトロメオは飲み物を買いに行くのに、席を外した。
「あんなに可愛い子をひとりにするか? 普通?」
思わず本音が漏れてしまい、騎士の視線が突き刺さる。
「騎士様もそう思いますよね?」
腹が立ったので黒い笑みで同意を求める。
セオは何も言わなかった。
そうこうしているうちに、ひとりになったリリーの元に男が寄ってくる。
「騎士様、ちょっと妹を助けてきてください」
早くいけ、と背中を押す。
「え、ちょ……」
どうやら騎士も王子に見つかりたくないらしく、行きたがらない。
リリーは男に囲まれ、そこに見知らぬ女性が助けに入った。
「……騎士様。しっかりしてください」
呆れてため息をつくと、セオがじっと見つめてくる。
「君は本当に……」
「はい?」
「いえ、なんでもありません」
何かを言いかけてやめたが、続けたかったのは「君は、本当に彼女の姉なのか?」だろう。
「っ! フィーネさん、リリーさんの姿が」
セオの焦った声にハッとしてフィーネもリリーがいたベンチを見る。
そこには彼女の姿はない。
「やはり、リリーの事は把握済みですか。さっさとロメオ様を呼んできてください。探しますよ」
二人の会話で、フィーネは一度もリリーの名前を言っていない。
慌てたセオは墓穴を掘ったのだ。
「……ご存知でしたか」
「当たり前です。可愛いリリーに近づく男は全て把握済みです」
そこからの行動は早かった。
セオはバルトロメオを探しに行き、リリーの捜索を始める。
さすが、次期王の器だ。子供だと思っていたが、バルトロメオは冷静な対応をとってみせる。
しかし、リリーが囚われている場所を見つけ出すと、騎士の制止も聞かずにすぐさま駆け出した。
混乱に乗じて、フィーネもバルトロメオらに続く。
街の外れの小屋から助けられたリリーは、泣きながらバルトロメオの名前を呼んでいた。
(……私のことは、呼んでくれなかったのか)
魔術を使う大婆様が持たせてくれた御守りに願ってくれれば、フィーネはいつだってリリーの元に駆けつけることができる。
「お、お姉ちゃん?」
やっとフィーネに気づいたらしいリリーは、姉の姿をみて目を丸くした。
「……無事でよかった」
「っ! お姉ちゃん!!」
フィーネがいることに安心したのだろう。
リリーは小さな子供のように彼女に抱きつく。
「怪我はない?」
「ちょっと擦り傷ができただけだよ。ロメオさんが助けてくれたから大丈夫。……お姉ちゃんはどうしてここに?」
上目遣いで尋ねられ、どう答えたものかとフィーネは思考する。
「……リリーがお祭りを楽しみにしているのを見たら、私も来たくなっちゃったの。そしたら可愛い女の子が拐われたって聞いて、騎士様についてきたの」
無理はあるが仕方ない。フィーネは笑って誤魔化した。
「……こんなことになっちゃって、ごめんなさい」
眉を垂らして謝るリリーに、許し以外の言葉は見つからない。悪いのは、攫ったほうだ。
頭を撫でながら、フィーネは言う。
「いいよ。リリーが無事なら。お祭り、楽しかった?」
「……うん」
こくりと首肯するリリー。
「なら、ロメオ君には責任を持って、夜の祭りも案内して貰いなさい。……ロメオ君、いいですか?」
側にいたバルトロメオは、フィーネの提案に目を見開くも、すぐに肯定の言葉を返した。
「お姉ちゃんは?」
バルトロメオの手をしっかり握ったリリーが振り返る。
「先に帰って家で待ってる。ちゃんと送ってもらうんだよ?」
「……うん」
何かを迷ったような表情で、リリーはフィーネを見た。
「どうかした? 一緒に帰りたい?」
「あ、え、ううん。そうじゃなくて……。その、お姉ちゃんはお祭り、いいの?」
フィーネはリリーの問いが一瞬理解できなかった。
流石に数時間前に拐われたリリーを、バルトロメオが再び目を離すことはないだろうし、騎士を動員した時点で彼がリリーに想いを寄せていることは知れ渡ったはず。
配置された騎士たちも気を遣うだろう。
安全に夜の祭りを楽しめると、フィーネは判断した。
そしてリリーには拐われた分の時間を、楽しい思い出で埋めて欲しかった。
だから、もう自分が祭りに紛れる理由はない。
でも、リリーが言わんとしていることは、そういうことではないのだろう。
単純に、フィーネが祭りを楽しまなくていいのか、という質問なのだ。
「私は十分楽しんだから平気よ。あ、これ、お小遣い。帰ってきたら、たくさん話を聞かせて」
夜遊ぶ分のお金を渡し、フィーネは微笑む。
リリーさえ楽しければ、支障はないのだ。
「ありがとう、お姉ちゃん……」
「うん。いってらっしゃい。あまり遅くなってはダメよ?」
小さく手を振って、ふたりを見送る。
「……いいお姉さんなんですね」
声をかけられたが、フィーネは振り向かない。
隣に立ったのは、セオだった。
「私、これでも怒ってるんです。彼には早急に手を打って貰わなくては困ります。今後同じようなこと、いや、これ以上の危険がリリーに起こった場合、こちらも黙ってはいないのでご注意を」
「……君は、妹さんにどうなって欲しいんだ?」
ロメオの正体をわかっているフィーネが強気なので、セオは彼女が何を考えているかを知りたかった。
彼らからすれば、バルトロメオとリリーには大きな身分差がある。
立ちはだかる壁も、高く見えるのだ。
「リリーが笑っていられるなら、なんだっていいです」
正直、フィーネは予言なんてものはもうどうでもよかった。人生の大半を一緒に過ごし、リリーはかけがえのない存在となっていったのは必然的なことだろう。
「……彼といることで、辛いことがあるとしても?」
「リリーはちょっとやそっとじゃ折れない強い子です。私が不甲斐ないばかりに、必要な贅沢もさせてあげられなかった。……これからは、ちゃんと幸せになって欲しい」
自分は何でもできる天才だと思い込んでいた時を思い出すと、今でも己に腹が立つ。
もっと上手くやれば、姫までは行かずとも令嬢並みの贅沢をさせることができたかもしれない。
自分の力の無さに、憤りを覚えるばかりだ。
「……大切なんだね、彼女が」
「そんな言葉じゃ言い表せられないほど、リリーは大事です」
だから、とフィーネは続ける。
「ロメオ様にも、覚悟を決めてほしい」
横目でセオを見るフィーネは、真剣だ。
相手が王子であろうと、彼女にとって一番の優先者はリリーであることを表明したも同然だった。
*
それからの進展は早かった。
リリーが拐われたのを受け、バルトロメオ王子は正式に彼女を城に迎えることを決定したのだ。
薄々バルトロメオが誰なのか感づいていたリリーも、王子と聞いて驚くが、心から彼のことが好きだから何が待ち受けようと付いていくと、フィーネに誓った。
王子は、国王にリリーを迎えることについて、今までになく真剣に話をしたそうだ。
わがままを言わない王子だったので、国王もリリーが16になるまで婚約の期間を設けてから結婚は検討することを条件に受け入れた。
フィーネには自分の役目を果たさなくてはいけない時が来ていた。
リリーの身元の確認が急がれ、『リリー・レイリー』という名が偽名だとバレるのも時間の問題。
真実を告げて、リリーがそれをどう受け止めるのかは、言わない限りはわからない。
失望されるか。
責められるか。
困惑させるのは確かなことだろう。
「リリー。城に行こう。大事な話があるの」
自分がどんな顔をしていたかはわからないが、リリーが心配そうな表情でこちらを見るので、いつも通りの顔ではないのだろう。
突然の訪問だったが、ふたりは城に通される。
客室で待っていると、バルトロメオがセオを引き連れて現れた。
「どうかしたのか?」
「えっと、わたしじゃなくて、お姉ちゃんが……」
先程から一言も話さない姉に、リリーは不安でいっぱいだった。
こんな彼女は、初めてみる。
「バルトロメオ王子。突然の訪問、大変失礼しました。しかし、無礼を承知で申し上げます。どうか、国王陛下もご臨席の上、私の話をお聞き願いたい」
想定外の申し出に、バルトロメオは従者であるセオと顔を合わせる。
「陛下はお忙しい。わたしが後から伝えるのでは、駄目なのだろうか?」
「……お国に関わるお話ゆえ、それは出来かねます」
「……お姉ちゃん?」
リリーはこのとき初めて、フィーネが怖いと思った。
いつもと全く違う彼女に、その場にいた全員が眉間に皺を寄せる。
「……ならばどうか、陛下に『青い百合はここに』とお伝えください」
それならば、とバルトロメオはすぐに国王に知らせを入れる。
その言葉にどんな意味があるかはわからないが、それくらいは邪魔にならないだろうと踏んだのだ。
だが、バルトロメオたちに陛下へそれが伝わったと連絡は来なかった。
王が妃を引き連れ、直々に客室に出向いたのだ。
「父上?! それに母上も」
まさか現れると思っていなかった人物が登場し、バルトロメオが驚きの声を上げる。
ここで一番冷静だったのは、フィーネであろう。
「お目にかかれて光栄です。フィーネ・アナスタシスと申します」
彼女は王の前で、正式な作法を取る。
「ぇ?」
聞いたことのないファミリーネームに、リリーは声を漏らした。
「生きていたのか……」
「はい。しかし、まだお伝えしていないのです」
「……そうか。とりあえず座りなさい。話はそれからだ」
静まり返る客室に、お茶と菓子が置かれる。
メイドたちが部屋を出て、人払いを済ませると、王が口を開いた。
「アナスタシス。話して良い」
「はい」
一体今から何が起こるのかと、部屋には緊張感が漂う。
「率直に申し上げます。リリー。あなた様はカッサル国第一王女、リリアーナ・デュオ・ストレインジ様でございます」
「え……?」
まさか自分のことだとは思えず、リリーは困惑を露わにした。
「ど、どういうこと? カッサル国? 王女?」
「はい。あなたは姫様です」
「な、なんで? じゃあ、わたしのお父さんとお母さんって」
「現フレグリア領カッサル国、国王ダイモン様と王妃シェリー様でございます。12年前のフレグリアによる侵攻の際、おふたりは苦渋の決断であなた様を国外へ逃がしたのです」
リリーは、フィーネが言っていることはわかるのだが、理解ができない。
「わたしがカッサルの姫? お父さんとお母さんは、わたしを逃した?」
「……はい」
フィーネはゆっくり頷く。
バルトロメオは黙って話を聞いていたが、困惑するリリーの手を握った。
「ロメオさん……」
「俺もいるから、とりあえず、最後まで話を聞こう」
「……はい」
頷いたのを確認し、次は国王が話し出した。
「カッサルとバーニアは元々親交があった。カッサルの大婆様の占いには幾度となく助けられたものよ。そして、リリアーナ姫、あなたが1歳の時、その大婆様が予言を出した。姫はバーニアの王子と結ばれ、世界に安泰をもたらすと。しかし、同時に姫が二つになるとき、カッサルに危機が訪れるとも予言された。このままでは、リリアーナ姫の命が危ないと」
「だから、国の外へ?」
バルトロメオの問いに、国王は頷く。
「予言があってから、わたしの元にも便りがあった。しかしそこには、姫とバルトロメオの事しか書いておらず、カッサルの危機についてまでは述べられていなかった。……ダイモンが余計な気を使ったのだろう。知っていれば、力を貸せたかもしれぬものを……。侵攻のあとから入った通達で、姫が国を出たことを知った。そこには……星の加護を受けた娘が14になるまで必ず守り抜くから心配するなとあった」
国王は、フィーネに視線を移す。
「安否が掴めず、もう駄目かと思っておった。まさに灯台下暗しだな」
「本来であればバーニアに着いてから、すぐにでも姫様のご生存をお伝えするべきところを、私の判断でこの様な形をとってしまいました。……罰は受けます。申し訳ありませんでした」
そう。
本当なら、フィーネの任務はもっと早くに終わっているべきだった。
しかし、彼女はリリーのことを伝えなかった。
私情を挟み、リリーと少しでも長く居たかったのだ。加えて、たとえ運命でも、リリーの意志で恋した相手と結ばれて欲しかった。
「……頭をあげよ。姫は無事にバルトロメオに出会えた。それでよい」
「ご寛大なお言葉、感謝いたします……」
フィーネは頭をあげた。
そして、まっすぐリリーを見つめる。
すっかり驚いて俯いてしまったリリーは、フィーネのことなど見ていなかった。
「姫よ、さぞ驚いたことだろう。しかし、そなたは受け入れなくてはならぬ。この国の次期王妃としてな」
国王の言葉に、リリーはパッと視線を移す。
「覚悟はあるのだろう? バルトロメオと共に生きる」
「……はい」
まだ迷いの見える表情ではあったが、リリーはバルトロメオの手を握り、しっかり頷いた。
その日から、リリアーナは姫として城に住むことになった。
用意された部屋で、リリアーナは先程言われたことを反芻した。
「わたしがお姫様……。お父さんとお母さんは生きてる……」
リリアーナは親のいない子として育った。
突然、両親は生きていて王族だと言われても現実味のない話なのだが、会ってみたい、そう思った。
自分のことを愛してくれるような親なのか、どんな気持ちで国から逃がしたのか、知りたいことは沢山ある。
突拍子も無いカミングアウトだったが、リリアーナはその事に怒りは感じなかった。
むしろ、これで少しはバルトロメオとの身分を気にしなくて済むだろう。
コンコンコン、と扉を叩く音がしてリリアーナは上質なソファから立ち上がる。
扉の向こうにいたのは、フィーネだった。
「お姉ちゃん……」
「……姫様。お時間を頂いても?」
自分のことを姫と呼ぶ姉は、知らない人のようだ。
とりあえず中に入れ、フィーネと向き合う。
「姫様。私が不甲斐ないばかりに、今までのような暮らしをさせてしまい、申し訳ありませんでした」
フィーネはリリアーナの前で跪いた。
「え、お、お姉ちゃん。わたし、全然気にしてないよ! だからね、椅子に座ろう?」
「私は平気です。姫様は優しすぎる。これからは身分というものを、わきまえなくてはいけないのですよ」
「お姉ちゃん……」
「私のことは、フィーネとお呼びください。姫様」
跪いたままのフィーネに、リリアーナは狼狽えた。
「フィ、フィーネ。座ろう?」
「……かしこまりました」
やっと腰を上げてくれる姉に、リリアーナは初めて気まずいと感じた。
「おね……フィーネ。フィーネは今でもわたしのお姉ちゃんだよ? これからも側にいてくれるよね?」
リリアーナの人生の大半を、フィーネが占めている。そんな家族同然のフィーネがいなくなるとは、考えていなかったが、そんなことを尋ねていた。
「……姫様は怒っていらっしゃらないのですか? 本来なら、庶民のような暮らしなどせず、姫としての生活を送れたはずなのですよ。御両親と一緒に」
フィーネは顔を歪める。
「それが出来なかったから、わたしを国の外に出したのでしょう? それとも、お父さんとお母さんは、わたしが嫌いだから逃がしたの?」
「ッ! そのようなことは断じてありません。陛下と妃殿下は、あなた様を手放すことに断腸の思いで決断を下されました。妃殿下など、毎晩あなた様を抱きしめながら泣いていらっしゃいましたよ」
「……お母さん、か。そっか。もうわたしは赤ちゃんじゃないけど、同じように愛してくれるのかな……」
「もちろんです」
フィーネの必死の弁解に、リリアーナは笑う。
「お姉ちゃんがそういうなら、大丈夫な気がする」
「……そう、ですか」
フィーネは言葉に詰まった。
本当のことを知っても、リリアーナは自分のことをお姉ちゃんと呼んでくれるのだ。
「姫様……。私はしばらくバーニアから離れます。姫様のお側にいられるよう鍛えて参りますので、ご心配なさらず、どうか姫としてのお勉強をなさってください」
「……それが終わったら、フィーネはまた側にいてくれるの?」
「はい。誓います」
その言葉に安心したのだろう、リリアーナはホッと肩の力を抜く。
「フィーネが頑張るなら、わたしも頑張る!」
「……無理をなさらない程度にしてくださいね」
「うん!」
話を終え、フィーネはリリアーナの部屋から出る。
バーニアを去ることは、国王にも連絡済みだ。
彼女はこれから故郷のカッサルへ、任務の遂行を報告しに帰る。
リリアーナの部屋の前で、フィーネは拳を握る。
「……どうか、お幸せに」
時は満ちた。
後は、カッサルがフレグリアから独立すれば、全てがうまくいく。
何事も大婆様の予言通りだった。
13年前にくだされた、フィーネだけしか知らない予言。
『無事、姫が王子と出会えたら、お前はカッサルに報告にくる。そして、独立戦争が始まり、お前が終止符を打つ。星の導きを受けし子よ。茨の道を進む覚悟はあるか』
一言一句、忘れることのない大婆様の言葉。
(リリーのためなら、喜んで茨の道も進みましょう)
踵を返し、フィーネは城を後にした。
***
見事、フレグリアからの独立を果たしたカッサル。
優秀な参謀による作戦で、被害を最小限に終結を迎えた。
12年前に亡くなったとされた、第一王女の生存が公となり、カッサルは祝福の色に染まる。
王女リリアーナは、両親との再会に戸惑いつつも、自分を愛してくれる親というものを知り、感極まって涙を流したそうだ。
驚いたことに、その王女はバーニアの王子と婚約を結ぶとも知らされ、さらに嬉しい波紋が広がっていった。
だが、その歓喜とは打って変わり、リリアーナに笑顔はなかった。
食事もろくにとることができず、痩せていくばかり。
「リリアーナ……」
バルトロメオも声をかけるが、リリアーナは弱っていった。
リリアーナは両親との再会の数日後、家族同然に慕っていたフィーネの安否が確認できないことを知ったのだ。
フィーネと別れてから、リリアーナは姫としての教養を学ばされたが、どれもすぐに身体に馴染んだ。
それは、フィーネが彼女の知らないうちに、姫としての振る舞いや教養を教えていたからだ。
それに気がついたとき、リリアーナは無性にフィーネに会いたくなった。
バルトロメオや国王との夕食でも、ついつい姉の話ばかりしてしまい、王妃に微笑まれたこともある。
しかしその話の中で、最初から最後までフィーネがたったひとりでリリアーナを育てていたこと。それも、まだフィーネが20にも満たない娘だと明らかになった。
そのとき唖然とした国王たちの顔をみて、それが異常なことだとリリアーナは初めて気がついたのだ。
「お姉ちゃん。どこにいるの?」
たとえ血の繋がった両親と再会しても、12年一緒にいたフィーネとの絆に勝るものはない。
ベッドの上で、姉を想うと涙が出る。
振り返ってみれば、リリアーナはフィーネが年相応に遊んでいるところを見たことがない。
いつもしっかりしていて、リリアーナの為に働いていた。
窓の外をみれば、いつのまにか月が昇っている。
リリアーナはふらりと部屋を出て、夜の城をひとりで歩く。
「リリアーナ姫?」
声をかけられそちらをみると、バルトロメオの近衛騎士のひとり、セオがいた。
「セオさん……」
「……こんな夜遅くに女性がひとりで歩くのは感心しませんね。……でも、どうです? 裏庭に出てみませんか。きっと気分転換になるでしょう」
リリアーナはセオの気遣いに感謝して、ふたりで裏庭に出る。
夜の庭は、日が昇っているときとは違い、優しい闇にほんのり花の香りがした。
「……わたし、お姉ちゃんのこと、何も知らなかった」
リリアーナは独りごちる。
「今思い返せば、お姉ちゃんはいつもわたしのために戦ってた。一緒にお風呂に入ってたとき、お姉ちゃんの身体にはたくさん傷があったんだけど、大丈夫だから心配しないでっていつも笑って……。自分のことは気にしないのに、わたしのことになるとなんでもしてくれて」
だんだん涙声に変わるリリアーナに、セオは何も言わず話を聞く。
「わたし、お姉ちゃんが遊んでいるところなんてみたことがない。こ、恋人だっていたことがないと思う。たとえ、お父さんたちに言われた任務でも、お姉ちゃんがわたしを大事に育ててくれたことは、わたしが一番わかってる。心配しないでって笑ってたけど、絶対お姉ちゃんの方が辛いに決まってるのに、わたしは……」
ぽつり、ぽつりと涙が溢れ、リリアーナのドレスにシミを作る。
「お姉ちゃんに会いたいよ。それで、今度はわたしがお姉ちゃんを支えたい」
涙をぬぐい、シミになった服を見て彼女は目を見開く。
「あ! 御守り!!」
いつも首から下げている石を、襟から出すと、セオを見る。
「セオさん! お姉ちゃん、見つかるかもしれません!」
「それは、どういう?」
居ても立っても居られずに、セオに説明する間も無く、リリアーナは石に願いを込め始める。
「お姉ちゃん、帰ってきて!」
石が光を放ち、眩しくて目を瞑る。
再び目を開けたそこには、驚いた顔をしたフィーネが立っていた。
「お姉ちゃん!!」
リリアーナは彼女の姿を見つけると、すぐに抱きつく。
しかし、フィーネの異変にすぐ気がついた。びくりと肩を震わせ、恐る恐る抱きついた腕を離すと、その姿を捉える。
「姫様……申し訳ありません」
「お姉ちゃん……腕が……」
暗くてよくわからなかったが、フィーネの左腕の袖が虚しく揺れていた。
フィーネは力尽きたように、その場に崩れ落ちた。
フィーネが戻ってきたと、夜の城は騒ぎになった。
ベッドに運ばれた彼女は、疲労困憊もいいところで、身体中傷だらけだった。
フィーネを診た医師も、思わず顔をしかめる。
「……まだ若い女子なのに」
左腕はなくなり、打ち身や切り傷がのこる肌。
髪も、無残に切られていた。
運ばれた2日後にやっと目を覚まし、フィーネは開口一番リリアーナの名前を呼んだ。
「すみません、姫様。……お痩せになりましたか?」
「お姉ちゃんの馬鹿! わたしの心配なんかいらないよ! こんなに傷だらけで!」
「……フレグリアの方は、もう手出しができないようにして来ました。もう大丈夫です。遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」
起き上がって頭を下げようとするフィーネに、リリアーナは傷に障らない程度に抱きついた。
「頑張りすぎだよ、なんでこんなになるまで」
「……あなたが私の全てだから。リリーが笑っていられるためなら、なんでもすると自分で決めたのです」
女性にしては硬い右手で、フィーネはリリアーナの頬をなぞる。
優しく微笑まれたリリアーナは何も言えず、ただフィーネを見つめた。
*
その後、フィーネは城で順調に回復を遂げる。話を聞きつけたカッサルの王も、自らバーニアに赴き、彼女にそれ以上はない賞賛を贈った。
「フィーネよ。お前はよくやってくれた。先に逝ったお前の両親たちも、報われることができただろう」
「……勿体無きお言葉です」
フィーネは王—ダイモンの前で、深々と頭を下げる。
「12年、よく耐えてくれた。これにてフィーネ・アナスタシス、我が娘の護衛の任を解く。今後は自分のために時を過ごせ」
「ハッ」
フィーネには一生遊んでも使い切れないほどの大金が用意された。
リリアーナはその話を聞いて悲しい顔をしたものの、今まで自分のために犠牲にしてくれた時間の分、フィーネにはこれからの人生を楽しんで欲しいと、笑顔で彼女を送り出すことを決めた。
トランクバッグを片手に、上質な服をなびかせ、フィーネは門の前で立ち止まる。
「姫様、どうかお幸せに」
見送りに来てくれたリリアーナに、目を細め、口角を上げる。
リリアーナは悲しみと喜びを混ぜたような、なんとも言えない表情で、「ありがとう」と口にした。
「フィーネ……っ、お姉ちゃんも、絶対幸せになってね!」
それでも感極まったリリアーナは、涙を流してそう叫ぶ。
フィーネは少しだけ目を見開いた後、ゆっくり頭を縦にふる。
「お元気で」
意を決し、フィーネはリリアーナに背を向けた。
門番に見送られ城門を抜けると、ゆっくり歩いていた歩調が速足に変わる。
気がついた時には走り出していた。
走って走って、周りはどんどん人気が少なくなっていく。
ふと足を止めると、そこは林の中。
大きな木の切り株の前で、彼女は泣いていた。
行くあてなど、もう、どこにも無かった。
嘘でもいいから、リリアーナに「行かないで」と言って欲しかった。
片腕になってしまった自分では、もうリリアーナの側にはいられないし、王の厚意を無下にすることもできない。
止まらない涙を拭うこともせず、フィーネはただ現実を受け入れようとしていた。
パキン、と背後で小枝が折れる音がする。
フィーネは振り返った。
息を切らしたセオが、フィーネの顔を見て目を見開くのがわかる。
一瞬で何かを悟った表情に変わると、セオはハンカチを手渡す。
フィーネは無言でそれを見ると、セオに視線を移した。
なかなか受け取らない彼女に、セオはハンカチをフィーネの顔に当てる。
「あ、あの……?」
我に返ったフィーネは後ずさった。
「……行くのか」
「え?」
セオと話すのはこれで数回目。
しかし今回のセオは、今までになく真剣な表情でフィーネを見つめている。
「そんなんで、どこに行くんだよ」
核心を突かれた問いに、フィーネはぐっと身体を強張らせた。
「……フレグリアに行こうかと」
出来るだけ明るく答えると、セオは怪訝な顔に変わる。
「行くな」
それがどれだけ危険を孕むことなのか、セオにわからないはずがなかった。
彼はフィーネの肩に手を置く。
「行くなよ。君だって、本当はどこにも行きたくないんだろ?リリアーナ姫の側にいたいんだろ?」
自分でも口に出せなかった思いを彼に言われたフィーネは、唇を噛んでセオを睨んだ。
「それが出来れば、どれだけ良かったでしょうか」
止まったはずの涙が、溢れ出す。
「私はもうリリーの元にはいられない。父も母も死んだ。リリーの消息がわからないように、カッサルでの私の情報も消されている。帰る場所はない。……どこに行くかって? もうフレグリアが不穏な動きがないか見張るくらいしか、私にできることはありません」
フィーネは右手の袖でゴシゴシ涙を拭う。
心の中で、止まれ止まれと言いながら。
その手を、セオが掴んだ。
「俺のところに来い」
彼は左手でフィーネの涙を拭う。
突拍子もない提案に、彼女は言葉を失った。
しかし、セオの真摯な眼差しと、ちらりと見えた赤くなった耳に、徐々に鼓動が早くなる。
(もしかして———)
どうやら人生、まだまだ彼女の知らないことはたくさんあるらしい。
***
「星の導きを受けし子よ。茨の道を進んだその先に、お前の未来は光に輝く」
ニイッと口角を上げた老婆が、蒼穹に浮かぶ星を見上げる。
そうなる運命は決まっていた————